胸中
獣人たちを無事、かの地へと送り届けた透流太たち。
その報告のため、寧々はサニーへと通信連絡をする。
「……と言う訳で、無事に獣人たちは保護しました。……ですが、残念ながらグノーシスは逃してしまい……」
「いや、むしろ良くその状況で全員無事で済んだものだな。……となると、あっちを任せても……」
なにやら含みのある言い方で、サニーは切り出した。
「……四人に行ってもらいたいところがある。写世には戻らず、そのまま直接向かった方が早いだろう。なのでまずは、かの地で十分な休息と補給をとって……」
「その……インサニティ隊長……行くのは全然構わないのですが、肝心の目的地はどちらでしょうか?」
寧々の問いに一呼吸おいてサニーが答える。
「あぁ、それなんだがな。実は……ニューモートなんだ」
「ニューモート!透流太の生まれ故郷の!」
「あぁ、そうなるな。寧々、お前はニューモートについて何も聞かされていないよな?ソフィアやミテラケフィからも」
そうしてニューモートに秘められた真実を打ち明けるサニー。
「落ち着いて聞いてくれ。ニューモートは……自然にできた街じゃない」
「え……?」
「まだサルモネラ博士が健在だった頃、旧人類を復活させるために建設された——言わば実験場だ」
一瞬、寧々は言葉の意味が理解できなかった。
「そして、ニューモートの運用は……全てを写世が管理している」
サニーの口から聞かされた衝撃の事実に、言葉が出ない寧々。
「そんな……じゃあ透流太は実験体……」
「いや待て、恐らくオマエが思っているような酷い実験ではないぞ。現世から絶滅してしまった旧人類を復活させることが、冥土の存続にも関わる重要な事案だったと考えられていた……らしい。オレも実際にはそこまで詳しい経緯は知らん。なんせ父が生きていた頃の話だからな」
サニーの父、それは太陽光流剣術の始祖であり、最後の冥土の1人、ローデリングのことであった。
「それと……できればこの事は透流太にはまだ言わないで欲しい。その時が来たらオレか、もしくは母なるミテラケフィの口から直接伝える」
「分かりました、それではこの事は伏せておきます。それで、ニューモートに行って何をすれば宜しいでしょうか」
サニーの言葉を一旦受け止めて、話を続ける寧々。
「あぁ、理由は簡単だ。獣人奪取に失敗したから、次に狙われるのはニューモートだろうって消去法だ」
「……確かに……ではイスカ・ヤーマも危ないのでは!?」
「そこは大丈夫だ。すでにパンが手を打っている。とことんヤツが味方で良かったと痛感させられたぜ。それにパンの妹の話も聞いたが……全く、とんでもねぇ兄妹だな」
サニーは呆れたように笑う。
「インサニティ隊長……ありがとうございます。私たちのことを気遣って頂いて……」
「あ~、なんだ。まぁ、透流太は大丈夫だ。アイツはそんなヤワじゃね~だろ」
そんな軽口の裏側に、寧々を元気づける優しさが滲みでる。
「それともう一つ。ニューモートへは先に八輝星……ブレイキング・ビリーとスージー・9を向かわせている。そいつらと合流して任務にあたってくれ。それとだ。ちょっとジョーとリリーに変わってくれるか?」
サニーの命令通り、すぐにジョーとリリーを呼びに行く寧々。
*****
ザック、ザック、ザック……
「ふぃ~、腰にくるぜ~」
「アハハハ、情けないぞジョーよ!たまにはこうしてクワを振るうのも、なかなか良い鍛錬となろう!」
みるみる畑を耕していくリリーと、音を上げるジョー。そこへ寧々が走ってくる。
「おぉ~い、ジョー、リリー。インサニティ隊長がお呼びだぞ~」
「おぉ、これぞ大義名分♪畑仕事から抜けられるぜ~」
「まったく、軟弱な……だが、インサニティ隊長のお呼びとあらば仕方あるまい」
大喜びで駆けていくジョーと、その姿を見てフッと微笑むリリー。
*****
「大隊長、お呼びでしょうか?」
「ダイヤモンド・リリー、ストライク・ジョー、お呼びに応じ馳せ参じました!」
2人の声を聞き、少しだけ声のトーンが上がるサニー。
「おぉ、お前たち。急に呼び出してスマンな。どうだ修行の方は?ラスティに教わる機会なんて、滅多にね~からな~♪」
「いや、もう……とても有り難いです、はい……」
「インサニティ隊長、感謝いたしますぞ!まさか、もう一度アルカイド先生の隣で剣を振るえようとは!」
「いやいや、振るってんのは剣じゃなくクワでしょ……」
「アハハハ、男がそんな細かいことを気にするな!」
赤錆の破軍・《アルカイド・ラスティ》——元はサルモネラ博士の直属の近衛であったが、ガントフォース立ち上げに際し転属。
八輝星たちにとっては先生であり師匠であった。
「修行に励んでる中、申し訳ないんだが……」
改まった口調で本題を切り出すサニー。
「2人は写世に戻って来てくれ……少し気がかりが有るんでな」
「気がかりとは……インサニティ隊長にしては珍しいっすね」
「ん、あぁ、杞憂なら良いんだが……ソフィアと共に、いつでも出れるようにと思ってな」
2人の顔には緊張と同時に、喜びの感情が湧き上がる。
「おぉ、姫と行動を共に出来るのであらば、ダイヤモンド・リリー、喜んで馳せ参じましょうぞ!」
「おっしゃ!よーやっと殲滅隊の出番が来たぜ!」
*****
「透流太、次の目的地が決まったわ」
「おっ、そうか。んで、お次は何処へ行きましょうか~♪」
「それがね……ニューモートなの」
「!?」
一瞬、言葉に詰まる透流太。
「ニュ、ニューモートー!?オレの生まれ故郷じゃんかよ!……って言うかオレ、間接的に追放されてんだけど……大丈夫かな……?」
透流太のその問いに、少しうつむいて寧々が答える。
「……えぇ、大丈夫よ。写世の方から力添えをしてくれるわ」
「おぉ~、そうなんだ!やっぱ写世の影響力はスゲーんだな!……ジイちゃん、元気にしてっかな……」
久しぶりに故郷へ帰れると知り、嬉しそうな表情を浮かべる透流太。そんな透流太の顔を見ることが出来ない寧々。
——翌日の朝。
ニューモートへと向かう準備の整った透流太たち。
「じゃあ、世話になったな。アッシュ、フロウ」
「おぉ、透流太。また戻って来いよ!」
固い握手を交わす透流太とアッシュ。
「寧々~、向こうに付いたらキュウちゃんに宜しく伝えてね」
「えぇ、キュウちゃんに会ったら伝えとくわね。それと……フロウも元気でね」
「うっ、うっ……うぇ~ん、みんな無事に戻って来てね~」
相変わらず泣き虫のフロウを、ギュッと抱きしめる寧々。
「アッシュ~、また戻って来るからね♪」
「……アッシュ、また来るね」
あの一件以来、すっかり双子に懐かれたアッシュ。
ゴソゴソとポケットを漁って、何かを取り出す。
「ほら、二人とも左手を出して……っと、これで良し。ボクからのお守り代わりだよ」
メイには蒼い石、マイには紅い石がはめ込まれたブレスレットを2人へプレゼントするアッシュ。
「キャァ~♪ありがと~、アッシュ~♪」
——チュ!
「……アッシュ……嬉しい」
——チュ!
2人からキスのお返しを受け、顔を真っ赤にするアッシュ。
「ちょっと!長年一緒に居るアタシには、な~んにもくれないくせに~」
口ではそう言っても、双子に抱きつき、ほっぺを擦り寄せるフロウ。
みなに別れを告げ、かの地を後にする4人。
向かうは透流太の生まれ故郷のニューモート。
そこに待ち受けるは安息か絶望か……。
まだ見えぬ、運命の螺旋が渦を巻く。
「すっけるったの~、うっまれこきょ~♪」
「……どんな所……かな?」
―to the Next World―




