表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑令嬢シレーヌ・ロラン  作者: 赤井"CRUX"錠之介


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/30

悪女無用(7)

「ずいぶんと汚い所ですのね。まあ、あの女の腹の中と同レベルですけど」


 呟いたのはシレーヌだ。不快そうな表情を隠そうともしていない。




 クリムヒルドの招きに応じ、シレーヌはたったひとりで指定場所へとやって来た。

 馬車を降りたシレーヌの目の前には、殺風景な小屋が建っている。ホワイト家の別荘と聞いていたのだが、ただの物置小屋にしか見えない。窓の立て付けが悪いのか、時おりギシギシ音が鳴る。

 周囲は、ボロ布や廃材を利用した掘っ立てて小屋などがある。おそらく、河原者が住んでいたのだろう。しかし、今は人の気配は感じられない。

 すぐそばにあるのはゼーレ川だ。ベルサーユのちょうど真ん中を流れており、スフラン国でもっとも広く長い河川である。時おり、水の音が聞こえてくる。

 小屋の庭に設置された椅子には、クリムヒルドが座っていた。白いテーブルに白い椅子が置かれ、パラソルまで設置されている。しかし、みすぼらしい小屋や、暗く物悲しい風景には全く似合っていない。

 趣味が悪すぎるのか、あえてのミスマッチ狙いか……だが、シレーヌにとってはどうでもいいことだった。


「こんな場所に呼び出して、いったい何の用ですの?」


 冷たい口調で尋ねたシレーヌに、クリムヒルドは苦笑しつつ答える。


「その前に……あなた、どういうつもり? パーティーにお招きしたのに、その格好はないですわ」


 そう、シレーヌの服装はパーティー向きとは言えるものではなかった。黒いシャツにズボン、腰にはレイピアをぶら下げている。令嬢というよりは、暗殺者のような出で立ちだ。


「パーティー? 何を仰っているのやら。あなたの後ろに控えている人相の悪い男たちもまた、お客様だと言うつもり?」


 シレーヌは、表情ひとつ変えずに言い返した。

 確かに、彼女の言う通りであった。クリムヒルドの後ろには、山高帽を被ったスケードに、大男のカークスがいる。どちらも、シレーヌに敵意ある視線を向けていた。

 さらに、黒衣の男が五人だ。マントを着てフードをすっぽり被っている。顔形はわからないが、まともな人種でないことは間違いないだろう。時おりカチャカチャという金属音が聞こえるのは、彼らの忍ばせている凶器の音だろう。


「フッ、彼らはわたくしの忠実な部下です。何かあれば、人ひとりくらい簡単に殺しますわ」


「どうせ、そんなことだろうと思っていましたわ。で、ここにわたくしを呼び出した理由は何? ひょっとして、わたくしのことを殺す気?」


 恐れる様子もなく言い放ったシレーヌに、クリムヒルドは笑いながら首を横に振った。


「いいえ、そんなことはしませんわ。わたくし、あなたとお友達になりたいの」


「友達?」


 訝しげな表情のシレーヌに、クリムヒルドは笑みを浮かべ頷いた。


「そうよ。あなたは、イザベル王妃様の妹君。そして、わたくしはホワイト家のクリムヒルド。わたくしとあなたが組めば、怖い者などありませんわ」


「なるほど。で、わたくしと組んで何をするつもり?」


「そうねえ……まずは、王族の仲間入りといきましょっか。あなたの口添えがあれば、簡単ですわよね?」


「では、王族の仲間入りがあなたのしたいことなの?」


「いいえ、それはあくまでも通過点。わたくしの望みは、この国の王妃になることよ」


 その時、シレーヌは溜息を吐いた。


「わかったわ。ならば、わたくしのしたいことも教えてあげる。ひとつは、自由に生きること。もうひとつは……」


 言いながら、シレーヌはレイピアを抜いた。


「あなたのような腐れ外道を、地獄に送ること」


「は、はい? 何を仰っているの?」


 思わぬ展開に怯みながらも、クリムヒルドは余裕を見せつけようと笑った。だが、シレーヌの表情は変わらない。


「聞こえなかったの? ならば、もう一度。わたくしの望みは、あなたのような性根の腐った外道女を地獄に送ることですわ」


 途端に、クリムヒルドの顔つきが一変する。美しい顔が、鬼のような形相になったのだ。


「この卑しい雌犬が……王妃の妹だからと甘やかしておけば、身の程知らずなことを。しょせん、体に流れる卑しき血は変えられないようね!」


 言った直後、クリムヒルドは黒衣の男たちを睨みつける。


「今すぐ、この愚か者を捕らえなさい。殺しては駄目よ。生かしたまま、たっぷり痛めつけてあげるから」


 その言葉に、コンビクト族の者たちは動いた。瞬時に間合いを詰め、シレーヌを取り囲む。

 だが、シレーヌに動揺する気配はない。レイピアを構えたまま、クスリと笑う。


「あなたは、わたくしを罠にはめたと思っているようね。でも、それは逆。罠にかけられていたのは、あなたの方よ」


「な、何を言っているの?」


 クリムヒルドが答えた時だった。突然、銃声が響き渡る。

 と同時に、黒衣の者のひとりがバタリと倒れた──


「やれやれ、こんな場所に潜むのはこれきりにしたいものですな」


 言いながら、掘っ立て小屋より現れたのはモリアーティだ。拳銃を構え、そっと前に進みでる。


「な、何者ですの!?」


 声をあげたクリムヒルドに向かい、モリアーティは丁寧にお辞儀をした。


「ロラン家の執事をしておりますモリアーティです。今宵は、皆様を地獄旅行にお連れするため馳せ参じました」


「何ですって……みんな、この男も殺しておしまい!」


 クリムヒルドが怒鳴り、スケードが山高帽のつばに手を伸ばす。

 その時、ザバーンという音が響く。何かと思えば、ゼーレ川より飛び上がった者がいたのだ。上半身は裸だが、両手にそれぞれトマホークを握っている。

 

「インジャン・ジョーだ! 悪いなぁ、あん時は遊んでやれなくて! 今夜は、たっぷり相手してやるぜ!」


 叫ぶと同時に、インジャン・ジョーは襲いかかる。

 戦いの幕が、切って落とされた──


 コンビクト族は、完全に不意を突かれた。にもかかわらず、すぐさま態勢を立て直す。

 まず、ジョーの周囲を四人が取り囲んだ。いずれも腕の立ちそうな男たちだ。手には短剣を持ち、低い姿勢でジョーの動きを牽制する。さすがのジョーも、この囲みは簡単には破れない。

 もっとも、相手方も同じ状況である。ジョーの腕を見抜いており、下手に攻撃すればカウンターの一撃で殺られることをわかっているのだ。

 ジョーと黒衣の男たちは、睨み合ったまま対峙していた。だが、徐々に男たちの輪が狭まっていく。それに伴いジョーも下がっていき、やがて背中が掘っ立て小屋の壁についてしまった。

 壁を背にする……後ろからの攻撃は受けないが、移動もしづらくなったということだ。


 大男のカークスはというと、シレーヌに襲いかかった。口を開け、金属の牙で迫っていく。

 しかし、そこでモリアーティの拳銃が火を吹いた。カークスの胸に当たり、シャツが赤く染まっていく。

 と、そこでモリアーティを襲ったものがある。スケードの投げつけた帽子だ。咄嗟に身を低くし躱したが、帽子は自動的にスケードの手へと戻っていく。


「魔法ですか。これはまた、厄介な武器ですな」


 呟いたモリアーティ。一方、カークスは胸に銃弾を受けたが、怯む気配はない。またしてもシレーヌへと襲いかかる。

 シレーヌは、噛みつきをバックステップで躱した。同時に、レイピアで切りつける。

 レイピアの一撃は、カークスのシャツを切り裂いた。だが、カークスの動きは止まらない。流れる血をものともせず、なおもシレーヌへと向かっていく。モリアーティが拳銃で狙うが、またしてもスケードの帽子が飛んできた。すんでのところで避けるも、帽子は戻っていく。

 どうやら、カークスがシレーヌを、スケードがモリアーティを仕留める算段らしい。ジョーは四人に囲まれ動けない状態だ。まずはジョーを四人がかりで片付けてから、残るシレーヌとモリアーティを仕留めようという作戦なのだろう。

 明らかに不利な状況だ。しかし、シレーヌたちは平静な態度だった。そう、彼女たちには、まだ切り札が残っているのだ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ