電気を止める技師
【本文】
鳥居奈々は、電気を作る方法より先に、止める順番を決めた。
地域網の設備図には、後から追加した配線が増え続けている。誰かが善意で繋いだ延長線もあり、一本の故障がどこまで影響するか分からない。
奈々は全ての回路へ番号を振った。赤は医療、青は水、黄は冷却、白は生活。赤と青には別系統の予備を用意する。
停電試験を告知すると、不安の声が出た。医療機器が止まったらどうするのか。暗闇で子どもが転んだらどうするのか。
だからこそ、故障してからではなく今試す。
午後二時、生活回路だけを十分間止めた。非常灯が点かない通路が二つ、無線の届かない寝床が三つ見つかる。予定外の冷蔵箱も一台停止した。
奈々は失敗を隠さず、図面へ赤線を引く。非常灯を移し、無線中継器を追加し、冷蔵箱を黄回路へ繋ぎ直す。
電気が戻ると拍手した者もいた。
奈々は成功ではないと言った。止めたから、止まってはいけない物を見つけられた。
次の試験日は三日後。今度は予告せず、担当者だけへ時刻を知らせることになった。
予告なし試験では、驚いて医療区画へ駆け込む人が出る可能性がある。真理と佳乃は、非常灯が点いたらその場で待つ、階段を使わない、担当者の声を聞くという三項目を事前に伝えた。訓練時刻は知らせなくても、行動だけは共有する。奈々は停電を人々の反応まで含む設備試験と考え、観察担当を各区画へ置いた。
試験結果は成功と失敗に分けず、動いた設備、動かなかった設備、人が迷った場所の三欄で記録することにした。
記録は次の当番にも読める言葉で残した。
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