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戦占たる者どもの道しるべ  作者: いぬぶくろ
18/24

十七

夜にも上げます。

 大教会というのは、カウセス王国で行われる祝福祭や王族の葬式を一手に引き受ける、イェーゲア大教会のことだ。祝福祭とは、王族に何かめでたいことが起きた時に行われる祭りの総称だ。葬式はそのまま。

 ここで行うのは、全ての悪意から身を守るための祝福だ。


 前回、魔王と戦う直前に受けた祝福は、崩れた大教会の一角に作られた祈りの場で、当時ギリギリ中堅といった司祭から受けた。

 最初で最後の祝福だったので、効いているのかどうか分からなかったが、無いよりはましだろう、と笑いながら過ごした記憶がある。


 それを今回は、レグレス第二王子の指示から総大司教より祝福をしてもらえることとなった。

 これはかなり稀なことらしく、祝福も大がかりな物になるそうだ。これは、この先、魔王軍と戦闘を行う上で素晴らしい加護となるだろう。



「申し訳ありあせんが、お二人に祝福をすることはできません」


 祝福を受ける準備をしていた俺たちは、司祭から放たれた言葉に耳を疑った。

 先ほどまで、総大司教自ら祝福を施してくれる、という話で盛り上がっていたところへのこれだ。耳を疑うどころか、話が通っていないだけでは、と思ってしまう。


「それはなぜだ?」


 腕を組んだアリル王子が、司祭の言葉に隠すことない怒りを滲ました声色で言う。


「そっ、それは、お二人にはすでに、その――色々と施されていて……」


 教会に属する者でも王族という存在は恐ろしいものなのか、アリルに睨まれた司祭は顔を真っ青にして、震える声で答えた。

 その回答にアリル王子は俺たちを見るが、祝福など一度も受けたことが無い――そもそも、そんなものを受ける必要も金もない。

 首を振ると、アリル王子は再び司祭に向き直った。


「祝福は受けていないと言っているが?」

「しゅっ、祝福ではなく、酷く汚らしい(・・・・)呪いです。もうし――申し訳ありませんが、そのような呪いを持った方を総大司教へ会わせるわけにはいきません……」


 汚らわしい呪い、というのが何を指しているのかすぐに分かった。暴虐の魔女に施してもらった、不死の呪い(・・・・・)のことだ。

 清めのために服を脱ぎ、湯あみをした辺りで、その場にいた助祭や侍祭が小さく騒ぎ出したので嫌な予感はしていた。まさか、ここまできて不死の呪いが裏目に出るとは……。

 司祭は口を一文字に結び、アリル王子から浴びせられる容赦ない睨みに必死で堪えているようだった。


「……なるほど。では、その呪いを解くことは可能か?」


 先に口を開いたのはアリル王子だった。

 静かな声には怒りの色が滲んでいなかったため、助かった、と思ったのか、司祭は小さく安堵のため息を吐いた。


「それは、不可能だと思います……」

「なぜだ?」

「呪いが魂へ強く食い込んでいます。彼らの運命だけではなく、魂すら自在に操ろうとした強力な魔力を持った魔女(・・)がかけた呪いです」

「総大司教であれば解呪できるのではないのか?」

「総大司教は、呪いを解きません。呪いは聖なる力を持つ者により解呪することが出来ますが、解呪のたびに聖なる者の加護が穢れていきます。申し訳ありませんが、ただの個人(・・・・・)のために(・・・・)そのようなことはできません」


 国のためであれば致し方ないが、アリル王子――王族の紹介とはいえ、どこの馬の骨かも分からないような奴のために、聖なる者を汚す訳にはいかない。

 国の一大事であればそれもまた変わるんだろうが、今は一大事の一歩手前だ。魔王が誕生すると言っても、誰も信じないだろう。


「さらに言えば――」


 と、司祭は決心したように口を開いた。


「魔女の呪いを、二人は受け入れています。つまり、二人は我々教会とは逆に位置する者です」


 司祭の言葉には、明確な相いれないといった意思があった。これは、彼だけの言葉だけではなく、大教会やその他の教会全ての言葉だろう。


「呪いを解く方法は、総大司教に解呪してもらう以外に何がある?」

「二人の呪いは、あまりにも根深すぎます。大司教クラスが何十人も集まって解呪できるかどうか……。もしくは、呪いを施した魔女に直接解呪してもらうか、ですね」


 司祭から出た言葉を聞いたアリル王子は、俺たちを向いて肩をすくめた。


「今度は、こちらからお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


 司祭は、アリル王子ではなく、俺たちへ向かい聞きたいことがあると問いかけてきた。


「祝福を受けに来たところ申し訳ありませんが、二人は魔女からの呪いを受け入れて(・・・・・)いる様子。大教会(われわれ)としては、魔女と共存をしていく方向で現在はとどまっていますが、呪いを受け入れている人間を野放しにするほど大らかではありません。こうなった経緯と、どこの魔女に施されたのかを教えてください」


 声色こそ優しいが、答えるまで帰すつもりはない、といった強い意志を感じる。

 もちろんアリル王子が居るのだから、帰さない、というのも言葉の上での話だろう。

 しかし、相手は大教会だ。もしかしたら、アリル王子だけでは力不足になるかもしれない。


「魔女の二つ名は、『暴虐の魔女』だ。俺たちも探しているが、どこに居るのかさっぱり分からん。呪いを施される経緯についてだが、この二人は狩人だったことに由来する」


 魔女と狩人は、大きな声では言えないが密接な関係がある。

 森の奥深くに住む魔女は、自分たちでは生産できない生活必需品を狩人にお願いして町へ買いに行ってもらう。狩人は、村に病気が発生した時や獲物が居なくなってしまった時に、魔女に対策を乞いに行く。

 こうして、魔女と狩人は古くから交流がある。


「魔女に(たぶら)かされましたか……」


 何と早まったことを、といいたそうに司祭は嘆くように呟いた。

 つまり、俺たちにかけられている呪いは、助け合いの範疇を越えた、魔女の実験道具にされたように見えてしまうほど酷く深くつけられた呪いらしい。


「ユウト、フリオ、もうここには用はない。行こう」


 王子として、今後かかわりが深くなっていく大教会に対して、酷い言いようだ。司祭も、アリル王子の言葉に驚いたのか、目を丸くしている。


「総大司教は、控えの間におります。アリル王子のみとなりますが、お会いになられませんか?」

「いや、次に行くところがあるのでいい。総大司教には、時間をとらせて申し訳なかった、と伝えておいてくれ」


 祝福が受けられないのであれば、俺たちがここにいる理由はなくなる。解呪もできないのだから、なおさらだ。

 合わせて、早く暴虐の魔女に会わなければいけなくなった。このままでは、最低限の祝福も受けることができないまま、魔王と戦闘を行うことになる。



「さて、どうしたもんかな」


 大教会前に止めてあったアリル王子の馬車に乗り込むと、賭けの予想を外した酔っぱらいの様な深いため息を吐きながらアリル王子が言った。

 足を組み、両腕を頭の後ろで交差させて枕を作りだらしなく座っているところをみると、本当に王子か疑いたくなる。


「それより、質問がある」

「なんだ?」

「祝福について、だ」


 先ほどのことについて俺がアリル王子に問うと、王子は砕けた体勢から居住まいを直した。


「呪いは、俺たちに施された『不死の呪い』だ。そして、魔女は教会と立ち位置を逆にする者――つまり表立っていないが、敵ということだ。俺たちはただの狩人と言えば終わりだが、アリル王子にも不死の呪いが施されているのにも関わらず、なぜ言及されなかった?」


 俺たち三人は、暴虐の魔女から不死の呪いを施されることにより、魔王軍が侵攻する前のこの世界に戻ってくることができた。戻って来たのだから、この場に居る全員に呪いが施されているとみて間違いない。

 しかし、アリル王子は俺の質問に対して大きなため息を吐いた。


「王族は、生まれてすぐに教皇から祝福を受ける。俺はすでに祝福を受けた体に戻って来たから、祝福を受けなくてもいいんだよ」

「うわー、ずるいなーそれ」


 当たり前かもしれないが、特別待遇にフリオが不満の声を上げた。

 国王の子供が生まれれば、それはニュースだ。それに、祝福を受けるのが出産セットの行事であれば、知らない方がおかしいんだろう。

 田舎だから、王様に子供が生まれたという話も第二王子が最後で、第三王子や第四王子――アリル王子の出産の話は聞いていない。

 つまり、そんな程度の情報能力しかない田舎に、都会の常識は通用しない。


「二人には申し訳ないが、魔王は待ってくれない。パルシオン王国には、祝福が無い状態で行くことになる」

「もともと、魔王に直接殴り込みに行くまで祝福なんて無かったんだ。俺は問題ない」

「僕も」


 祝福を貰う前提で考えていたが、よくよく考えてみれば魔獣や魔物と戦っていた時分は祝福なんて大層な物は受けていなかった。

 皆、あの場に居た誰しもがそんな状態で戦っていたんだから。


2月24日 誤字修正しました。

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