最深部の選択
【本文】
モモの光が消えると、岳は自力で立ち上がった。
背中の打撲は残っているが、骨折はしていない。代わりにモモは湊の掌へ収まるほど縮み、返事もできなくなっていた。
ひび割れた黒い球体から、濁った液体が床へ落ちる。重殻二体は動きを止め、鉄柱に挟まれた疾影も煙となって崩れた。
『守護核の機能停止を確認しました』
冷たい声が響き、空洞の奥に白い扉が現れた。
「帰還条件は制圧だった。壊す必要はなかったのかもしれない」
朔の言葉に、誰も返せなかった。
扉の先は小さな円形室だった。中央の台座に、人の頭ほどの透明な結晶が置かれている。内部には黒い雲と金色の光が渦巻いていた。
湊が近づくと、選択肢が浮かぶ。
『第一迷宮核を発見しました』
『破壊』『放棄』『所有』
破壊すれば出口が開き、全員へ大量のポイントが与えられる。放棄すれば侵入前の状態へ戻される。所有を選べばポイント報酬は減るが、この場所の管理権を得る。
破壊という文字だけが、急かすように明滅していた。
それが余計に不自然だった。
岳は湊へ判断を押しつけなかった。小春は掌のモモを見ている。朔は壁に刻まれた細い文字を撮影していた。
湊は結晶へ触れた。
「所有する」
大量の報酬より、ここで何が起きているのかを知る必要がある。モモを閉じ込めた黒い根が残っているなら、放置もできない。
結晶の金色が湊の腕へ流れ込み、頭の奥に無数の部屋と通路が重なった。
『所有者を登録しました。初回攻略報酬を付与します』
声は通知と同じ無機質さだった。
しかし掌のモモだけが、怯えるように微かに震えた。
(次話へ)




