信託
戦闘は終結した。
しかし誰一人として、それで終わったとは思っていなかった。
戦闘を終え、心配そうな表情で透流太に駆け寄る寧々。
「透流太、大丈夫!?こんなにも血が……すぐに手当しないと」
「……うん、ありがとう寧々。俺は大丈夫、この程度なら洸杜が自然に治して……イテテッ」
「ホラ、無理しないで。肩に掴まって、中で治療しましょう」
寧々に肩を担がれながら里へと戻る透流太。
*****
「かすり傷程度で済んで良かったわね……ホント、心配したんだから」
傷が浅い事を知り、いつもの顔に戻る寧々。
「あぁ、洸杜様々だよ」
透流太の遺伝子に組み込まれた生態AI――洸杜。
傷の修復も、その役目の一つだった。
「それはそうと……龍夫は大丈夫か?アイツ、撃たれてなかったか?」
「そうね、私もハッキリとは見ていなかったけど……撃たれてたわね」
噂をすると、その龍夫がひょっこりと現れる。
「大丈夫じゃないですよ~。わたくしだって痛いものは痛いんですからね!」
グノーシスの弾丸を全て背中に受けた龍夫。
透流太の治療を終えた寧々が龍夫の背中を見る。
「龍夫……アナタの背中、傷一つ無いわよ」
「えぇ、そんな。もっとちゃんと見てくださいよ~。ホラ、ココ。ちょっと痛い気がするんですよ~」
そこへメイとマイがやってくる。
「た~つおっ♪はいコレ。透流太を助けてくれてアリガトね♪」
「……龍夫、コレは私から……ありがと」
メイとマイからの贈り物の花飾り。それを首からかけてもらう龍夫。
「えっえっ、ちょっと……なんて良い子たちなんでしょう。流石は透流太さんと寧々さんのお子様たちですね~♪」
「ちょっと!なに勘違いしてんのよ、龍夫!」
「はいはい、照れなくても良いんですよ~♪」
そんな寧々の言葉も聞かず、鼻歌交じりで部屋を出ていく龍夫であった。
*****
「……って感じで、今回は奴らを追い返しただけでさ。ここに居たらまたいつ襲ってくるか分かんね~よ」
長老の元へ行き、今までの経緯と今後の対策を話し合う。
「……使者様、先程の戦いは我らも里の中から見ておりました」
顔を上げ、ぐるりと里を見回す長老。
「……もはや、我らに対処出来る問題ではありません。どうか我らを安住の地へと導いてくれますでしょうか」
里を出る決心が付いた事を透流太たちに打ち明ける長老。
「……そうね、すぐにでも準備をした方が良いわね。目的地は“かの地”と言う我々が管理する開拓地です」
獣人たちは"かの地"への移住を決断する。
密林を抜けてもなお、徒歩で約三日。
総勢約500名、大勢での移動となれば、その倍近くは掛かるだろう。
「子どもやお年寄りもいるでしょうし……六日、いえ、それ以上掛かるかもしれないわね」
「皆のもの。しっかりと準備をして、新天地へと向かう事としようぞ」
長老の号令の元、一斉に準備に取り掛かる獣人達。
不安そうな顔をする子どもたち一人ひとりに声をかけ、安心させる透流太と寧々。
自分の身丈の10倍以上の食料を持つ龍夫。
——そして出発の朝はやってくる。
*****
里を出た一行は、密林を抜け、幾つもの険しい道を越えながら進んだ。
子どもや老人を抱える移住は困難を極めたが、互いに支え合い、一歩ずつ前へ進む。
そして数日後——。
「見えたぞ、あれが“かの地”だ!」
視界に飛び込んできたのは、整然と立ち並ぶ石造りの外壁。広大な土地に先が見えない程の田畑。
そして2人の男女が皆を待ち受ける……アッシュとフロウだ。
「おぉ~い、アッシュ~、フロ~ウ!」
2人に手を降りながら駆け寄る透流太。
「まってたぜ~、透流太!」
だが透流太を追い越して飛び出す2つの影。
タタタ……ガバッ!
「アッシュ~♪」
「……アッシュ!」
アッシュに飛びついて抱きつくメイとマイ。
「おぉ~、メイちゃんにマイちゃん!元気だったか~♪」
双子に飛びつかれクルリと一回転しながらその場に倒れ込むアッシュ。その表情からは嬉しさが滲み出ていた。
「あっ、透流太~、寧々~。元気そうで良かった~」
フロウが手を振って2人を迎える。
「フロウ、アナタも元気そうで良かった。それと、獣人のみんなを受け入れてくれて、本当にありがとう」
フロウとの再開に、硬く手を握る寧々。
フロウの後ろには、もう1人の影。寧々の義理父であり師匠でも有る、赤錆の破軍であった。
「寧々、無事で何よりだ。そして獣人たちの移送と護衛、ご苦労だったな」
「はい、お義父さん。誰一人欠ける事無く、連れてまいりました」
「それと……」
ラスティが言いかけると、その背後から更に2人。
ザッザッザッ……。
「ちぇ~、一歩遅かったかよ~」
「何を言う、ジョー。無事に戻ったのだから、良しとしないか」
なんと、そこへ現れたのは殲滅隊の2人。
連撃の雷管と、咲き誇る金剛であった。
「ジョー!リリー!なっ、なぜこんなところに!?たしか二人とも……カグヤの特訓を受けてたんじゃ……」
まさかの殲滅隊の2人の登場に困惑する寧々。
「あぁ、インサニティ隊長からの緊急指令でよ。お前たちの助っ人に来たんだよ」
「アッシュからグノーシスらしき姿を目撃したとの通信が入ってな。インサニティ隊長が我らを寄こしたんだ。まぁ、それだけではないんだが……」
助っ人として来たが、一足遅かった事を悔しがっている様子のジョー。
「寧々、その2人って……前にソフィアが言ってた……」
透流太が聞くが早いか、名乗りを上げる2人。
「そうそう、俺は殲滅隊のストライク・ジョー。ジョーって呼んでくれ!」
「同じく、我はダイヤモンド・リリー。気軽にリリーと呼んでくれて構わないぞ、英雄殿!」
「はぁ?俺が英雄ってどう言う事だよ」
「そなたはあのグノーシスとやりあって、生きて帰って来た。それを英雄と呼ばず何とする」
リリーの言葉を聞き、照れくさそうにする透流太。そこに寧々が割って入る。
「ところで、さっき言ってた『それだけではない』ってどう言う意味かしら?」
困惑する寧々と透流太にラスティが間に入って説明をする。
「ハハハッ、コイツらは再教育だ。カグヤは残りのナンバーズを探しに行くとかってよ。んで、俺ントコに回されたって訳だ」
「なるほど、やっと理解できたわ。ジョー……だから悔しがってたのね。師匠の特訓から逃げられると……」
「そ、そんなんじゃね~よ。お前らの事が心配だったってのは、間違いね~からよ」
「それよりもジョー、これを……」
その時、寧々が思い出したかのように腰に差した双星の片割れ、ポラリスを取り出した。
「そいつは……ポラリスじゃねーか!なんでお前がコイツを……」
寧々からポラリスを受け取るジョー。そして事の顛末を話す透流太と寧々。
◇
「そうか……確かに受け取った。でもコイツはやっぱ姉弟子のカグヤの持たせるべきだ……未熟なオレじゃ……」
気弱になるジョーに向かい、リリーが激励する。
「何を思い詰める事が有るかジョー!我の片翼であるそなたなら、持つにふさわしかろう!」
「!!」
「……だってよ、ジョー。女の願いに応えんのもまた、男の務めってな♪」
「ちょ、師匠!変な言い方すんなよ……」
ポラリスを持つ手にグッとチカラが入るジョー。
「サンキューな、リリー」
小声でぼそっと呟くジョー。
「ん?何か申したか、ジョー」
「なんでもね~って!」
ジョーがポラリスを高く掲げる。銀色の銃身が太陽の光を跳ね返す。
分かたれた星は鈍い輝きを放ちながら、片翼の友を祝福する。
「よぉ~し、お前ら。全員まとめて特訓だっ!」
「えっ、ちょっと休ませて……」
「お義父さん、それは流石にちょっと……」
―to the Next World―




