残された側
【本文】
市民体育館の避難者・宮本拓郎は、地下へ運ばれる二人を見送った。
自分の母は発熱している。それでも選ばれなかった。医師から危険度は低いと説明されても、納得と安心は同じではない。
地域網から来た高校生たちは、特別な治療場所を持っている。そこへ身内だけを入れ、自分たちは地上に残されるのではないか。そんな疑いが胸に残った。
だが彼らは帰らなかった。
天井の危険箇所へ支柱を入れ、トイレの水を運び、発熱者用の区画を作る。食料箱には数量と搬入元を貼り、体育館職員へ鍵を渡した。
小春は拓郎の母をもう一度診察し、二時間後に再検温すると約束する。約束の時刻も紙へ書いた。
拓郎は母の寝床へ戻った。熱はあるが、会話はできる。地下へ運ばれた胸部負傷者には、今の母より設備が必要だったことも分かっている。
それでも怖さは消えなかった。
二時間後、小春は戻ってきた。体温、水分、呼吸を確認し、体育館側の医師へ記録を渡す。
拓郎は初めて、選ばれなかったのではなく、ここで見続ける人がいるのだと思えた。
拓郎は、物資箱に地域網の残量が書かれていることへ気づいた。余った物を送っているのではなく、地下側も減る量を見せている。体育館職員も受領数と配布先を記録し始めた。疑うことをやめたわけではない。疑った時に確認できる紙があることで、噂だけで相手を決めつけずに済む。拓郎は次の定時連絡で、母の体温を自分から報告した。
拓郎は次回の診察が遅れた場合に呼ぶ無線番号も教わった。約束を待つだけでなく、届かなければ確認できる。
(次話へ)




