洗礼
再び旅の歩みを進める一行。目的地は獣人目撃のあった森。
そして、そこへ行くためには、眼前に聳え立つ山を大きく迂回せざるを得なかった。
「しっかしよ~。あの山……えっと不地だっけ?あそこを大きく迂回するとなると、かなりの遠回りだよな~」
「そうね、目的地は丁度あの山の反対側。まぁ、洸杜を持つ透流太なら、一人でも越えられるんじゃない?」
クスッと軽い笑みを浮かべ、冗談めかしに返す寧々。
「えっ、ヤダよ一人でなんて。それに、いくら洸杜だからって、寒いもんは寒いしよ~」
そんな話をしながら歩みを進めていると、辺りの景色が徐々に変わってきた。
「や~っと荒野を抜けた~♪」
「……もう暑いのはイヤ」
容赦なく照りつける太陽の光にさらされ続けたからか、日陰のある森に入ることに躊躇のないマイとメイ。
「森か……今までは視界が開けていたが、ここからは慎重に進んだ方が良さそうね」
「だな。物陰から何が出てくるか分かんねーし。まぁ、いざとなったら洸杜が検知してくれるだろーけど、警戒するに越したことはないよな」
警戒しながらも森へと入る一行。だが、森は静かに侵入者を阻む。
葉が生い茂り視界を遮り、地に這う根が進行を妨げる。
そして、一歩進むごとに森の洗礼を受ける一行。
「ぐっ、よっと、ふぃ~。こりゃ、日陰なのは良いが……ちょっと……このっ!参ったねこりゃ」
「確かにこれは……森と言うよりも密林だな。こんな所で襲われでもしたら……」
「おいおい、寧々~。そー言う事を言っちゃうと、ホントに出てきちゃうだろ~」
なかなか思うように進まない進行状況。
そしてその状況に、とうとう痺れを切らすマイ。
「も~ヤダ!前もよく見えないし、歩きづらい!……こ~なったら~!」
「ちょ、ちょ!突然どうした!」
「ちょっとマイ、こんな所で斧を取り出して、いったい何する気よ!?」
マイが手にする身の丈に見合わないほどの大斧。その名は剛斧・禍断。
その大斧を勢い良く回転させ始めたマイ。
「おぉぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そして刃の先端に装着された推進装置から炎が吹き出し、その回転はどんどん勢いを増していく。
吹き出した炎が円になり、炎の輪を形成する。
そして次の瞬間——マイがキレイな弧を描き一回転。その勢いのまま、禍断を地面に突き刺す。
「出力調整10%……いっけーーー!インフェルノ・サイクロン!」
ドゴォォォォォォーーーッ!
振り下ろされた禍断から炎の竜巻が起こり、目の前の樹木を次々となぎ倒していく。
ズドドドドドドドドーーー…………。
「いよっしゃー!これでスッキリ。さっ、みんな行きましょ♪」
マイが切り開いた樹海のトンネルを進む一行。徐々に視界が開けて行き、差し込む光の量も増えてくる。
そろそろ樹海を抜ける。
だが、その平穏な歩みを阻害するように、透流太の洸杜が反応を示す。
キィィィィィィィ……
「これは……敵性反応!?」
「この先に何か居るみたいね……」
警戒態勢に入る一行。恐る恐る樹海から顔を出す。
そこには大きな湖が広がっていた。そしてその湖畔には複数の人影。
「人!?しかも集団で。……どうする寧々、このまま一気に……」
透流太の言葉を遮るように寧々が冷静に判断する。
「待って、良く見て。あれって……子供じゃないかしら。それに深くフードを被っているけど、その隣は女性。母親ではないかしら」
寧々の冷静な分析に、落ち着きを取り戻す透流太。
——だが、次の瞬間。
……シャァァァァァァッ!
突如、物陰から複数隊の影が飛び出し、その集団に目掛けて一直線に襲い掛かる。
第五世代に酷似した風貌だが、その体表は真っ黒のアンドロイド。
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
「奴らよ!子供たちを……早く!」
その集団は蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑う。
だが、一人の子供が逃げ遅れ……。
ガアァァァァァァッ!
鋭い爪で子供に襲い掛かるアンドロイド。
その刹那。
ギィィィィィンッ!
透流太だ。
咄嗟に剣で攻撃を受け止める。
「ぎっ!このっ!コイツ……何なんだ!?」
「透流太、そいつらは恐らく第五世代。だけど私の知ってるネクストとは……」
「ごちゃごちゃ考えても……わっかんないしー!」
ズドンッ!
「……まずは殲滅……」
スンッ!
マイとメイも参戦。
だが、ネクストとは比べ物にならないチカラに苦戦する三人。
「ちょっと、コイツらなに!?ネクストとは比べ物になんないよ!」
「……マイ、泣き言をいわない」
キィィィィィンッ!
「メイとマイはそのまま連携!透流太は大丈夫ね。私は子供を、そしてみんなの守りに入るわ!」
「えっ、ちょっと、オレに冷たくない……って言ってる場合じゃ……ねーか!」
ザンッ!
次々と襲い来る真っ黒いネクスト。だが三人の反撃に、徐々に数を減らしていく。
「コイツで……ラストか!」
ザシュッ!
「ふぃ~、やれやれ。一時はどうなるかと……」
透流太が気を抜いたその瞬間。背後に倒れたネクストが腕を伸ばし透流太を狙う。
ダンッ!
「……透流太、油断しすぎ」
間一髪、メイが気付きとどめを刺す。
「あっぶね!いや~、助かった助かった、ありがとうね、メイちゃん♪」
そう言ってメイを担ぎ上げ、肩に乗せる透流太。ほほを赤らめニッコリと微笑むメイ。
「あっ、ずる~い。アタシもアタシも~」
そしてもう片方の腕でマイを担ぎ上げる。
「どうやら片付いたようね。……それで、アナタ達。なんで二人して担がれてる訳?」
寧々のその問いに、満面の笑みで答える二人。
「それよか他の人たちは大丈夫だったか?」
「えぇ、コッチは大丈夫。みんな無事よ」
寧々たちと合流すると、集団の中から一人の女性がこう告げる。
「危ない所を有難うございました……その、お礼もかねて、出来れば私たちの集落までお越し頂けないでしょうか」
「そうだな。まだ奴らが襲ってくるかもしんねーし。集落まで無事に送り届けてやろーぜ」
そう言って集落へ案内する女性。しばらく進むと森が見えてきた。
「この奥です。その先に私たちの集落があります……いま長老を呼んでまいりますので、少しお待ちください」
森を抜けると、そこには開けた空間が広がる。そして、煙、畑、子供の笑い声。
そこで透流太が目にしたものは……。
「これはこれは、あぶない所を助けて頂き、まことに有難うございます」
フードを深く被る、腰の曲がった男が近づいてくる。
「あぁ、みんな無事みたいで良かったよ。それよか、こんな森の奥に……集落があったなん……っっって、はぁ!?」
その男がフードを脱いだ瞬間、透流太は硬直して声を失った。
顔は人そのものだが、頭には獣然とした耳が付いている。
そう、彼らこそ探し続けた獣人だったのである。
「ようこそ獣人の里へ。あなた方は写世から来なすったんじゃろ?」
突然の獣人との邂逅、そして色々と知って居そうな口ぶりの老人。
軽いパニックに陥り、思考がまとまらない透流太。
運命が螺旋の如く捻じれていく。
「ははは……とりあえず…どうしよう?」
「わぁ~い、耳だ耳だぁ~♪」
「……触りたいの……」
―to the Next World―




