予兆
倒れた透流太を医務室へと運び込む寧々とフロウ。
「アディ、急患、急患!透流太が戦闘後に倒れちゃったの」
「じゃあ、そっちのベッドに寝かせて。すぐに診るから」
そう言って透流太の様態を診るアッシュ。
そう、彼は医術や薬学に対して造詣が深く、その能力を買われガントフォースへと入隊したのだった。
「……うん、大丈夫。極度の疲労だね。安静にしていれば、じきに良くなるよ」
「良かったわね~ウィング。心配でずーっと手を握ってたものね♪」
フロウがニヤニヤしながら寧々をイジる。
「ゴ、ゴホン……。それは仲間なんだから、心配して当然だろ。それから私は今は、音之羽寧々と名を与えられた。寧々と呼んでもらって構わない」
「おぉ、名前持ちか~。って事は何か特命でも受けたって事?」
「えぇ、話すと長くなるんだけど……」
*****
「そして今は獣人の目撃情報があった地点に向かってる所だったのよ」
寧々は今までの経緯を二人に話し、そして今向かっている場所を共有した。
「アヴァロンが襲撃されたなんて……どうりで写世からの物資が届かなくなった訳だ」
「そうなのよ~、半年ほど前から定期便が止まっちゃったのよね。まぁ食料に関してはもともと自給自足状態だったから問題ないんだけどさ」
——アディクト・アッシュとペトリコール・フロウ。
二人はサニーからの指示のもと、この地を10年以上前から開拓している。
それは、比較的安全な土地に拠点を構える為であった。
「ちょっと気になったんだけどさ。この子たちってさ。もしかして……いや、もしかしなくてもナンバーズの……だよね?」
メイとマイに視線を移しながら、アッシュが問いただす。
「えぇ、そうよ。元サルモネラ博士の護衛部隊、ナンバーズのNo.8とNo.9よ。
そして今ではソフィアから名を授かって——ほら、自己紹介出来るわね?」
「……久遠メイです……そっちは妹の久遠マイ……アッシュ、マイを助けてくれてアリガト」
「うんうん、寧々やフロウと違って、素直な良い子だ♪……って、いててて!悪かったよ」
右の頬をフロウがつねり、左の脇腹を寧々に肘打ちされるアッシュ。
「とりあえず、皆んなの目的は分かった。そしてオレ達が知らない内に大変な事態になっている事も理解した。となると、まずは情報の整理からだな~」
「えぇ、それに透流太とマイが目をさまさないと、私たちも身動きがとれないし……」
そんな真面目な話を遮るように、フロウが間に割って入る。
「でさでさ!けっきょくアンタ達って付き合ってんの!?透流太って何歳?寧々の方がずいぶん年上なんじゃないの!?」
「……はぁ。ホント、ブレないわねアンタ……」
深いため息をつく寧々であった。
——一応の落ち着きを取り戻し、かの地の夜は更けていく。
「おはよ~、寧々。キミは早いねぇ~」
「おはよう、アッシュ。そうね、マイと透流太が心配だもの」
朝一番で診察室へと向かう二人。
診察室のドアの向こうから、明るい声が響いてくるのが分かった。
「ほら、メイちゃん、マイちゃん。次は何が良いかな~?」
「アタシはチョコ!」
「……私もチョコ……」
そこには、すっかり元気になった透流太とマイ、そしてメイの姿もあった。
「コラッ、マイ!朝食前からそんな、しかも病み上がりで消化の悪いもの食べてたらダメでしょ!それと透流太も!メイも!き・い・て・ま・す・か!」
寧々に見つかり、怒られる3人。そんな寧々をなだめるアッシュ。
「ま、まぁまぁ。元気になったんだからさ~。ちょっと位は大目に見てあげても……」
「まったくもう。……でも、元気になって良かった」
そう言ってメイとマイをギュッと抱きしめる寧々。
「あっ、目が冷めたみたいね。ほ~んと、急に倒れたからビックリしたわよ。アンタの身体、どうなってんのよ」
そこへフロウもやってくる。
「あはは……実はオレにも良く分かってなくて……」
「まぁ、まずは朝食にしましょ。そんで色々と聞きた事もあるしさ。そこはキミも同じでしょ?」
——一同でテーブルを囲みながらの情報交換。そして獣人について、なにかしら知っている様子のアッシュとフロウ。
「そうそう、獣人!前にキュウちゃんの部隊がココに寄ってった時に聞いたわよ。たしかあの山の向こう側だっけ?」
「あぁ、確かに言ってたな。眉唾もんだったけど、隠密部隊が言うんだから信憑性は高いよな」
「あと、もう一つ聴きたいことがあってな。私たちの仲間の1人が、その獣人の集落へ向かう途中。なにやら武装集団に襲われたんだとか言ってたんだが……何か心当たりはないか?」
寧々の話、それは龍夫が襲われたと言っていた集団のことであった。
「武装集団~!?いやいや、そんなの居たらココも無事じゃないだろ~。フロウはともかく、そもそもオレに戦闘なんて無理だって知ってるだろ?」
「……いえ、アディ。もしかしてアレの事じゃない?ホラ、何か月か前にさ。サルモネラ博士の近衛が近くを通りかかったじゃない」
「「!?」」
「ヤツが来たのか!?」
「それってグノーシスで間違い無かった!?」
テーブルを叩き飛び上がる透流太と寧々。
「あぁ、そうそう。グノーシス・アグノジアって名前だったか。そん時は、アイツこんなトコで何やってたんだろうな~ってさ」
「私たちはグノーシスには直接会った事ないから、彼のことは良く知らないんだけど。……そんなにヤバいヤツなの?」
一拍置いて、グノーシスとの経緯を話す寧々。
「げっ、ソフィアが一緒に居てそれか!?……昼間とは言え、姫が一緒に居て、逃げの一手って……」
「あぁ、未視……いやソフィアと寧々とオレの三人。抵抗する間も無かったな」
「グノーシスがこの辺りに出没した時期が、私たちがグノーシスと接触した直後とピッタリ一致するわね。……やはりサルモネラ博士の差し金なのは間違いなさそうね」
「まぁ、俺達はサニーの司令通りに目的地に向かうだけだ。そこでグノーシスと鉢合わせになったんなら、あん時のリベンジしてやろーじゃねーか!」
「そうね、次は私も躊躇なく、全力で行かせてもらうわ」
グノーシス・アグノジアとの再戦が待っているかも知れない。
だが二人の心に迷いは一切ない。
「ところで、まだスグには出発しないんだろ?ちょっと町……と言うほど大きくはないんだが。まぁ、ちょっと店とか見ていきなよ。割と色々と揃ってんぜ」
「えっ、でもさっき、補給物資は数ヶ月前から止まってるとか言わなかったかしら?」
「だよな。半年間も補給無しにどうやって凌いでたんだ?」
二人が疑問をぶつける。
アヴァロンが襲撃されたのは約半年前、その時から写世からの補給物資は届いていない。
「それがさ~、運よく旅の行商人が定期的に来てくれてさ。いや~、ホント助かってるんだよね~♪」
「「!?」」
「そ、それってもしかして……」
「もしかしなくても、あの人に間違い無いわよ」
「んあ?知ってんのか二人とも?」
「あっ、そろそろ来る頃じゃない?あのオジさん。楽しみ~♪」
——それは、遠くからだんだんと近づいてくる。
透流太と寧々には、もはや懐かしさすら感じられる陽気な音楽。
遠目からでも理解る奇妙な乗り物が静かに着陸する。
陽気な音楽が、かの地に響き渡る。
その音楽を聞きつけ、かの地の住人たちが一斉に近寄ってくる。
「来た来た~♪お~い、オジさ~ん♡」
待ってましたとばかりに、フロウが大はしゃぎで手を降る。
「……やっぱり」
「そうね、思ったとおりね」
奇妙な乗り物から颯爽と飛び降りて来た人物。
紛れもなくデステ兄さんその人であった。
「はいは~い。皆さん、お待たせいたしました~。旅の行商人、デステ兄さんでございますよ~……って、アレ?……お二人とも、こんな所で奇遇でございますね~♪」
—to the Next World—




