表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/24

ドリーミン・ドリーマー

龍夫たつおを一行に加え、森を進んで行く。

だんだんと日が沈んで行くなかで、一行は野営に適した場所を探しながら歩く。


そんな一行の前に突然、赤く揺らぐ炎が見えて来る。

そう、こんな森の奥深くに、明らかに焚き火の炎だ。


「……焚き火!?こんな森の奥で。

いやでも、はぐれた仲間の可能性も…。遠巻きに様子を見ようか」

そう提案する寧々。


「そうですね。こんな森の奥深くで焚き火をしているなんて。

もしかしたら写世の方たちかもしれませんね。……すこし様子を見ましょう」


遠巻きに様子を見ることで意見が一致した二人。

息を潜めながら恐る恐る様子を伺う。


——だが、そんな二人の苦労も知らず、無警戒に近づいていく透流太と龍夫。

「お~い、誰か居るのか~?」

「おやおや、こんな所で焚き火とは。どなたかいらっしゃるんですか~?」


「「———はぁ~~~」」

大きなため息を付く未視と寧々。

ですがその表情からは“呆れ“と言うよりも、笑いが込み上げ、顔を見合わせ笑う二人が居た。


焚き火の前には一人の少年が座っていた。

年の頃は10歳くらいか、その場には似つかわしく無い年齢だった。


少年は地面に垂らした釣り糸をじっと見つめていた。

そう、地面だ。

地面に釣り糸を垂らしている。


「……地面で…釣り……?」

透流太が思わず呟く。

次の瞬間、地面が“水面”のように揺れた。


トプン。


先ほど見た森の魚だ。

その森の魚を地面から釣り上げた。


少年は無表情のまま、それを片手で受け止める。

「……少し小さいかな」


透流太たちが近づくと、少年はようやく顔を上げた。

「……こんばんは……ここは危ないですよ」

少年は無表情で、そう答えた。


そんな少年に向かって透流太が提案を持ちかける。

「俺の名は減田透流太、写世に向かってる途中だ。

でコッチが久遠未視と音之羽寧々、そんでそっちの浮いてるロボットがジョーカーで。

ソイツはさっき知り合った龍夫、龍らしい。

でさ、俺たちも野営をしたいんだけど、一緒に良いかな?」

透流太が少年に尋ねると、黙って首を縦に振る少年。

いそいそと野営の準備をする3人。

夜が森を飲み込んでいき、辺りは瞬く間に闇に包まれる。


そこへ未視が作る料理のにおいが辺りに立ち込める。

「未視の料理は絶品なんだぜ!オマエも食べるだろ?」

そう言って焚火を囲う一行。

未視の作った料理を盛った皿が透流太の手から受け渡される。

「―――あの~、わたくしの分は…?」

龍夫のそのとぼけた声が場の空気を和ませる。

「はい、どうぞ。お口に合うかしら?」

クスっと笑いながら皿を手渡す未視。

目をキラキラさせて喜ぶ龍夫。


少年は黙って食事を口に運んでいた。

透流太は笑いながら言う。

「もっと食えよ。子供はたくさん食べなきゃ大きくなれないぞ!」

少年は透流太へと振り返る。

その顔はまさに子供のそれであった。

「……そう…ですか」

だが、その返事はどこかぎこちない。


未視と寧々は顔を見合わせ、小声ではなす。

(……やっぱり変よね)

(……でも子供だし……)


龍夫は満面の笑みで語り出す。

「いやぁ~、若いっていいですねぇ~。

わたくしも昔は小さかったんですよ~」

「龍夫~、お前が小さい頃って何年前だよ」

少年はそのやり取りを静かに見つめていた。

焚き火から、バチっと弾ける音が響く。


「そう言えば、まだ名前を聞いてなかったわね。

キミ、名前は?そして、ここで何をしていたの?」

少年は顔を上げ、未視を見る。


「——ボク…そう、ボクは釣りをしていたんだ。

魚…森の魚?ボクの名前は…」

そこまで言いかけて、少年はうつむいた。

名前を言いたくないのか、それとも名前が無いのか。


未視の脳裏に、いくつかの可能性が浮かぶ。

(シェード)のコードナンバーならシナプス信号で読み取れる。

ニューモート出身なら必ず名前があるはず……じゃあ、この子は……?)


少年は小さく呟いた。

「ボクの名前は……少年。そう呼ばれてる」

それは“名前”ではなく、ただの“分類”だった。

未視はさらに踏み込む。

「誰にそう呼ばれているの?ほかにも大人は居るの?」

矢継ぎ早の質問。

だが少年は答えない。

代わりに透流太が口を挟む。

「ほら、誰だって言いたくないことがあるんだからさ。そんくらいにしてやれよ」


未視は言葉を飲み込む。

寧々も、少年の表情を読み取れずに眉を寄せた。

少年はただ、焚き火を見つめていた。

その瞳は何を映し出していたのか。

焚き火の灯りに照らし出された、移ろう陰だけが現実を映し出す。


——夜がゆっくりと更けていく。

透流太はまぶたの重さに逆らえず、そのまま眠りについた。


落ちていく感覚の中、ふと気が付くと、どこまでも続く真っ白い空間が広がっている。

寝ぼけて居るのか、夢の中なのか、それすらハッキリしない。


真っ白な空間の中、少し先に影が立っている。

輪郭はボヤけて曖昧だったが、確かに誰かが立って居る。


その輪郭が徐々に人の形を成して行く。

森で釣り糸を垂らしていたあの少年だ。

少年が透流太に向って口を開く。

「……さっきは……ありがと」

ぎこちない。

言葉を使い慣れていない者の、たどたどしい感謝の言葉だ。


少年は胸元から、小さな光の球のようなものを取り出した。

それは形を持たず、ただ“贈り物”という概念だけが透流太に伝わってくる。

「これ……あげる。キミに必要だと思うから」

そう伝えると少年は影となりカゲロウのように揺らぐ。

けれどその影はすぐに形を変えた。

背丈は伸び、体格は大きくなり、そして服の形を変えていく。


影が形を成す——そこには行商人のデステ兄さんが、あの時の調子でにこやかに立っていた。

「どうもどうも、先日はありがとうございました♪」

夢の中なのに、妙に現実味のある声。


しかしその瞳の奥には現実では見せなかった本性が潜む。

「……して、例の剣。まだお使いになっておられないご様子で」

透流太は思わず目を丸くした。

どうして分かったのか、その理由がすぐには掴めない。


デステ兄さんは愛嬌のある笑顔を見せながら続けた。

「まぁ、一度お使いになってから……でございますかねぇ。アレはその時を待っておりますよ」

「あっ……まった……」

透流太の声にならない問いも虚しく、デステ兄さんの影は揺らいで消える。

そしてまた、別の姿を形作って行く。


最後に現れたのは、見たことのない男だ。

落ち着いた目つきで、初対面のはずなのに何故か不安は感じられない。

「はじまして、透流太。突然だが、キミはこれからとある人物に出会う」

男の声はとても穏やかで、そしてどこか現実離れをしていた。

「その人物とは、見た目は子供のようだが……。まぁ、実際に会ったほうが早いかな」


クスッと笑いながら男は話を続ける。

「その人物の助けになってほしいんだ。いや、無理にとは言わない。

それでもキミなら……きっと手を伸ばしてしまうのだろう?」

その言葉を聞いた途端、透流太の胸の奥でカチッと音が鳴る気がした。

それが何だったのかは分からない。

それだけ言い終えると、男の輪郭は光の中へと溶けて消えた。


———透流太はハッと目を開けた。

テントの外に目をやると、焚き火はまだ小さく灯っている。

見張りをしていたジョーカーが透流太に気付くが、スグに見張りに戻って行った。


「……まぁ、いいか」

さっき見たのは夢か現実か、何も分からない。

ただ、眠気が思考を鈍らせて居るのは確かだった。


*****


夜が明けた。

透流太が目をこすりながら起き上がると、少年は消えていた。

既に旅立った後なのか、それとも初めから居なかったのか。

そこには焚き火の後だけが残っていた。


未視が痕跡を探す。

寧々が周囲を見回す。

ジョーカーがセンサーを最大出力にする。

だが——

「痕跡は……何も無いわね」

「足跡も、何も……」

「センサー…周囲に熱源反応なし。ですが……昨夜の見張り中には、何も動きは有りませんでした……」


生体反応には敏感なはずの龍夫も首を傾げます。

「ふ~む、わたくしも気づきませんでしたね〜」

透流太は頭をかく。

「え、帰ったんじゃねぇの?」


未視と寧々は同時に振り返る。

(帰ったって……どこへ?)

(誰にも気付かれずに痕跡を消すなんて……)

少年は最初から存在しなかったかのように、忽然と"消えた"としか言い表せなかった。


「コレで良しっと。じゃあ先を急ごうぜ!写世まであと少しなんだろ?」

難しい顔をする二人に向かって、透流太が行動を促します。

「———そうね、考えたって分からないものに時間を費やすのは非効率ですからね」

寧々は気持ちを無理に切り替えて透流太に賛同します。

「…寧々の言う通りね。気持ちを切り替えて行きましょう」

未視も賛同します。


そして、そのやり取りを側で見ていた龍夫が重い口を開く。

それはまるで、何かを察した第一発見者のような口ぶりでした。

「意気投合している所、大変申し上げづらいのですが……」


3人が一斉に振り返る。

それは皆の動きを止めるのには十分すぎる程のタイミング。

何か重大な見落としでもあったのか?

それとも、また別の新たな問題でも発生したのか?

「な、何だよ龍夫…。なにか問題でも有ったか!?」


透流太の問に、一拍おいて龍夫が返します。

「———あの~、朝ごはんはまだでしょうか?」

ぽかんと口を開ける透流太。

がっくりと肩を落とし、ため息を付く寧々。

必死に笑いをこらえ下を向く未視。


「あ、あぁ、そうだな。うん、そうだ、そうだ。朝ごはんだよな」

「そうね、あの少年の事で頭がいっぱいで忘れてましたわね」

「えぇ、こう言う時はブドウ糖を摂取するのが一番だな」

そう言って朝食の支度をする3人。

透流太は火を起こし、未視が調理し、寧々が食器類をテキパキと用意。

そして、上機嫌でその様子を眺める龍夫。

「あっ、わたくし肉多めでお願いします♪」


*****


支度を整え、一行は改めて森の奥へと歩き出した。

やがて木々の間から明かりが漏れ視界が開ける。


森を抜けた先に広がっていたのは、川……と呼ぶにはあまりにも整いすぎた水路だった。

直線的でかなりの川幅、深さも均一な整った造り。

明らかに自然の造形ではない。


それは写世を守るために造られた、人工の最終防衛ライン。

「泳げば渡れそうだけど……」

透流太が呟くと寧々が首を振る。

「少し行けば橋があります。そちらの方が安全に渡れるわね」


その提案に従い、一行は水路沿いを先に進む。

ほどなくして大きな橋が姿を現した。


だが——

橋の前には三つの影が立っている。

遠くからでも分かるハッキリとしたシルエット。


「……っ!」

寧々が誰よりも早く気づき、無意識に駆け出す。

そして震えた声で叫んだ。

「インサニティ隊長!」


未視の表情がふっと緩む。

喜びと安堵が入り混じり、いまにも泣き出しそうな顔。

「サニー……それに…マキナ、みーちゃん……」


そこには久遠未視の実の兄弟達。

オリジン四戒の姿があった。


―to the Next World―

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ