娘を守りたい男
【本文】
入口閉鎖を求めた父親、長谷川誠は、地上避難所への物資搬送を手伝い始めた。
意見を変えたわけではない。娘の食料が減る不安も残っている。それでも体育館へ箱を運べば、外の人を地下へ入れずに助けられる。
誠は在庫表を厳しく確認した。送った箱の数、戻った空箱、途中で失った量。周囲には疑い深いと見られたが、千鶴は監査役として正式に任命する。
ある日、体育館へ送る予定の油が一缶多いことに気づいた。美和の記入ミスだった。誠は盗みと決めつけず、調理場と物流双方の表を照合する。
間違いを直し、一缶は地域網へ戻された。
「外へ渡す分を減らしたいわけじゃない」
誠は言った。「分からないまま減るのが怖いんだ」
千鶴は、その怖さを消す約束はできないと答えた。代わりに、全て記録し、誰でも確認できるようにする。
娘は父親が運んだ箱へ、自分の絵を一枚入れた。
体育館から戻った空箱には、別の子どもの返事が貼られていた。
対立した意見は消えなくても、同じ箱を往復させる仕事は続けられた。
誠は搬送へ出る前、娘へ帰還予定時刻を伝えた。以前なら危険な仕事を隠して安心させようとしたかもしれない。今は遅れた時に誰へ相談するかまで一緒に確認する。娘は父親の腕へ自分と同じ番号札を結んだ。避難所で使う番号が、離れた家族を探す印にもなる。誠は箱だけでなく、自分も記録される側になった。
戻った誠は、予定より十二分遅れた理由と箱数を娘へ話した。説明できる帰還を一回ずつ積み重ねる。
娘は返事の絵を寝床へ飾り、次に運ぶ箱へ新しい紙を一枚用意した。
(次話へ)




