裏道の先
【本文】
裏道は、畑と用水路の間を通る細い農道だった。
消防車は入れない。安西、岳、若い消防士、運搬型ゴーレムが徒歩で進む。道を教えた体育館の避難者も、入口まで同行した。
救助先は二階建ての住宅。高齢夫婦が二階へ取り残され、一階には侵食体が入り込んでいる。黒い床が広がり、触れた家具をゆっくり沈めていた。
正面から入れば足場を失う。裏の畑から梯子を掛け、二階窓を使う。
岳が《荷重固定》で梯子を支え、消防士が先に上る。夫は歩けるが、妻は寝たきりだった。ゴーレムの荷台を窓の高さまで上げ、布担架で移す。
侵食体が壁を越え、二階へ黒い筋を伸ばした。岳は盾で押さえず、家具を固定して進路を塞ぐ。
四人が畑へ降りた直後、一階の床が崩れた。
夫婦を地域網へ入れる空きはない。体育館の医療区画で受け入れると拓郎から返答が届く。
疑いを持っていた男が、今度は二人の寝床を準備して待っていた。
裏道を教えた避難者は、次の班のため農道の危険箇所へ白い布を結んだ。
妻を窓から移す前に、消防士は普段使う薬と姿勢を夫へ聞いた。横たえ方を変えるだけで呼吸が苦しくなる可能性がある。ゴーレムの荷台へ厚い布を敷き、体を固定する位置を調整した。能力で早く運べても、患者の状態を知らなければ危険だった。畑へ降りた後も小春へ無線で呼吸数を伝え、体育館到着まで記録を続けた。
体育館では寝台の位置を入口近くへ変更し、ゴーレムが人の間を通らず患者を降ろせるようにした。
妻の服薬時刻を夫から聞き、体育館到着後に由香へ繋いだ。移動で治療を途切れさせない。
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