晴天
「じゃあ、そろそろ出発するよ。いろいろ世話になった。アッシュ、フロウ、ありがとう」
「アッシュにはまた世話になっちゃったわね。今回も感謝してるわ」
透流太と寧々の本音のお礼に照れくさくも嬉しさを隠せないアッシュ。
「えっ、あぁ、うん。ま、まぁ、オレで良ければいつでもチカラになるからさ」
「そうそう、アッシュはこれしか取り柄が無いもんね~。バンバン頼っちゃって良いからね♪……そして、また元気な顔を見せに来てね。約束よ」
アッシュをからかいつつも、別れの場面に涙ぐむフロウ。
「アッシュ、フロウ、本当にありがとうございました。また遊びにくるね♪」
「……アッシュ、この恩は忘れない。フロウ、また絶対に会いに来る……」
「……もう、ホントに良い子たちなんだから……うっ、うっ、うわ~ん、また絶対に会いに来てよ~」
双子を抱きながら泣きじゃくるフロウ。
「おう、お前ら。ちょっと良いか」
ラスティはそう言って、透流太と寧々の手首に、細い布帯を巻き付ける。
そして双子の首には首飾りを巻き付ける。
「ラスティ師匠、これってもしかして……」
「そいつはよ、オレがまだ中隊長だった頃に付けてた腕帯をほどいて作ったもんだ。な~に、年寄りからのお守りと思ってよ、受け取ってくれ。何もしてやれねーけど、せめて見守らせてくれや」
「うぅっ、おとうさん……ありがとう……」
寧々がそれまで必死に堪えてきた感情が、ついに溢れ出してしまいます。
「おう、透流太。オレが言うのも何だが、コイツは育ててきた弟子の中でも、頭一つ抜き出てる。だけどな、親バカって思われるかもしんねーけどよ……不出来な俺と違って、出来た娘なんだ。コイツの事、宜しく頼む」
そう言って透流太にキレイな一礼をするラスティ。
「は、はいっ!ち、ち、誓って寧々を幸せにします!」
「ちょっ!バカっ!何言ってんのよ!」
こうして一行は、かの地を後に。
心機一転、目的地へ向けて歩き出す。
*****
「さぁ~てと、目的地はあの山の向こう。かなり迂回して進まなきゃだよな~」
「えぇ、流石にあの山を越えるのは無理そうね」
一行の眼前に高くそびえる単独峰の山。それは現世でも一番と言われる標高を誇る“不地”と呼ばれる山であった。
「ねぇ~、あの山をグルーって回って行くの~?それって、すんごく遠回りなんじゃな~い?」
「……あんな山、透流太と寧々ならひとっ飛び……」
「だ、ダメよ二人とも。良い?標高の高い山ってのは、空気も薄いし、すんごく寒いのよ」
「げっ、マイ、寒いのはイヤだ」
「……メイも寒いのは苦手……」
「はいはい、と言う事で、あの山は迂回していくから。それにホラ、この先にはでっかい湖があるって言うから。今日はそこで野営しましょう」
「よっしゃー!釣りすんぞ、釣り!今夜のおかずをゲットすんぜー!」
とりあえずの目標地点が決まれば話は早い。足取りも軽く湖へと向かう四人でした。
「ふぃ~、着いた着いたっと。んじゃ早速、野営の準備を済ませてから……オレは釣りに行くぜ~!」
「いっくぜ~!」
「……行くぜ……」
そそくさとテントの準備をする透流太。せっせと薪をかき集めるメイとマイ。食事の支度を進める寧々。
もはや野営の準備も手慣れたもので、誰が何を言わなくとも自分の分担を理解しているのであった。
「よっしゃ、テントの準備完了!寧々の方はどうだ?なんか手伝おうか?」
「私の方ももう終わり、大丈夫よ。さぁ、釣りにいくのでしょ?」
「はぁ~い、行く行く~」
「……私も準備オッケー……」
「それじゃあ、誰が一番大きいのを釣れるか……競争よ!」
ダンッ!
言うが速いか、真っ先に飛び出したのは寧々でした。
「あっ、ずりーぞ寧々!」
慌てて透流太が飛び出す。
「アタシだって負けないわよ!」
「……本気だせば私が一番……速い」
そう言って双子も駆けだした。
あっと言う間に湖畔にたどり着いた四人は、それぞれのポイントで釣りを始める。
「……う~ん、ここはダメね~。ポイントを変えましょう」
「アタシんトコもぜんぜんダメ~」
「……私もダメ、釣れる気配がしない……」
それを見た透流太がおもむろに上着を脱ぎだし——そして。
ドボンッ!
「んなっ!透流太!何やってんのよ!」
「あぁ~、透流太ずる~い。アタシも水浴びした~い」
「……私はイイや……」
——しばらくして透流太が水面へと浮かび上がってきた。
「ぷはっ!……おぉ~い、取れた、取れたぞ~。魚は無理だったけど、貝が、ホラ!」
そう言って透流太は貝がびっしり入った網を持って見せた。
「……もう、いきなり何をしたかと思えば。それにしても大量ね。これなら今夜は貝尽くしね」
「それだけじゃ無いんだよ。まぁ、とりあえず上がってから説明するか……」
どうやら湖の底で何かを見つけた様子の透流太。
ですが辺りも薄暗くなってきたので、みんなで夕食を取りながら話をする事とした。
「実は湖に潜った時にさ。底の方になんかでっかい建物が見えたんだよ。あれは間違いなく人工的なものだった。……当然だけど、人が住んでる訳ねーよなぁ」
どうやら透流太がみた建造物は、旧時代の遺物。つまり旧人類の残した建造物の残骸のようでした。
「……なるほど、それはたぶん旧人類のじゃないかな。地上には残されてはいないが、水中で崩壊を逃れたのだろうな」
「えぇ~、マイも見て見た~い」
「……とても興味深い……」
「ダメ!危険すぎる!もし本当に旧人類の残した建造物だとしたら、もう数百年前のもの。いつ崩壊してもおかしくないわ」
寧々の言う事も最もである。旧人類が滅んでから、すでに500年以上が経過しているのである。
「ほら、また明日も早いんだから寝ましょう」
「そうだぞ二人とも。明日も早いんだから、そんなの見に行ってちゃダメなんだぞ!」
「「はぁ~い」」
聞き分け良くテントに入るメイとマイ。そして透流太と寧々もそれぞれのテントへと入って行く。
夜風が湖面を揺らし、辺りには静かに夜の帳が落ちて行った……。
*****
——その日の夜遅く。
バシャァァァァァンッ!
突然、大きな水の音が辺りに響く。
「なんだ!」
「なんの音!?」
透流太と寧々が飛び起きる。
その音は湖の方から聞こえてきた。
「間違いない、湖の方からだ」
「えぇ、かなり大きな音だったわね」
「オレが見てくる。寧々は二人を頼む」
そう言って剣を片手に透流太が飛び出していった。
「二人とも起きて!何が起きたか分からないんだけど……警戒態勢を取って!」
「「!!」」
寧々の言葉に飛び起きるメイとマイ。
「いま透流太が見に行ったけど、湖の方から突然大きな音がして……」
——ザンッ!
寧々が言い終わるが速いか、マイが斧を片手に飛び出していった。
「寧々、アタシも見てくる!透流太一人じゃ心配!」
「あっ、マイ!……まぁ、透流太とマイなら問題ないか。でも何があるか分からないわ。私たちも出れる準備をしておきましょう」
寧々がそう言うと無言で首を縦に振るメイ。
——ザザザザザァーーーン。
「んな!?コイツは……龍!しかも……デカい!」
透流太が湖に付くと、大型の龍が水面を割って湖から姿を現していた。
眼は赤く輝き、ヌメっとした体表が月の光を反射し、夜の闇に浮かび上がる。
——変異龍だ。
「マズい、オレ一人で行けるか……イヤ、ここでオレが仕留めなきゃ!」
覚悟を決め剣を構える透流太。
だが——次の瞬間、透流太のすぐ横、雷鳴が如く現れたのはマイだった。
土煙が上がり、斧を肩に担いだ久遠マイが、その場に着地する。
「透流太を一人でなんて行かせないわよ!」
「サンキュー、マイ。んじゃあ、ちょっくら……派手に行きますか!」
―to the Next World―




