ツイン・ロータス
床に沈んだ 酔狂な踊子・《エクスタシー・ノイズ》は動かない。
ピンは拳を下ろし静かに息を吐いた。
そのすぐ横で、別の戦場はまだ膠着していた。
ギィィィンッ!
「ほらほらぁ!どうしたのよ侵入者!さっきの勢いどこ行ったのぉ?」
金髪の少女——騒乱の収束・《ライオット・コンバージョン》が甲高い声で笑いながら透流太の剣を軽くはじき返す。
頭に血が上って周りが見えていない透流太。
「うるせぇ!……これからだ!」
「挑発に乗らないで!ここは私の指示に従って!」
寧々が焦った口調で叫ぶ。
「いや、オレが行く!まだやられた訳じゃないし」
透流太は悔しさを隠せない。
「落ち着いて!やられてからじゃ遅いのよ!」
二人の間に、少しの溝とわずかな苛立ちが生まれる。
だが、ライオットの声は止まらない。
「ホラホラ、もっと来てみなよぉ! ビビってんのぉ?
それともさぁ、アタシの攻撃を受けてみたいワケぇ?」
そう言って自分の身長よりも長く大きな斧を振りかざしライオットが斬りかかる。
ギィィィンッ!
金属と金属が激しくぶつかり合う音が響く。
間一髪、寧々が刃を受け止めたのだ。
「くっ!」
だが透流太は、その派手な動きと声に気を取られ、冷静さを欠いていた。
「透流太!アナタはここまで何をしに来たの!?冷静になって!」
寧々が諭す様に叫ぶ。
「けど……あいつら!——クソッ、当たらねぇ!」
空振りを繰り返す剣を握り直して、さらに熱くなる。
「あれは、わざとアナタを挑発しているのよ。撹乱が狙い、作戦なのよ」
戦闘慣れした寧々は常に冷静だった。
だが、一瞬の隙を付かれた。
「……そこ」
銀髪の少女、静寂の偏差・《サイレント・デヴィエーション》が静かに狙いを定め、音も無く、気配も無く、透流太の死角へと滑り込む。
「っ……!」
気づいた時には遅かった。
透流太の視界から、サイレントの姿は完全に消えていた。
「透流太、右後ろ——!」
寧々が叫ぶが、ライオットの刃を受け止めていて動けない。
「ほらぁ、コッチじゃないよぉ?」
ライオットが笑う。
死神の鎌が音も無く透流太の首に狙いを定める。
「……ん」
わずかな呼吸が聞こえた気がする。
だが、気づいた時にはサイレントが真横で大きく構えている。
身の丈よりも大きな鎌が、無音で透流太の首を刈り取りに来る。
ギィィン!
間一髪であった。
とっさに身体が反応し、剣で弾き返す透流太。
サイレントの攻撃より一瞬早く洸杜が反応していたのだ。
弾かれた衝撃で、透流太と寧々の動きが更に噛み合わなくなる。
「ちょっ、透流太!」
「悪い、足が……!」
二人の足がぶつかり、体勢が大きく崩れた。
その隙を双子は逃さない。
ライオットが真正面から大きく斧を振りかぶり、サイレントが横から滑り込む。
「これで終わりだよぉ、侵入者たちぃ!」
透流太の思考がスローモーションになる。
(こんな所で終われない)
脳裏によぎったその時——視界が一気にクリアになる。
ゴンッ!
透流太は深く息を吸い、剣の腹を頭に当てる。
「……よし」
透流太の頭が、身体が、心が、冷たい熱を帯びていく。
——ここからが本領発揮だ。
周りの雑音がスッと引いていく。
ライオットの甲高い声も。
床を叩く斧の衝撃音も——
すべてが遠くなる。
代わりに、透流太の耳には別のものが入ってきた。
何かが素早く動く風切り音。
足が床を擦る微かな擦過音。
何者かのわずかな呼吸音。
そして——
サイレントの無音の動きが輪郭を現す。
グラフィック・ギドラーが淡く光った。
(……来る)
透流太は心の中で小さく呟いた。
誰に向けた言葉でもなく、確認作業にも似たつぶやきだった。
次の瞬間、ライオットが派手に叫びながら踏み込む。
その背後で、サイレントが死角へ滑り込む。
二人の動きが、まるで“ひとつの生き物”のように重なって迫る。
寧々が叫ぶ。
「透流太、危ない——!」
だが透流太は動かない。
動けないのではない、動かないのだった。
視界の端で、サイレントがライオットの影に入る。
完全に透流太の死角に入ったサイレントと、真正面からのライオットが同時に仕掛ける。
——ガガァァン!
左足を後ろに下げ、半身になる。
ただそれだけで、サイレントの鎌は空を切り、ライオットの斧は地面に突き刺さる。
「……はぁ?」
ライオットの信じられないと言った表情で固まる。
寧々も何が起きたのか完全には理解できていない。
タッタッタッ———
サイレントだけが無表情のまま距離を取る。
透流太は静かに顔を上げる。
「だんだんと分かってきた」
それは、自分でも驚くほど落ち着いた声だった。
「だけど……これは俺のチカラじゃない。洸杜に使わされているだけだ」
透流太は考えます。
自分には何が出来るのか。
自分のチカラはどんなものなのか。
洸杜とは——何なのかを。
次の瞬間——カチっと歯車が噛み合うような音と共に、 脳裏にデステ兄さんの声が蘇る。
『その剣の名は“暁螺”と申します。
ただの剣ではございません。持ち主を選ぶような、ちょっと扱いに困る剣でございまして……
まぁ、アナタにならお譲りしても宜しいかと。
ただし!くれぐれも……刃を向ける相手をお間違いにならないよう。
ご承知おきくださいませ♪』
透流太はハッと我に返る。
「そうだ、この剣の名は暁螺。持ち主を選ぶとか言っていたけど…」
「ちょっとぉ~、戦闘中になにボサッとしてんの……さっ!」
透流太の一瞬の隙を付いて、ライオットが斬りかかる。
「そこか!」
ギィィィンッ!
振り向きざまに暁螺がライオットの大斧を弾き返す。
弾き返された衝撃で、ライオットは大きくのけ反る。
そして、その隙を見逃していなかった寧々が即座に反応する。
「まずは動きを封じる」
ライオットの足を刈り取るように、低い体勢で斬り込む寧々。
——だが。
「……させない」
無音のまま、サイレントが寧々の背後に現れる。
その大鎌が振り下ろされる瞬間。
「そっちこそ!」
透流太が割り込む。
暁螺が火花を散らし、サイレントの大鎌を弾き返す。
膠着状態が続く中、寧々は思考を巡らせる。
(このままでは埒が明かない。何か膠着を打破する一手は……)
その時、寧々が手に持つ黒い刀身がわずかに脈動する。
次の瞬間——脳裏にデステ兄さんの声が蘇る。
『その剣の名は“炎焔”と申しまして、断つために生まれた刃でございます。
扱いは大変難しゅうございますが……まぁ貴女のようなお方なら、きっと使いこなせましょう』
寧々のプラズマエンジンに蒼白い炎が宿る。
「そうだ……炎焔」
その名を口にした瞬間、 刀身に蒼白い炎が走る
「私の……チカラ」
寧々が小声で呟いた次の瞬間。
グリップに刻まれた赤い文様が一斉に刀身に走り、真っ黒い刀身に赤い文様が刻まれていく。
——炎焔が本当の姿を表す。
透流太の相手をしていた双子が同時に動く。
二人の視線が同じ方向を捉えていた。
「あいつ、な~んかヤバい雰囲気。……姉さん、一気に決めるわよ!」
「……ん」
双子がターゲットを寧々に絞り、同時に襲いかかる。
透流太が即反応するが、まるで地を這う蛇の如く、脇をするりと抜けて行く。
「寧々!行った!」
「大丈夫、見えているわ……」
上からはライオットの大斧、横からはサイレントの大鎌が同時に襲い来る。
———だが。
ズドンッ!
鈍い音を立て、地面に突き刺さるライオットの大斧と、虚空に円を書きながら空を切るサイレントの大鎌。
「はぁ!なんで!?」
「……どこへ」
焦って周囲を見回す双子の頭上から影が落ちる。
「ヒバナ!」
寧々の一撃が、一直線に空間を断つ。
「ライオット、危ない!」
一瞬だけ早く気づいたサイレントが、ライオットを突き飛ばす。
「姉さんっっっ!!!」
次の瞬間、咄嗟に受け止めた衝撃で真っ二つになるサイレントの大鎌。
「……たとえ武器が無くたって……」
「アタシたちは止まってなんていらんないのよ!」
「……もう一度、博士に……」
双子の言葉からは悪意は感じられなかった。
そしてどこか、悲しみに似た感情が伝わってくる。
そこへ未視の叫びが響き渡る。
「透流太、寧々、待って!彼女たちに敵意はないわ!
それに…サルモネラ博士の事に気づいてない!」
その言葉を聞き、一瞬止まる双子。
「オリジン…気づいてないって、何のことを言って…」
その一瞬の隙を見逃さない透流太。
サイレントの背後に回り込み、目にも止まらぬ一閃。
だがそれは命を奪う剣撃ではなく、グリップによる当て身であった。
「…つっぅ!」
静かに倒れ込むサイレント。
「て、てんめぇぇぇぇ!よくも…よくも姉さんを!」
頭に血が上り、状況も理解も追いつかず、もはや冷静な判断ができない様子のライオット。
だが、更に高みへと至った透流太と寧々の目には勝ち筋が見えていた。
力強くグッと正眼に構え、ライオットを見据える透流太。
その場に真っ直ぐに立ち、全身のチカラを抜く寧々。
——二人の心が重なる。
螺旋の果に 炎が揺れる
明けぬ先見 見えぬが夜明け
果の明星 有りきは帳 (とばり)
炎に目覚めし 重ね暁螺/炎焔
「「裂火/咲陽!」」
二つの声が重なり、辺り一帯に響く。
透流太の暁螺の軌跡が縦に走り、寧々の炎焔の軌跡が真横に伸びる。
二人の暁螺/炎焔が重なったとき、それは裂火/咲陽となってライオットを飲み込む。
それはまるで螺旋のように、真っ赤な炎と蒼白い炎が渦を巻く。
だがその炎は命を奪うためのものではなく、救済の炎だった。
「……あれ……熱く……ない……?
なんで……どうして……」
炎の中、ライオットは戸惑いの声を漏らす。
その表情は恐怖ではなく驚きだった。
その時だった。
倒れ伏していたはずのサイレントが、ふらつきながらもライオットへ歩み寄る。
「……ライオット……よかった……」
「ね、姉さん……!無事だったのね……!」
炎は静かに収束して、空へと昇っていく。
残ったのは、二人の安堵の声なき声だった。
*****
——戦いは終わりを告げる。
「二人とも、ありがとう……これでゆっくり話が出来るわ」
未視が双子に駆け寄ると、すぐにジョーカーが手当をする。
「大丈夫、私たちは敵ではないわ。そしてアナタたちに告げなければならない事実があるの」
未視が真実を告げようとしたその時。
今までどこへ行っていたのか、パン・クラビットがひょっこりと現れた。
「やあ、皆さんお揃いで。変わったことは無かったかい?」
「「!!!」」
パンの顔を見た瞬間、双子の瞳が大きく揺れた。
グシャグシャになって泣き出すライオット。
そして、あまり感情を表に出さないサイレントも泣きじゃくる。
「は、博士~!うぁ~ん、今までドコへ行ってたのよ~」
「……うぅ、おかえりなさい……博士」
その様子を見て驚く透流太。
「ちょ、ちょっと待て!いったいどう言う…」
「私から説明させてもらうわね。私たちはサルモネラ計画の試作品、ロストナンバー。
つまりサルモネラ博士とは遺伝子が同じなのよ」
ピン・クラビットが全ての経緯を語り始めた。
「そして私も当然、サルモネラ博士と同じ遺伝子から造られたの。
で、廃棄させる前にメモリコアが空の陰に精神を移して、まぁ今に至るって理由」
「ソフィアと寧々は気付いてたみたいだけど。ボクとサルモネラ博士はベースは同じ。
まぁ、ボクの方が少々幼く設定されては居るんだけど。
……だからさ、同じ顔が2つ有るのは癪に障るだろ?」
全ての経緯が明かされ、その場に居た全員がやっと落ち着きを見せる。
だが双子はまだ納得行かない様子で未視に詰め寄る。
「そうだ、さっき言ってた気づいてないってどういう意味なのさ!
まさか、博士が変わっちゃった事と何か関係が……」
「……博士、変わっちゃった。まるで別人みたいに……」
「アナタたち、ここからは落ち着いて聞いてくださいね。サルモネラ博士が変わってしまった理由。
……彼はもうサルモネラ博士ではなく、別人と入れ替わっています」
「あぁ、やっぱそうだよな。脳波が伝わって来ないし」
やはりパンとピンは何かを感じ取っていたようです。
そしてその事実を受け入れられないかと思われた双子の反応は意外なものでした。
「……やっぱそう言う事なのね。どうりで……おかしいと思ったのよ!」
「……博士が私たちを裏切るなんて、絶対に無い……」
そう、ナンバーズたちは数十年もの間、博士と共に居たのです。
その博士が10年前に、急に人が変わったようになってしまった。
その事実が受け入れられずに、今まで燻っていたのです。
「じゃ、じゃあ博士に入れ替わってるヤツって誰なの!?そして…博士は無事なの!?」
ライオットが更に詰め寄ります。
「それは……分からない。その手がかりを掴むためにも私たちはアヴァロン・アーカルケルへ行かなくてはならない。そして母なるミテラケフィの8番目のメモリーを取り戻すの」
まだ全ては明かされない。
アヴァロン・アーカルケルに行けば手がかりは掴めるのか?
―to the Next World―
皆さん、コンニチワ。
ポーランド埼玉です。
このナンバーズや陰の辺りって、書いてる私が言うのもアレですが、かなり分かりずらい(笑)
そこでナンバーズを含めた陰の世代解説を軽く補足します。
陰
第一世代
ナンバーズ(No.0〜No.9)
第二世代
ファーストオーダー(No.10〜No.99)
第三世代・第四世代
ニューオーダー(No.100〜No.999、No.1000〜No.9999)
第五世代
ネクスト
→陰と機械生命体を掛け合わせた生態アンドロイド
※機械生命体:写世の維持管理、防衛などを目的に造られたアンドロイドで、感情などは持ち合わせていない




