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処刑令嬢シレーヌ・ロラン  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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悪女無用(3)

 その夜、屋敷の地下に皆が集合した。

 

「あのホワイト家だがな、とんでもねえ連中を飼ってるらしいぜ。コンビクトとかいう殺し屋の一族だってよ」

 

 インジャン・ジョーが言うと、ジャックが不快そうな表情になった。


「じゃあ、僕に帽子投げたのも、そのコビト族なのん?」


「コビトじゃねえ。コンビクト族だ」


「どっちでもいいのん。あいつ、僕のことゴミ鼠とか言ったのんな。絶対に殺してやるっチャ」


 言いながら、ジャックは細身の短剣を抜いた。すると、モリアーティが口を開く。


「コンビクト族ですか。噂には聞いたことがあります。一族代々、殺し屋の家系であることは間違いないでしょう。しかし、必要もないのに血を流すような者たちではないはずですがね」


「そのホワイト家のクリムヒルドが、とんでもない性悪なのよ。たぶん、あの女が悪さを命じてると思う」


 言ったのはシレーヌだ。続いて、ジャックもウンウンと頷く。


「ああ、あれは性悪なんてもんじゃないのん。ニコニコ笑いながら、人を殺せるタイプなのんな。間違いなく、人を何人も殺してる顔だっチャ」


「顔だけで、そこまでわかるものですか。凄いですね」


 感心した口ぶりでボルトが言うと、ジャックは偉そうに胸を張った。


「ふふん、当然なのんな。僕はなんたって殺しのプロなのん。見ればわかるっチャ」


「何を言ってんだよ。とにかく、明日もう一度行って調べてみるよ」


 ジョーが言うと、続いてモリアーティも口を開く。


「では、私めはホワイト家の屋敷を見回ってみるとしますかな。そのクリムヒルド嬢、果たして処刑するに値する者かどうか、見極めんといけませんな。お嬢様はどう思われます?」


 その言葉に、シレーヌは首を横に振った。


「今のところ、依頼は来ていない。クリムヒルドが誰かを殺して回っているという証拠もない。でも、ジャックの勘は当たっていると思う。念のため、皆でもう少し調べてみて。もし、あの女が罪を犯して回っているとしたら、然るべき裁きを与えないと」


「あと、屋敷を調べるなら気をつけるのん。あの帽子野郎、腕は立つのんな」


 ジャックのその言葉は、先ほどまでと違い真剣なものだった。モリアーティは、苦笑しつつ頷く。


「わかりました。まあ、私は取っ組み合ったり走ったりということは苦手です。少し見回るだけですよ」




 翌日の夕方、ジョーは非人街にいた。しかし、入ると同時に異変を感じてもいた。

 昨日と違い、しんと静まりかえっている。通行人もいない。だが、人の気配はする。誰かが、物陰からジョーの動向を見張っているのだ。


「おいでなすったかい」


 ジョーは呟き、腰にぶら下げたトマホークに手を伸ばす。

 その時だった。そばにあった掘っ立て小屋が、突然崩れ去ったのだ。

 慌てて飛び退いたジョーだったが、直後に顔をしかめた。

 小屋の残骸から現れた者は、異様な大男であった。身長は二メートルを超えており、筋骨隆々とした体つきだ。肌は白く髪は栗色で、ジョーを見下ろす目にはあからさまな殺意がある。

 だが、それよりも恐ろしい特徴があった。男の口から覗く歯は、金色に光っていたのだ。


「おいおい、随分とおっかないアクセサリーしてんな」


 軽口を叩きながらも、ジョーはじりじり後退していく。下手な騒ぎは、なるべくなら起こしたくない。しかし、この大男は脅したくらいで引き上げるタイプではない。話し合いも無理だ。

 戦うか逃げるか、ふたつにひとつだ。


「お前だな、余計なことを嗅ぎ回っているのは」


 言いながら、大男は徐々に間合いを詰めてくる。頭は悪そうだが、戦いの経験はそれなりにあるのだろう。ジョーのことを恐れている様子はない。侮っている気配もない。

 その時、ジョーは背後にも人の気配を感じた。何者かが、こちらに接近している。それもふたりだ。目の前の大男を合わせれば三人。

 囲まれてしまった。こうなると、まずは囲みを突破せねばならない。


「これでもくらいな!」


 怒鳴った直後、ジョーはトマホークを振り上げ背後に視線を向ける。が、これはフェイントだった。パッと視線を戻し、大男にトマホークを投げつけた。

 しかし、大男も人間離れした技を見せる。なんと、投げつけられたトマホークを口で受け止めたのだ。刃の部分に、己の金属の歯で噛みつき止めていた。

 さらに、トマホークの柄を握り、瞬時にへし折る。直後、ゴミでも捨てるようにポイッと放り投げた。

 もっとも、ジョーはそんな怪物じみたリアクションなど見ていなかった。その隙に、大男の脇をすり抜け走っていったのだ──


「カークス! 何やってんだ! 追え!」


 その声に、大男は何が起きたか理解したらしい。慌てて向きを変え、ジョーの後を追う。他のふたりも、カークスに続いた。

 しかし、ジョーの姿は消えていた。入り組んだ路地裏に入り込み、さらに塀を乗り越えて走り去っていったのだ。こうなると、地形を知り尽くした者の勝ちである。

 カークスらは、引き上げるほかなかった。


「フゥ、とんでもねえ奴らだったな」


 ポロ切れの下で、ジョーは一息ついた。

 カークスとかいう大男は、人間離れした化け物だ。他にもふたりいたが、かなりの手練であるのは間違いない。

 たかが身元を探ったくらいのことで、あんな奴らをよこすとは……つまりは、探って欲しくない事情があるということだ。

 やはり、クリムヒルドという女はまともではない。


「お嬢、こいつは処刑した方が良さそうだぜ」




 その頃、モリアーティはステッキ片手にのんびりと歩いていた。傍目には、中年紳士の散歩にしか見えないであろう。

 しかし、彼は散歩をしているわけではない。ホワイト家の屋敷を、外から偵察しているのである。

 今のところ、特におかしな点は見受けられない。モリアーティは、ゆっくりと屋敷の周囲を回ってみた。

 その時だった。前から、ひとりの女が駆けて来たのだ。寝間着のようなものを着ており、顔は死人のように真っ青だ。体は痩せており、走る姿は見ていて危なかっかしい。転倒したら、手足が折れてしまいそうである。


「おやおや、これはどういったことでしょう」


 モリアーティが呟いている間にも、女はこちらに近づいてくる。だが、途中で倒れた。

 明らかに普通でない状況だ。モリアーティは、一瞬は躊躇した。しかし、すぐに彼女のそばに近づいていく。

 運良く、そこに馬車が通りかかった。モリアーティは、彼女を連れて馬車に乗り込む。すぐさまロラン家の屋敷へと帰っていった。


 ◆◆◆


 その夜、ホワイト家の屋敷では──


「なんですって!? 逃げられたというの!?」


 叫び声をあげたのは、クリムヒルドだ。学園での顔が嘘のように、恐ろしい形相で地団駄を踏んでいる。

 彼女の前にいるのは、非人街でジョーを襲ったカークスである。巨体を丸め、申し訳なさそうな表情を浮かべている。


「お前たちは三人も揃っていながら、ひとりのゴロツキを殺すこともできないの!? この能無し! 役立たず! だいたいね、お前たちがジョーを殺しに行ったせいで、警備が手薄になってヘレンが逃げたのよ!」


 喚きながら、クリムヒルドはカークスに蹴りを入れた。一度で終わらず、何度も蹴り続けている。カークスは、面目なさそうに無抵抗でされるがままになっていた。

 しばらくして、スケードが口を開く。


「それにしても、このカークスたち三名の襲撃を躱してみせるとは……インジャン・ジョーという男、ただのゴロツキではありませんな。私が調べてみるとしましょう。ついでに、消えたヘレンの行方も探さねばなりませんな」


 その言葉に、クリムヒルドは忌々しげな表情で答える。


「どうかしらね。単に、このカークスがバカだっただけかもしれなくてよ。あとね、ヘレンのことは問題ないわ。あの女に飲ませた毒は特注品よ。この国に解毒剤はないわ。お父様よりも先に、あの世にいくことは間違いなくてよ」




 



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