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戦占たる者どもの道しるべ  作者: いぬぶくろ
22/24

二十一

 どかっ、と荒々しく献身の魔女が泊まっている宿の馬留に腰かける。

 つながれていた馬たちが、俺の座り方に文句を言いたそうにこちらを見たが、話が通じそうな相手ではないと悟ったのか、馬はそのまま草を()み出した。


「さて、どうすっかな……」


 どうするも何も、やることは変わらない。ここで怖気づいては、暴虐の魔女に呪いを施してもらってまで過去へ来た意味がない。

 命を投げうってでも、魔王誕生を防ごうと思っていた。その覚悟と共に、同じく深い所では軽く考えていたフシがある。


 何度でもやり直しがきく。いつからか、俺は自分の命がいくつもあると思っていた。

 人の命は一つしかない。死ねばそこで終わり。つまり、俺は今、人に戻っただけだ。

 ならば、腹も据わったということだ。生きて、ヨウリの元まで戻ってくる。相手は、まだ魔王になっていない。ならば対応することも問題ない。


「隣に座るぞ」


 俺の了承を得る前に、ティーダは隣に座って来た。

 俺一人分なら問題なかったが、女性とはいえ成人の体重がかかると、馬留からミシリという音と共に少しだけたわんだ。


「私は頭が良くないから今一度聞くが、『魔王が居る世界から戻って来た』とはどういう意味だ?」


 アインの勧めから、ティーダにはここで全て打ち明ける手はずになっていた。

 昔から難しい話を聞くと、耳を閉じ耳も閉じてしまい考えることを止めてしまうらしい。

 なので、引くことができない所へ無理矢理にでも連れてきて、衝撃的な話を予備知識も身構えもなしでぶち込むことで理解させる方法がとられた。

 その結果は、俺と同じ感じで馬留に座ることになった。


「俺だけじゃなく、アリル王子とフリオも同じ時と場所から戻ってきました。理由は、魔王を殺すため。結果はこの状態です」

「死んだってことか?」

「俺とアリル王子は、頭を潰されて。フリオは、頭が元気よく体から飛んで行ってしまいました」


 ふざけていうと、ティーダに肩を軽く殴られた。


「死ぬこと、死んだことを、ふざけて言うな」

「はい」

「それで、お前はどうするんだ?」

「どうする、とは?」

「不死身の呪いか? そんなものがあるのかはなはだ疑問だが、お前らが今までやって来たことを鑑みれば、多少は信じてもいいと思った。それが無くなったのであれば、次は死ぬだけだろう?」

「そうですね。ですが、人は死ぬものです。皆と同じ位置に戻り立っただけで、やることは変わらないし、気持ちも変わらない」

「もし死んだら? ヨウリはどうするつもりだ?」


 そこだけが心配だ。わざわざ、山奥の村から連れてきて未亡人にするのも申し訳ない。

 いや、まだ結婚していないから未亡人でも何でもないが……。


「その時は、ティーダ様に頼んでも良いですか?」

「……私は女だぞ?」


 一瞬、何を言っているか分からなかった。しかし、若干イラッとした声色だったのですぐに思い至った。

 死に行く男が、妻を「頼む」と言えば後妻に迎えるなり、次の結婚相手を探してくれという意味だ。

 それを女性のティーダに言えば、「私は女だ」というのも無理はない。――そんな訳がないだろう。普通に、ティーダの頭がおかしいだけだ。


「もとより、死ぬ気はありません。そのために、こうして魔王が誕生する国へ赴き、魔女にも約束を取り付けました。さらに、魔王は誕生していない。これ以上、無いってくらいの高環境ですよ」


 全てが後手後手に回っていた、魔王軍に攻め滅ぼされるあの世界よりは。


「そのためにも、アリル王子たちが動いているんです」


 そういい、頷く。



「そりゃ、どういうことだよッ!!」


 気付けば声を荒げ、ドンと強くテーブルを叩いていた。声を上げたのは、もちろん俺だ。


「魔王を誕生させるところが見たい!? ふざけているのか!」

「ふざけている状況じゃないからこそ、こうやって話しているんだろう」


 声を荒げる俺に対し、アリル王子は冷静だ。それが、無性に腹が立つ。

 ここがまだ魔女の部屋で良かった。もしレグレス第二王子がここに居たら、相手が王族であろうと睨みつけていただろう。


「協力を取り付けにいくだけだったはずなのに、どう転がったらそんな話になるんだ?」


 珍しく、終始話を聞いていたフリオが腕を組み、難しい顔で聞き返した。しかし、その声色は落胆と信じていた奴に裏切られた、という感情が見て取れる。


「レグレス第二王子とルウ王子は学者だったってだけだ。後学のために、魔王誕生は記録に残しておかなければいけない、と言い、こうなった。パルシオン王国でカウセス王国の兵を動かすためには、協力するしかない」

「魔王は全ての国にとって脅威のはずだ。それも、自分の国で誕生しようとしている――そもそも、魔王が誕生して一番に滅ぼされた国なんだぞ!?」

「そんなこと、もちろん伝えてある。その上で、この結果だ。俺たちに残された道は、これしかない。このふざけた道をたどり、魔王を殺すことだ。幸いなことに、誕生した瞬間を見られれば満足してくれるらしい。それに、過去の文献では魔王は誕生した瞬間から力があるわけではない。どのくらいで元の力を手に入れられるかが分からないが、なったその一瞬で決着をつける」


 アリル王子から威勢の良い言葉が出てくるが、本気でそう思っているのだろうか?

 無理だとは言わないが、かなり部が悪くなるだろう。

 アルリ王子とレグレス第二王子が来たことで、町全体の警備体制が強化されている。魔王信仰者たちだって警戒するだろう。


「俺の方は、こういう形で終わった。それで、お前たちは、どうなった」

「フリオは問題ないが、俺に施された『不死の呪い』が動いていない」

「どういうことだ?」

「発動条件が変わっただけかもしれないが、今のままでは俺は戻ることができない」

「それは……本当か……?」


 先ほどとは打って変わって、アリル王子は震える声で俺を見た後、献身の魔女を見た。


「呪いが消えていないので、先ほどユウトさんがお話したように、発動条件が変わっただけの可能性があります。ですが、このままですと、死ねば終わる可能性が高いです」


 献身の魔女から放たれる無慈悲な言葉に、アリル王子は頭をかかえ天井を仰ぎ見た。


「つきまして、身分が違う身でありながら余りにも失礼ではありますが、呪いを見せてはいただけないでしょうか?」


 献身の魔女は、アリル王子に言う。俺だけではなく、アリル王子もその可能性があるので、これは仕方がないことだ。

 元々見せるつもりだったので、アリル王子は特に文句を言うことなく背中を見せた。

 俺たち二人と同じように、呪いに手をかざして何かを探る献身の魔女。しかし、それもものの数秒で終わった。


「アリル王子様も問題なく生きています。このままであれば、同じような状態になることでしょう」


 つまりは、俺だけがなぜか呪いが動いていないということだ。


「どうする?」


 呪いが動いているか調べてもらったアリル王子が、不意に俺に聞いてきた。


「ただの人間になっただけだ。やることは変わらん」


 沈んだ空気が場を包む。俺だけ仲間外れにされた、疎外感を感じる。


「呪いが動いていないのは仕方がないけど、なら次はどうなるんだろう?」

「どいうことだ?」


 フリオがあげた疑問の言葉に、意味を測りかねたアリル王子が聞き返した。


「俺と王子は、死んだとしても今回(・・)の記憶を持ったまま昔に戻る。なら、ユウトは? 今回(・・)の始まりから再び始まるの?」

「そっ、それはそうだろう?」


 フリオの疑問に頷くアリル王子。俺も王子と同じ意見だ。


「俺が魔王と戦ったのは、一回だけだ」


 その言葉に、俺とアリル王子は頷く。


「なら、まだ一回しか戦ったことがないってことか。知識と経験が次に生かせないのが難点だけど、俺たちが事細かく教えることが出来ればそこまで思い詰めるような話じゃないと思うけど?」


 確かに、そうだ。俺がやり直せないだけで、呪いが生きている二人は経験を過去に持ち帰ることが出来る。

 フリオが言った通り、二人に事細かくそれまであったことを聞かなければいけないが、それはそれで問題ない。ならば、レグレス第二王子とルウ王子の約束を無かったことにするために、やり直すことも視野に入れなくてはいけない。


お二人(・・・)の呪いに関しては、それで問題はありませんね。ですが、ユウトさんの発動条件が何に起因するのか分からないので、死ぬことを前提に考えるのは良くありません」


 光が見えてきたところで、それを止めるのも魔女の役目だろうか。いや、俺たちが楽天過ぎるのは分かっている。


「それに、この呪いの強力さを見る限り、遡って作用する可能性があります」

「どういうことだ?」

「先ほどの、フリオさんの話では今のお二人は今の記憶を保ったまま、ユウトさんは前回の記憶を持ったまま戻れると考えています。しかし、それではあまりにも都合が良すぎる。死を前提として考えるのであれば、ユウトさんは何も知らなかった時代の記憶しかない、と考えるべきです」


 つまり、徴兵されて魔王軍と戦うことになった世界の記憶だ。それは、いってしまえば戦力外通告に他ならない。

 今は、魔王のことについて理解しているからここに居られるわけで、その記憶が無ければただのいち兵士だ。

 後ろ盾のないただの平民に、ここまでする義理もない。


 部屋全体に、重苦しい空気が流れる。何かいい案が無い物か、と考えるも、全くと言っていいほど思い浮かばない。

 なら、ここでこの空気を潰すことが出来るのは俺しか居ない。


「よし。なら、何も問題ないな」

「ッ!? 何を急に!?」


 まず驚いたのはアリル王子だった。

 魔王が誕生した未来を知っていながらも、それを止められなかった無力さからか、責任を感じているのか?


「パルシオン王国の協力も取り付けられて、魔王も生まれてからすぐに力があるわけじゃない。しかも、誕生した瞬間さえ見られれば、殺してしまっても良いんだろ? なら、なにも問題はない」

「力がない、とは文献の中だけの話だ。それも、何百年も前の。王宮図書館にしまわれていた物だから問題ないとは思うが、万が一、どこかで記録ミスをしているか分かったもんじゃない」

「けど、このままいけば、未来(さき)は同じだ。なら、今ある全てを使って良い状況に持って行かなければいけない」

「それは分かっているが……」


 アリル王子は、それでも否定的だ。頭ではわかっていても、心ではもっとましな方法はないか、と探しているのかもしれない。


「失敗しないように動けばいい。俺は全力を出す。あとは、皆がどうするか、だ」

「そんなこと、分かっているだろう。ここで終わらせる。その為に、魔女からの呪いを受けたんだからな」

「同じく」


 アリル王子とフリオからも、俺が言った通り今回で終わらせることに賛成のようだ。


「なら、決まりだな。こんな滅茶苦茶な話になったんだ。魔王を殺すために、有効な方法もちゃんと話して来たんだろ?」


 アリル王子に聞くと、予想通りきちんと話して来たのか頷いた。


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