価値
「ようこそ獣人の里へ。皆を救って頂き、まことに感謝いたします。あなた方は写世から来なすった使者様じゃろ?」
人と変わらぬ顔立ち。しかしその頭には紛れもない獣の耳が揺れていた。
「えっ!?あなた達が所謂その……獣人……ですよね?」
突然の出来事に戸惑いを隠せない透流太。
「まさか……あなた方が獣人だったとは……」
寧々も目を丸くし驚いている。
「立ち話もなんですので、どうぞコチラへ。まずは色々と聞きたいことが有るんじゃ無いですか?」
そう言って集落の中を進んで行く一行の眼に、信じられない光景が飛び込んできた。
「おやおやおや、こんな所で奇遇でございますね~。透流太さん、寧々さんと……それとそちらの可愛らしい子供たちは、もしやお二人のお子様で?」
それはハンモックに揺られながら果実をあしらったジュースを飲む龍夫であった。
「はぁ!?龍夫じゃね~か!オマエ……何でココに居るんだよ!」
「龍夫!アナタ、なんで獣人の集落に!って言うか、なにしれっと勘違いしてんのよ!」
驚きを隠せない透流太と寧々。
写世で別れたと思っていた龍夫が目の前に居る。
そして龍夫の前には沢山の肉や果物が山のように積みあがっている。
「いや~、実は~。ココに来ると、食べ物を沢山いただけるんですよね~」
あの軽い口調で状況を説明する龍夫。
状況が理解できず、完全に思考を放棄した二人。
龍夫の顔をチラッと見てから、獣人達に視線を移し、もう一度龍夫に視線を戻す透流太。
「あ~、何だ。うん、分かった分かった……じゃっ、そー言う事で!」
寧々も満面の笑顔で続く。
「……龍夫、また会いましょうね。じゃっ、お元気で♪」
「チョットチョットチョット!」
龍夫が慌ててハンモックから飛び起きる。
「なんで行こうとしてるんですか!せっかくの再開だと言うのに……わたくしたち、友達じゃ~ないですか~」
そのやり取りを見ていた周りの獣人達がざわつき出す。
「龍神様の……お友達!?」
「龍神様とあんな親しげに……もしや神の御使様では!?」
「そうだ、御使様に違いない!御使様にお祈りを捧げなければ」
そう言って獣人達は一斉に透流太たちに向かってひざまずき、祈りだした。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!俺達は御使様なんかじゃ無いからさ!」
「み、み、皆さん、落ち着いて下さい!ちょっともう、何なのよ龍夫!」
困り果てる透流太たちの元へと長老が駆け寄り、皆に伝える。
「これこれ、皆のもの。このお方たちははるばる写世から来なすった使者様たちじゃ。これからワシの家でおもてなしをするんじゃから、皆も少し落ち着け」
長老の言葉を聞き、素直に道を開ける獣人達。
「さぁ、参りましょうか、使者様」
——長老に連れられ集落の奥へと進んでいく一行。そして何も言わずに着いてくる龍夫。
集落は子供たちの声と、そして活気に満ちていた。
そして中央の広場に差し掛かった時、目に飛び込んできたのは、木組みの大きな櫓に、天辺に置かれた太鼓。
そしてその周りを取り囲むように多数の露店が並ぶ。
「長老、これは……何かの儀式でもやるんですか?」
疑問に思った透流太が長老へと問いかける。
「おぉ、そうですじゃ。今夜から三日間、竜神様を祀る祭りが催されるんじゃ。使者様たちも、ぜひ楽しんで行ってくだされ」
「祭り……?竜神って龍夫の事よね?長老、その祭りとは何でしょうか?」
寧々が更に問いかける。
「おぉ、写世には祭りはないのですか……祭りとは、皆で騒いで、美味しいものを食べて、そしてあの櫓を囲み、皆で踊るのです。そうする事で竜神様を称え、喜んで頂くのです」
「へぇ~、そいつは楽しそうだなぁ♪メイちゃんも、マイちゃんも、喜んでるみたいだしよ~」
「祭り!なになに!美味しいものを食べるの!?」
「……踊り、私もやりたい」
——広場を横目に、長老の家へとやってきた透流太たちは、さっそく現状を説明する。
「——旧人類が復活したことを伝えるために、ここまで来ました」
「……平穏な暮らしも終わると……そう言いたい訳じゃな。確かに……遺伝的制約がある以上我ら獣人は旧人類には逆らえんじゃろう」
腕組みをし深く考え込む長老。そこへ寧々が一つ提案する。
「我々の代表、つまり冥土の最後の生き残り……と言うか、生体コンピューターなのですが。その方から伝言を預かっています」
すると寧々は懐からボイスレコーダーを取り出し再生した。
「……獣人の皆さん。私はミテラケフィと申します……率直に申し上げます。あなた方の遺伝的制約は解除できます。なので……故郷を捨てろとは言いません。ですが一時で良いので、我々に身をゆだねて下さい」
それは母なるミテラケフィからの伝言であり、獣人たちの未来に光をもたらすには十分すぎる提案であった。
「あぁ、冥土は我らを忘れておらなんだか……」
ミテラケフィの伝言を聞き、大粒の涙を流す長老。
「そのお気持ち、無下には出来ますまい……ですが、まずは皆で話し合いをさせて頂きたい」
一連のやり取りを終え、長老はさっそく相談役たちを集める。それは500年前の最終戦争を知る者たちであった。
「使者様たちはぜひ祭りを楽しんで行って下され。竜神様もこの祭りを毎年楽しみにして下さってますのじゃ」
そう言って長老たちは会談の席を設け、話し合いを進める。
——広場に戻った透流太たちは、ずらりと並んだ屋台を見て回った。
どこからともなく流れてくる笛の音。子供たちの嬉しそうな騒ぎ声。漂う香ばしい匂い。
初めて目にする祭りの喧騒に、舞い上がるメイとマイ。
「ねーねー、透流太。次はあっち!」
「……あの可愛いお面、欲しい」
「はいはい、慌てない慌てない。おっ、この丸くて香ばしい香りの……ん~、たまらん!寧々、一緒にどうだ♪」
透流太が買ってきたのは丸く、香ばしい匂いを放つ、一口大の食べ物であった。
「どれ、一口で……うぉっちっ!はふっはふっ!ん~、熱い……でも、うま~い♪」
(ゴクリッ)「お、美味しそうね透流太。私も一つ貰って良い?」
「おう、ほら、あ~ん」
「あ、あ~ん……んっ!あっつ!はふっはふっ……でむ、美味い♪」
透流太がその丸い食べ物を、寧々の口へと運ぶ。そして、その様子を見ていた双子が続く。
「あ~、寧々ばっかずる~い。透流太アタシも、あ~ん」
「……ワタシも、あ~ん」
「二人とも、すっごく熱いから火傷に気をつけてな~」
そう言ってメイとマイにも食べさせて上げる透流太。
「あっ、使者様たちだ!ねーねー、一緒に踊ろうよ!」
「使者様、踊ろう踊ろう♪」
それは獣人の子供たちであった。
子供たちに誘われ、ぎこちなくも楽しいひと時を過ごす四人。
時間がゆっくりっと過ぎていく。
四人の記憶に、いつまでも残り続けるであろう、大切なひと時……。
四つの螺旋がキレイな円を描いて絡まりあう。
「あの~、わたくしが居る事、忘れていませんか……」
―to the Next World―




