ピンク・ボム
谷底の町——イスカ・ヤーマ。
そこは禁足地にある隠れ里。
写世と変わらぬほど整備された設備に建造物。
未視は驚きのあまり足を止めた。
「……ここ、本当に禁足地なの!?」
「ここはイスカ・ヤーマ。
禁足地って呼ばれる理由は、僕がそう登録したからだよ」
彼の名はパン・クラビット。
子どものような外見にウサギの着ぐるみのような出で立ち。
「「!!!」」
その顔を見た未視と寧々が一瞬たじろぐ。
「いや……そんな訳はないわよね」
「えぇ、確かに似てはいるが……別人みたいね」
落ち着いた寧々が問いただす。
「登録って…データベースを改ざんしたってこと?」
彼は淡々とした声で答える。
「そうだよ。そうしないと君たち陰が来ちゃうでしょ?
ここイスカ・ヤーマは僕たちの住処だから。荒らさるのはゴメンだね」
パンは軽く肩をすくめた。
「ところで、パン・クラビット。あなたの……その顔は?」
1番の疑問を未視が問いかける。
パンは未視に向かってニヤリと笑い、真相を打ち明け出す。
「ボクはサルモネラ計画の実験体。つまり廃棄されるはずだったロストナンバーさ。
でも逃げて来たんだよ。アヴァロン・アーカルケルを爆破してさ。
で、いまに至るって訳なのさ」
「えっ…じゃあ、あの時の騒ぎって…アナタの事なの……?」
研究所が爆破されロストナンバーが脱走した。
10数年前の記憶が未視の脳裏に蘇る。
母なるミテラケフィが望んだ旧人類復活。
それがサルモネラ計画であり、旧人類の遺伝子を用いて人造人間が造られた。
「なぜ今になってオリジンの助けが必要なのですか?
このままイスカ・ヤーマで大人しくしていれば、害はないはず」
未視の問いにパン・クラビットはあっさりと答えた。
「サルモネラ博士をぶっ殺すためだよ」
そしてパンの口から淡々と重い真実を臭わせる。
「そもそも顔が気に入らない。それにアイツ、誰かと入れ替わってるんじゃない?」
未視は軽く頷いた。自分が隠れた理由とパンの言葉が一致している。
「……目的は同じってことね」
「そーゆーこと。だから一緒に来てよ、オリジンのチカラが必要なんだ」
パンはそう言うと町の奥へと歩き出す。
「写世へ入る抜け道がある。僕専用のね」
そう言ってパンが案内したのはイスカ・ヤーマの格納庫。
「じゃ、行こうか。妹が待ってるはずだ」
パン・クラビットは慣れた様子でハシゴを登り巨大な乗り物む。
「お、おい、パン。本当にコレで入れるんか?」
その乗り物を見た透流太が驚きの声を上げる。
「うん、コレは資材運搬用の乗り物。今から行くのは資材搬入口だし」
その乗り物の名は方舟。写世へと資材を搬入するための乗り物であった。
——一行を乗せた箱舟は動き出す。
決められたルートを決められた速度で、ゆっくりと進んで行く。
しばらくすると巨大な扉が見えてきた。
「あれは資材搬入口……?」
それは実行部隊だった寧々には、あまり馴染みのない場所であった。
「そんな場所、普通は入れないだろ……」
透流太が呟く。
「大丈夫。ぼく、サルモネラ博士と同じ生態コードだから」
パンが先頭に立つとシャッター横の認証装置が反応し、巨大な扉がゆっくりと開いていく。
「……本当に素通りですね……」
寧々が驚く。
「でしょ?」
得意げにニヤリと笑うパン。
——そして。
写世に入ると思わぬ人物が待ち受けていた。
「そろそろ来る事だと思ってたわ」
そこに立っていたのはウサギのフードの隙間からピンクの髪を揺らす少女。
No.666、15と1の音・《コープライム・ノイズ》、八輝星である。
そしてパン・クラビットの妹であり、パンと同じくロストナンバーでもある彼女。
だが兄妹とは思えないほどに、その外見は異なっていた。
寧々が驚きの声を上げる。
「……コ、コープライム・ノイズ!?なぜ、ここに!!」
コープライム・ノイズは寧々に気付くと軽く挨拶を交わす。
「お久しぶりね、ソニック・ウイング」
驚きはなく、予め来る事が分かっていたかの様であった。
パンが軽く手を挙げる。
「やぁ、ピン。お客さんを連れてきたよ」
「そぉ。じゃあ行きましょうか、パン」
その会話は軽く、まるで口裏を合わせているかのようであった。
未視は状況を理解できず、声を上げた。
「えっ……ちょ、ちょっと待って!あなた、マキナの従者…八輝星よね!?
妹って、どういうことなの……?」
コープライム・ノイズは驚く未視に軽く説明をする。
「お久しぶりね、月戦姫。私はロストナンバーで、そこのパン・クラビットの妹よ。つまり中身はピン・クラビット。
まぁ詳しくは後で説明するわ。まずはアヴァロン・アーカルケルへ行きましょうか」
パンが未視たちに振り返る。
「行こう。ここからが本番だよ」
運命を待ち続けた兄妹と、
運命の扉を開く三人。
二つの世界が、静かに交わり始めた。
「ピンさん、状況は?」
透流太が尋ねる。
「サルモネラ博士はココには居ないわ。そして侵入者検知システムが作動している。
ソフィアの生態コードが引っかかったようね」
「えぇ、やはりそうなるわよね……」
そこは覚悟の上と言わんばかりの未視に向かい、二人が即答する。。
「昼間の未視は戦闘力が低い。だから私たちの後ろへ」
「そうそう。未視はオレの後ろに付いてなって」
透流太が胸を張る。どうやら格好付けたいのだろう。
「……わかったわ」
悔しさと嬉しさが混じり、俯く未視。
——その時。
誰も気付けないほど微細な殺気が一瞬だけ走る。
決して油断していた訳ではない。
気のせいかと思わせるほどの一瞬の殺気。
ただ一人、龍夫だけがそれに反応した。
「……んぁ?」
龍夫は振り返りもせず、ノールックで裏拳を放つ。
ドンッ!
“何か”が吹き飛び、壁に叩きつけられる鈍い音だけが響く。
「ん? 今なんかあったか?」
「さぁ、なんですかね?」
龍夫は鼻をほじりながらすっとぼけた。
だが、ジョーカーだけがそれを認知している。
「それよりも未視しゃま、ココは少し危険な場所のようですね〜。
ささっ、わたくしの傍から離れないように!」
龍夫が鼻息を荒くする。
「未視様の護衛はワタクシの役目でございますから」
だがそこへジョーカーが割って入る。
「マスターの護衛は私が——」
「いやいやワタクシが」
「いやいやいや、そこはオレだろ!」
未視の護衛役を巡って、龍夫とジョーカーは小声で揉め始めた。
そして、そこに何故か透流太も混ざっている。
「……ここだよ」
パンが指差した先には、巨大なエレベーター。
アヴァロン・アーカルケルへと続く唯一のルートである。
「ここは私の権限がないと開かないって訳ね」
パンがニヤリと笑う。
「そうそう、だからオリジンのチカラが必要だったって訳さ」
未視が手の平を認証装置にかざすとエレベーターが起動し、重い音を立てて扉が開く。
「じゃ、あとはヨロシク」
「え?」
「パン!?」
パンはそのままツカツカと別の通路へ歩いていった。
「ピン、任せた〜♪」
「アイアイ〜♪」
軽い声だけが響く。
「……行ったわね」
扉が開き、エレベーターに乗り込もうとしたその時だった。
通路の奥から足音が響き、誰かが迫ってくる。
コツ……コツ……コツ……
銀色の髪が光を反射する。
無表情の少女が一歩、また一歩と姿を現した。
「……No.8、静寂の偏差・《サイレント・デヴィエーション》」
ピンが呟く。
その背後から、金髪の少女が飛び出した。
「やーーーっと来たじゃん、侵入者ぁぁぁ!!姉さん、解析お願いっ!」
「……えぇ」
No.9、騒乱の収束・《ライオット・コンバージョン》。
そしてもう一体。
影の中から、第三のナンバーズが姿を現す。
「ナンバーズ!サルモネラ博士の直属!」
寧々が身構える。
「ピンさん、あれ……」
透流太が言いかける。
「問題ない。あれは私がやる」
可愛らしく、一見のんびりとした所のあるピンの目付きが変わる。
どこからともなく拡声器を取り出すと、空間に計算式が浮かび上がる。
———不可説不可説転、ただの拡声器では無い事は一眼見て理解できる。
「透流太、寧々。双子はアナタ達にお願いできるかしら」
「かしこまり!」
「任せて」
エレベーター前に現れたナンバーズ3体。
ピンの覚醒。
透流太と寧々の初タッグ。
そして——戦闘の幕が上がる。
*****
ピンが不可説不可説転を片手に歩み寄る。
「……№5、酔狂な踊子・《エクスタシー・ピエロ》、疑似凛冽機構実験体の失敗作。
惨めなものね、感情が壊れちゃってるじゃないの」
それは常識と非常識が入り混じった、不快なノイズを巻き散らす。
「ヒャハッ……ヒャハハハ、踊るよぉ?壊すよぉ?ねぇ見てよぉ!
オマエがオレの相手かぁ?あぁん、オマエ…何者だぁ?オマエからは二つの影が見えるぞぉ~」
それは狂った道化師、疑似凛冽機構搭載実験の失敗作。
まるで無軌道に回り続けるオモチャのようにクルクルと回って見せる。
ピンは不可説不可説転を軽く掲げた。
「同情なんてしないわよ」
次の瞬間……声が振動となり響き渡る。
「プラズマエンジン始動、回転率安定、出力レベルを100に固定」
「右手に出力値+100、左手に出力値+100、右足に出力値+100、左足に出力値+100」
「出力レベル同調、四肢駆動限界……安定」
蒼白いオーラがピン・クラビットを包む。
ウサギの耳がユラユラと揺れ、足元の地面がひび割れる。
見た目は変わらないが、中身は明らかに変わっている。
「ヒャハァァァ!!オマエ、気持ち悪いヤツだなぁぁ!
そんなヤツはぶっ壊すよぉ?ぶっ壊すよぉ?イヒィィィ!」
喚き散らしながらが二本のクラブを取り出すと、そのクラブから無数の刃が飛び出し、グルグルと回りながら襲い来る。
「ヒャッ……ヒャハハ……ヒャハハハハ!! 」
攻撃が当たったかに見えたその瞬間……ピンの身体が消えた。
いや消えたのではない、一瞬でエクスタシー・ピエロの死角に入った。
「消えた!どこだ!?」
標的を見失い、焦りの色を隠せない様子のエクスタシー・ピエロ。
———次の瞬間。
ピンは後ろから掴み、そのまま高く飛び上る。
空高く舞い上がり、そして空中で一瞬だけ静止した次の瞬間。
回転しながら真っ逆さまに落ちてくる。
「プラズマエンジン回転数、レッドゾーン!
四肢出力×100!落下速度×100!回転力×100!」
「合計出力40万——絶対領域!」
その時、ピンは限界を超える。
「ダイナモメーター……666万ps!」
「グゥゥゥゥーゴルゥゥゥゥー!スープレックスゥゥゥゥーーー!」
真っ赤な火球となりて回転しながら落下するその様は、まさに地球に激突する巨大な隕石を彷彿とさせた。
ズドォオオオオオオンッ!
エクスタシー・ピエロは地面に叩きつけられ、その落下の衝撃で地面は深く陥没する。
「ガ…ガ…、なん…だって…、オレは…ナンバーズだぞ……」
エクスタシー・ピエロが立ち上がる。
だがその姿と言動からは、先ほどまでの威勢は見る影もない。
ピンの攻撃の凄まじさがそれを物語っていた。
「さすが一桁ナンバーね。あれを耐えて起き上がるなんて。……でも、これで終わり」
そう言って右腕を高く掲げるピン・クラビット。
右手が幾つにも分裂したかに見え、それが一つに集約されていく。
「見えっこねえ!!!
グゥゥゥゥゴル!ナックルゥゥゥゥ!シャフォォォォォーーーー!」
引き絞られた矢の如く飛び出したピンの拳が、エクスタシー・ピエロの顔面に直撃する。
それは抗うことの出来ない暴力そのものであった。
ズドドドドォオオオオオオンッ!
拳が地面に突き刺さる。
それはまるで墓標に捧げる祈りに見えた。
それは……誰のために捧げられた祈りだったのか。
「3カウントは必要ないわね」
―to the Next World―
皆さん、コンニチワ。
ポーランド埼玉です。
ここで新たな敵”ナンバーズ”の登場です。
合計10人のナンバーズのうちの3人が早くも登場。
展開が早い?
いやいや、これくらい急がないと追い付かないくらいのプロットなんですよ~。




