十八
本日、二回目の更新です。
前回も合わせて、お読みください。
ディスハイン家から王城まで走らされた俺たちだったが、カウセス王国からパルシオン王国まで徒歩というのはかわいそうと思ったのか、ディスハイン家から馬が貸与された。
そして、ありがたいことにアインがディスハイン家当主――つまりアインの父親に口利きをして、俺とフリオの体のサイズに合わせた軽装鎧を作ってくれたのだ。
軽装鎧ではあるが、昔、いや未来で魔王と戦う時に使っていた鎧とは比べ物にならないくらい質の良い物だ。
他には、アインの妹であり未来に暴れん坊の異名をとることになる、ティーダも共に来ることとなった。現時点でのティーダは魔王軍と戦ったことが無いので、その実力はまだ未知数だ。
しかし、俺にとってこれほど戦闘面で心強い人は居ないだろう。
そして、最後にヨウリだ。彼女は普段は商会にて商人になる――兵站を学んでいるのだが、今回は遠征学習として俺たちの隊についてきている。
多分、アリル王子かアインが気を利かしてくれたんだろうけど、魔王が発生する可能性がある国に共に行くというのは、これがなかなか怖くもある。
しかし、目の届かないところに置いていく、というのも何かありそうで怖い。
過保護だと皆から言われそうだけど、それほど大切なんだ。
「昔じゃ考えられないくらい、豪勢な遠征だよな」
「本当だな。寝床はテントで、食事は温かく味が付いているときている。それに、人数も申し分ない」
この遠征は、レグレス第二王子が友人であるパルシオン王国のルウ第一王子のところへ遊びに行く、という名目となっている。
そのため、人材や食料、さらに遠征に伴う道具といった物は全て国持ちとなっていて、魔王軍と戦う時も一応、費用は国持ちとなっていたけど、国が無くなったような状態ではそんなものあってないようなものだ。
食事は、よく分からない獣肉が入った塩味のスープに萎れた野菜が入った物。他には木の実。人が殴り殺せそうなくらい固いパン。
だが今は、末端の兵士である俺たちも風味豊かな料理を食べながら、テントで眠ることができる。温かな食事に屋根がある寝床で眠れるだけで、疲れというのは全く溜まらないのだと今更になって理解した。
他の皆に聞かれないようにアインに当時のことを話すと、戦時でも稀にみる地獄絵図だったようで、酷く動揺していた。おかげで、笑える話となった。
だが、問題もある。人数は良いのだが戦力としては心許ない。
野盗程度であれば問題ない装備だが、魔王軍相手となれば装備が軽すぎるのだ。全員が軽装鎧で重騎兵が一人もいない。
さらに言えば、乗っている馬も大声や金属がぶつかり合う音には慣れているが、肉食の大型獣やそれらの鳴き声になれていなかった。
その辺りが、非常に心許なくある。
しかし、魔王はまだ生まれておらず、たぶん――たぶんであるが、魔王が誕生したとしても一瞬で当時の様な地獄になることはない。
なので、これから行くパルシオン王国で魔王が誕生したとしても、早い段階であれば俺たちでもやれるだろう、と思う。
★
「私たちは、パルシオン王とルゥ王子へ挨拶に行ってくる。お前たちは、先に献身の魔女と連絡をとってきてくれ」
「了解しました。こちらは、お任せください」
レグレス第二王子は、献身の魔女への遣いをアインに任せると慣れた様子でパルシオン王国の王城へとアリル王子と共に入っていった。
一応お付きの者も一緒に入っているのだが、居ないほうが早くことが済むんじゃないか、と思わせるほど自然に歩いて行った。
特に心配なのが、ヨウリだ。大きな失敗をしないか心配してしまう。
「よし。私たちは、先に献身の魔女に会っておこう」
アリル王子たちと別れた俺たちは、レグレス第二王子に言われた通り、献身の魔女の所へ向かう。行くのは、アインを筆頭に俺とフリオ、そしてティーダだ。
今のところ無関係のティーダを献身の魔女の下へ連れていくということは、今後俺たちが成そうとすること――魔王を殺す旅路に同行させるということだ。
確かに彼女は、未来は俺の師匠であり部隊を率いて数々の戦場を渡り、魔王軍を退けてきた。それだけのことができる逸材だ。
だが、今は一般人だ。俺たちが上手くやれば、魔王の存在など知らずに生きていくことができる。
しかし、俺の心配をよそにアインは笑うだけだった。曰く「私の妹は、そんなにも弱くはない」と。
そしてすぐに、アインはティーダへこれから起ころうとしていること、これから自分たちがやろうとしていることを説明した。
初めは戸惑っていたティーダも全ては理解できないまでも、状況を把握し協力することを申し出た。
「師匠、具合は良いですか?」
先ほどからずっと、静かに後ろから付いてくるだけとなっているティーダに振り返り聞く。
「いたって普通だよ」
「それは、良かったです」
見て分かるように、普通ではない。明らかに動揺しているのが見て取れた。
たぶん、先ほどまで魔王云々のことは兄の冗談だろう、とでも考えていたんだろう。
しかし、レグレス第二王子とアリル王子が、魔王誕生の話を持ってパルシオン王国の王城へ入っていくのを見て、それが冗談ではないことを理解したはずだ。
「――ここだな」
そういい、アインがある宿の前で馬を止めた。
どこにでもあるいたって普通の宿だ。カウセス王国へ戻る旅の途中なので当たり前だが、こんな安宿に魔女が居るというのは想像しがたかった。
下馬すると、綱木に手綱を結び宿の中へと入った。
中は、カウセス王国では――たぶん他国でもかなり珍しい部類に入る、一階に酒場が併設されていない、宿泊のみの宿だった。
受付の隣には、申し訳程度のスペースに飲食が出来そうなテーブルと椅子があるが、あれも出立まで数分の休憩や人待ちをするための場所だと思われる。
その休憩所に居た一人の女性が、宿へ入って来た俺たちを見ると立ち上がり近づいてきた。
「使者を送ってくださった、ディスハイン様ですね?」
「そうです。魔女様はこちらに?」
「はい。そちらの皆さまも同じですか?」
魔女の遣いは、アイン越しに俺たちを見てそう聞いた。
「えぇ、そうです。むしろ、彼らがメインですね」
「分かりました。では、ついてきてください」
二階へと続く階段へ向かい歩いて行く魔女の遣いの後を追い、俺たちも階段へと向かう。
階段をあがり部屋へと続く通路を見ると、魔女が泊まっている部屋はすぐに分かった。それは、部屋の前に、良い装備を付けた男性の兵士が立っていたのだ。
兵士は、アインを見るとディスハイン家の敬礼を行った。
「ウチの兵士は、お役に立ちましたか?」
敬礼したことからディスハイン家の兵士だということが分かるが、どうやら彼がアインの出した献身の魔女への遣いの一人のようだ。
「はい。我が師匠は急ぐ旅を嫌いますが、先を急ぐ旅において兵士は非常に優秀です」
褒めているのか皮肉を言っているのか、いまいち分かりにくい評価だった。
「ごくろう。引き続き頼む」
アインは兵士に一声かけると、魔女の遣いについて行き一室へ入る。そこへ、魚のフンのように俺たちも続いて入る。
当たり前だが、中はいたって普通の部屋だ。怪しい道具も魔法薬もなく、ガランとした非常に殺風景な部屋だ。
その中に一人、三十代くらいの女性が窓際に座っていた。窓の外は見ず、かといって部屋に入ってくる俺たちを警戒するように見ていない、ただそこに居ることを楽しんでいるかのような不思議な雰囲気を持つ女性だった。
この人が魔女か――。
「いらっしゃい。お待ちしていましたよ」
献身の魔女は俺たちに対して警戒心を持つことなく、朗らかな表情で挨拶をした。
「初めまして、ミス……。何とお呼びすればよいでしょうか?」
「『献身の魔女』で構いません。魔女は、名を非常に大切にします」
「嫌な奴」と、俺の隣に居るフリオが小さく呟いた。確かに、嫌な奴だ。
「分かりました。では、そのように呼ばせていただきます」
そう言い、アインは俺たちに「いいな?」といった視線を向けてきた。了解という意味を込めて大きく頷く。
献身の魔女に勧められて、魔女の遣いが用意した椅子に座った。なぜか、どっと疲れる。
「この度は、我々の要請にお応えいただき、ありがとうございます」
「それは、こちらからもお礼をいえることです。魔法を悪用し、あまつさえ魔王になろうとする者を野放しにしては置けません。そちらの二人が、この世界の行く末を知っている子供ですね?」
「そうです」
献身の魔女から問われ、アインから自己紹介をするように肘をつつかれた。
「初めまして、ユウトです」
「フリオです」
「初めまして。お話は聞いていると思いますが、私が『献身の魔女』と呼ばれている魔女です。『暴虐の魔女』を探しているという話でしたが、先にこちらの話を入れてしまってごめんなさいね」
今ここで話してくれても問題はないのだが、アインも献身の魔女も先にこの国で生まれようとしている魔王を先に処理するつもりか、暴虐の魔女についてはそれ以上話すことは無かった。
「この国では、昔――前回魔王が発生してから今まで秘かにではありますが、魔王信仰が行われていました。活性としては今までと変わりませんが、最近、かなり魔力が整った人間が生まれました」
「それが魔王になるんですか?」
静かに話す献身の魔女の言葉に、喰いつくように声を出してしまった。アインがたしなめてくるが、献身の魔女は俺を落ち着けようと小さく微笑み、再び口を開いた。
「可能性の問題です。――ですが、今後魔王になる可能性が高く、さらに未来から戻って来た二人の話が本当であれば、その確率は格段に上がります」
つまり、そいつが魔王になると見て間違いないだろう。
「ユウトもフリオも、魔王に対峙したんだろ? 魔王の顔は覚えているか?」
「対峙したけど、顔らしい顔なんてなかったもんな……」
「あぁ、無かった」
アインから魔王の顔つきについて聞かれたが、覚えているのはくちゃくちゃの顔だ。魔王になったからあんな顔になったのか、それとも元からあの顔だったのか分からないが、人の顔をしていなかった。
そのことを話すと、アインは残念そうな顔となり、献身の魔女は憐れむような顔になった。
「魔王信仰が行われている場所への調査は、いつごろ行うのでしょうか?」
「今は、レグレス第二王子とアリル第四王子がパルシオン王へ謁見に行き、話をしている最中です。許可が下り次第、話を進めます」
「なるほど。では、まだ時間はあるのですね?」
「そうですね」
魔王を討つためとはいえ、他国で勝手なことはできないので行動は許可を貰いに行った二人が帰って来てからになる。
「ではそれまで、二人の呪いについて少し調べるとしましょうか」
3月1日 文章の一部を修正しました。




