クレナデン・シロップ
双子のナンバーズ、姉のNo.8静寂の偏差・《サイレント・デヴィエーション》と妹のNo.9騒乱の収束・《ライオット・コンバージョン》。
二人は決心した表情で、透流太たちに打ち明ける。
「……私たちも一緒に行く。アナタたちと一緒にいた方が、博士の手がかりをつかめるかもしれない」
「そうね……」
「分かったわ……けど、つらい結果になるかもしれないわよ?」
久遠未視は冷静に答える、だがその瞳は優しさのまなざしの他の何物でもなかった。
「じゃ、話もまとまったみたいだし。そろそろ本丸に向かおうか」
パンが先頭に立ち、エレベーターに乗り込む。
———時間にして数秒だろうか、目的地へと誘うエレベーターがその動きを停め、音も無く扉が開く。
しかし……一行を待ち受けていた光景は凄惨そのものであった。
「!?——そんな、どうして!?母は、ミテラケフィは!」
破壊しつくされた通路、原形を留めていない扉、散乱する機械生命体。
「これが、アヴァロン・アーカルケル!?私が居ない間に一体何が…」
困惑する寧々。
隊からはぐれて、そう経ってはいないはずですから、驚くのは無理もありません。
愕然とする未視と寧々に向かってライオットが話しかける。
「ソフィアが知らないのも無理もないわね。2ヶ月ほど前に突然、サルモネラ博士の反乱があったの…」
そして、普段は無口なサイレントが語り出した。
「これは全てグノーシスの仕業……八輝星も応戦したみたいだけど、結果は見てのとおりよ」
「そんな……では、一点突破・《ブレイキング・ビリー》は!?それに殲滅隊の2人はどこに!」
困惑する寧々にピンが答えます。
「安心して、みんな無事よ。
そもそもワタシがここに居て、冷静にしているって状況なの。
聡明なアナタなら理解できるでしょ?」
ピンの言葉を聞き、落ち着きを取り戻す寧々。
様々な憶測が飛び交い、混乱する一行に向かって、冷静さを取り戻した未視が声を発した。
「とにかく母に、ミテラケフィの元に行かないと!」
駆け足で目的地へと向かう一行。
その間にも、無残な廃墟と成り果てたアヴァロン・アーカルケルと。
無残に破壊された機械生命体たちが横たわる。
———ひときわ損壊の激しい区画に出た。
目を覆いたくなるような光景に、足が止まる未視。
全身のチカラが抜け、膝をつきそうになるが、それでも必死に足を地につけ前へと進む。
受け入れがたい現実を、必死に受け入れているようであった。
「……ミテラケフィ……お母さん、こんなになって……」
それは破壊された大型の機械の塊。
そして露出した7つのカプセル。
中身は無い。
ただ一つ、カプセルごと無くなっている箇所があった。
それこそが8つ目のメモリコア。
未視の最大の目的であり、透流太を導いた存在でもある、ミテラケフィの8番目の人格であった。
「やはり無いわね……では、どこへ」
未視が辺りを見回すも、その光景は破壊され荒れ果てた城内のみ。
透流太は、ふと胸の奥に引っかかる違和感を覚えた。
「なぁ、俺に話しかけてきたのって、そのミテラケフィの8番目のメモリコアなんだろ?
で、この反乱があったのが2ヶ月前……。でもミテラが俺に話しかけてきたのって、まだ数週間前だぜ!?」
「「!!」」
「たしかに!反乱の後もメモリコアは機能していた…。と言う事は…まだ希望はあります!」
「それじゃあ、どこかに身を隠して…居るとか?」
まだ希望はある。未視と寧々は考えます。
「ですがメモリコア単体でどこかへ移動するなんて…どうしたら」
「——そんなの簡単だろ。ピンがやったみたいに精神を移す器があれば済む話だ」
皆が一斉にパンの方へ向きかえります。
「おっと、あくまでも可能性の話だよ。でなきゃ一人で飛んでったとでも言うのかい?」
「器…つまり人造体。もしくはジョーカーのようなロボット…」
ブツブツとつぶやきながら、考え込む未視。
———その時です。
「……こえ……か……」
「……けるた……ますか……」
「これは!また頭の中に!……ミテラケフィなのか!?」
それはとても弱く、聞き取りづらいが、間違いなく透流太を導いた声の主。
母なるミテラケフィの声でした。
「下に……」
そこで声は途絶えてしまいます。
「下!オイ、下って何だ!?オイってば!」
透流太の様子に未視が慌てた様子で詰め寄ります。
「透流太!あなた、いまミテラケフィって!声が聞こえたのですか!」
「あぁ、間違いなく、あの声はミテラだった。かなり聞き取りづらかったが、下って言ってたな」
「下…もしや!」
未視が何かに気付きジョーカーに指示をだします。
「ジョーカーお願い、アヴァロンの床の下をサーチして下さい」
指示されたとおり、床の下をサーチするジョーカー。
そして——微弱な反応が検知されます。
「ありました、とても微弱で今にも消えそうな反応があります」
「床の下に通路らしき狭い空間。そして、その先に部屋らしき空洞。入り口はありません」
「じゃあ床をぶっ壊すしかないってか!」
「アタシらの出番って訳ぇ!」
透流太とライオットが大きく振りかぶった——その時。
咄嗟に寧々が止めに入ります。
「まてまてまて!お前たちがやったら、アヴァロンの底を抜けてぶっ壊してしまうだろ!
……ここは私に任せて、下がっててちょうだい」
そういうとジョーカーが指した箇所を、目にも留まらぬ抜刀術で寧々が切りつける。
次の瞬間、床が細切れになり通路が現れた。
通路を進む一行。
そしてその先で目にしたのは一体の機械生命体に抱えられた筒状のカプセル。
機械生命体は動かない。どうやら動力源が尽きているようだ。
そしてその手の中にあるカプセルこそ、母なるミテラケフィの8番目のメモリコア。
機械生命体は、まるで最後の力を振り絞って“守り抜いた”かのように、両腕で筒状のカプセルを抱え込んでいた。
その腕は焼け焦げ、関節は溶け、動力源はとうに尽きている。
だが、それでも離さなかったのだろう。
未視は震える指先で、その腕にそっと触れた。
「……ありがとう。あなたが守ってくれたのね」
静かに礼を告げると、パンが前に出て、筒状のカプセル——ミテラケフィの八番目のメモリコアを慎重に受け取った。
「……エネルギー残量、ほぼゼロだな。よく生きてたもんだよ」
パンは背負っていたバッグをガサガサと漁り始める。
「パン、何してるの?」
「ん? あぁ、ちょっとね。……あったあった」
パンが取り出したのは手のひらほどの大きさの、金属片とケーブルが複雑に絡み合った装置だった。
「……何だそれ?」
透流太が覗き込む。
パンはニヤリと笑って答える。
「簡易メモリコア・ドライブ。即席だけど、コアを挿せば最低限の動力供給と起動はできるはずさ。……まっ、動作テストはしてないけどね」
「即席!? いつの間にそんなものを……」
寧々が驚く。
パンは肩をすくめニヤリと笑った。
「途中でちょっと抜けただろ? あの時に作ってたのさ。材料はそこらに転がってたジャンクで十分だったしね」
「……アナタ、本当に博士みたいね」
ライオットが食い入るようにパンをジロジロと見る。
パンは含みの有る薄笑いを見せながら、装置のスロットにメモリコアをそっと差し込んだ。
カチリ、と小さな音がして装置が淡い光を放つ。
「——起動するよ。みんな、少し下がって」
一行が距離を取ると、装置の光が徐々に強まり、振動音が聞こえ始めた。
透流太はゴクリと息をのむ。
未視は胸の前で手を組み、祈るように見つめていた。
やがて、装置からかすかな声が漏れ聞こえてくる。
「……な……え……」
未視の目に涙が浮かぶ。
「お母さん! 聞こえる!?」
「……よく……来て……くれました……ソフィア……」
その声は弱々しく、今にも消えそうだった。
だが確かに母の声だった。
「ミテラ、聞きたいことがある。サルモネラ博士は……どうしてあんなことを?」
透流太が前に出る。
しばしの沈黙の後、ミテラケフィは途切れ途切れに語り始めた。
「……博士は……もう……博士では……ありません…… 10年以上前……旧人類に……身体を……乗っ取られ…… ……中身は……別人に……」
「「「旧人類!」」」
一同が騒然とする。
「……自ら……を……封印した……彼らが…… 干渉を……始めたのです…… サルモネラ博士を……器として……」
「じゃあ、反乱を起こしたのも……」
寧々が言いかける。
「……えぇ…… アヴァロンを……破壊したのも…… すべて……旧人類……」
装置の光が弱まり、声が徐々に弱まっていく。
「お母さん!、まだ話せる?」
未視が語り掛ける。
「……もう……長くは…… でも……あなたは……仲間を……集めなさい…… オリジン……四戒と……八輝星の……力が…… 必要……です……」
そこで声は途切れた。
パンが装置を確認する。
「……今はコレが限界だな。これ以上は無理だ」
未視は涙を拭い、顔を上げた。
「……分かりました。戻りましょう。 そして……仲間を集めます!」
アヴァロン・アーカルケルを後にし、一行はイスカ・ヤーマへ戻った。
皆の表情からは緊張が見染み出ているのが見て取れる。
旧人類の影が迫っていることを、誰もが感じていた。
未視は到着するなり、すぐに装備を整え始めた。
「未視、どこへ行くつもり?」
寧々が問いかける。
「……オリジン四戒の…私の兄妹たちの元へ。 彼らの力が必要です。 そして……私が行くのが一番早いわ」
「一人で行くつもりか?」
透流太が心配そうに見つめる。
未視は静かに頷いた。
「オリジン同士は精神で繋がっています。 居場所は分かりますし、距離も近い。
それに……これは私に託された使命でもあります」
寧々は心配そうに見つめたが、未視の決意は揺るがなかった。
「大丈夫です。すぐ戻りますから」
そう言って、未視は軽く微笑んだ。
未視とジョーカーが基地を出ていくのを見送りながら、透流太がふと首をかしげた。
「……あれ? そういえば龍夫は?」
寧々も周囲を見回す。
「ほんとね。さっきまで居たのに……」
ライオットが怪訝そうに眉を寄せる。
「龍夫? 誰のこと? あなたたちと会ってから、そんな人見てないけど?」
サイレントも同じ反応をする。
「……最初から、見てない」
「いやいや居ただろ~。 ほら、変な……龍なんだけどさ!」
透流太が必死に説明する。
ライオットは呆れたように肩をすくめた。
「はぁ!?龍!? そんなの居たら、真っ先に気づくわよ!」
寧々は苦笑しながら透流太の肩を叩いた。
「まぁ龍夫の事だから心配ないわ。そのうちひょっこり出てくるわよ」
透流太は納得いかない顔をしつつも、時間は流れていく。
*****
———イスカ・ヤーマを出て仲間の元へと急ぐ未視。
目的地はニューオーダーの前線基地「トネイ・リーン」。
写世とイスカ・ヤーマを結ぶ直線。
その中ほどから北西へ伸びるもう一本の線の先に、トネイ・リーンは位置している。
イスカ・ヤーマを出てしばらく歩くと、未視はふと足を止め空を見上げた。
昼の光は強く、影は短い。未視にとっては戦闘には向かない時間帯だったが、それでも急がなければならない。
「幸い付近に龍の気配はない……駆けるわよ、ジョーカー」
次の瞬間、未視の身体がフッと軽くなり一直線に飛び出した。
未視は高速で駆け抜ける。
写世とイスカ・ヤーマを結ぶ距離とほとんど変わらない位置にトネイ・リーンはある。
未視が本気で駆ければ、そう時間はかからない距離だ。
だが———順調に進んでいるかに見えた、その時だった。
ジョーカーのセンサーが急激に反応を跳ね上げた。
「警告!前方、いや横、後方も!高密度反応、囲まれています。……数およそ……二十万。この反応……第五世代です」
未視が足を止め警戒態勢に入る。
「……待ち伏せ!?」
「はい、完全に包囲されています」
地平線の向こうから、白銀の波が押し寄せてくる。
金属の身体が日の光を反射し、その脚音の響きからは大群であることを容易に伺わせる。
そしてその先頭には、浮遊体に乗ったひときわ目立つ影。
見覚えのあるその顔に、未視は総毛立つ。
「サルモネラ!キサマ、よくも…よくも母を!アヴァロンを!」
胸の奥が烈火の如く煮えたぎり、怒りが沸点を超え喉を震わせる。
「これはこれは、オリジン四戒のソフィア・OP・スレイ。今までどこへ隠れていたのやら。
アナタが隠れて10年……ようやく見つけた。ここでオマエを捕らえる」
それは全ての元凶たるサルモネラ博士その人だった。
未視は息を整え、静かにつぶやく。
だがその瞳から怒りの炎が消えることはなかった。
「ジョーカー展開、人機融合」
「ライトバウアー、レフトバウアー展開、装着完了。
……しかし、月洸波の不足によりベストバウアー状態には移行できません」
「構わない。ここで私が……やらなきゃ」
未視は感情的になって言っている訳ではない。ここで止めなければならない事を感じ取っていた。
「ネクスト共、ヤツを捕らえよ。大事な素材だ、殺すなよ」
号令を起点にネクストの群れが一斉に襲いかかる。
———だが。
未視は両拳を腰に構え、微動だにしない。
そして……見えない拳が敵を迎え打つ。
「夢限泡影——無打」
まるで霞を掴むかの如く、ネクストの攻撃がすり抜ける。
それは、触れた瞬間に相殺し、相手に返す究極のカウンター。
敵の関節が逆方向に折れ、衝撃がそのまま返っていく。
全ての攻撃が泡の如く徒労に帰すのであった。
だが——数が多すぎた。
倒しても倒しても、白銀の波は止まらない。
いかに未視がオリジン四戒の最大戦力とはいえ、数の暴力の前に疲れの色が見え始める。
ガイィィィンッ!
「……っ、く……!」
ジョーカーの装甲が砕け、未視の肩に衝撃が走る。
視界が薄れ地面に膝をつく。
「マスター、活動限界が近いです。退避を——」
「……だめ。ここでサルモネラ博士を仕留めないと……!」
だが、ネクストの群れはさらに密度を増し、未視の周囲を完全に包囲する。
「クハハハ、いかに月戦姫とて、月が無ければこの程度!」
逃げ場はない。
月洸波もない。
徐々に追い詰められていく。
——絶体絶命。
「ククク、諦めろオリジン!お前らの時代は終わりだ!そしてお前の身体を使って……」
「絶対に……諦めない。私には……私には、仲間がいる!」
絶体絶命の——その時。
「———ブッコロォォォォォ!……デストロォォォォォイ!」
光と共に白銀の波が一直線に跳ね上がる。
「———太陽光二刀流奥義……プロミネンスッ!」
視界が一気に開ける。
そして、その先に3つの影が立つ。
未視の瞳に涙が滲む。
「……皆んな……」
現世を統べる黄金機構がここに集結する。
―to the Next World―
皆さん、コンニチワ。
ポーランド埼玉です。
ついにオリジン四戒が集結します。
このお話の裏の主人公たち、オリジン四戒です。
物語はここから一気に熱量を跳ね上げて行きます。




