交錯
照りつける日差しの中を疾走する影が2つ。
黒羽の矢の如く駆け抜けるは、音速の響羽・《ソニック・ウィング》音之羽寧々。
そして、それを追走するのは減田透流太。
「——寧々、どうだ。目的地はそろそろか?」
「あぁ、そろそろ見えてくる頃だと思う」
透流太の腕の中には、衰弱しぐったりするマイの姿。
「……マイ、死んじゃヤダ……」
そして背にはメイがしがみつく。
「大丈夫、メイちゃん。ぜっっったいに俺達が助けるから!」
二人は、目的地へ向けて枠目も振らず走りつづける。
*****
「えいっ!このっ!アッチ行け、バカ鳥ども!」
ここは開拓地“かの地”。
そして、鍬を振り回し、鳥を追っ払っているのは、この地の開拓者に任命されている人物。
八輝星、灰解の呼声・《アディクト・アッシュ》である。
「ほらアディ、ちょっとどいて!
水よ……集まって。——水流乱矢!」
シュバババババン!
「はい、いっちょ上がり」
「よっ!鳥退治名人!これで今夜のおかずは確保、確保っと♪」
そして水を操って作物を荒らす鳥の大群を一網打尽にした人物。
同じく八輝星、儚隠の青滴・《ペトリコール・フロウ》であった。
「さっ、アディ。仕事に戻るわよ……って、ん?なに?あの砂煙……」
「うん?どれ?……って何だ!?もしかして……噂の変異龍!?」
それは砂煙を巻き上げ、この開拓地に一直線に向かってくる。
そしてその砂煙の真ん中には2つの影。
寧々と透流太だ。
ドンッ!!
「——アッシュ、居るか!私だ、ソニック・ウィングだ!」
寧々が一足飛びに砂煙から飛び出し、大声で叫んだ。
「はぁ!?ウィングぅ!?……なんでこんな所に!?」
「ウィング!!……アディ、普通じゃない!たぶん緊急事態!アナタを名指しってことは、怪我人か病人よ!」
突然の来訪者に戸惑うアッシュ、そして咄嗟に状況を判断するフロウ。
「アッシュ、頼む!仲間が毒蛇にやられた!すぐに…お願い!」
「……状況は理解した…けど毒ったって色んな種類があって……まぁとにかく患者をココに!」
少し遅れて透流太も到着する。
「はぁはぁ、早く!早くマイちゃんを…」
ドサッ……。
極限まで走り抜き、力尽きる透流太。
「透流太!大丈夫か!」
「オレの事はいい……マイちゃんを…頼む……」
「キミ、しっかり!ホラ、水を飲んで!」
咄嗟に透流太を介抱するフロウ。
「……マイ、マイ。ねぇ、マイ……」
泣きながらマイに縋り付くメイにアッシュが答える。
「大丈夫、任せて。……ただ、まずは医務室へ運んで、それから毒の成分を調べなきゃ」
「それなら……コレを……」
そう言って左腕のグラフィックギドラーを見せる透流太。
そこにはマイを噛んだ毒蛇の種類、毒の成分、そして解毒に必要な血清の成分など、細かく記載されていた。
「ギドラー!?って事は、キミはニューモートの……って言ってる場合じゃないか。コレは……砂コブラ、と言うことは神経毒か。それじゃ、まずはデータを共有させて貰うよ」
皆で急ぎマイを医務室へと運び込む。
そして左腕に機器を装着し、グラフィックギドラーへ配線を接続しデータを共有するアッシュ。
「……よし、これで後は血清を……っと良し。後はこのクスリを……フロウ、頼む。コイツを4.82倍ピッタリに希釈してくれ!」
左腕の装置と医務室に設置された大きな機械が連動し、すぐさまクスリの原液が生成された。
アッシュからクスリの原液を手渡されるフロウ。
「OK、4.82倍ね。原液は10mlピッタリで合ってるわよね……行くわよ……水よ、集まって」
フロウの手の中に水が集まってくる。
——そして。
「さぁ、コレを飲ませれば……。良しっと、ひとまずベッドで安静に。話はそれからだね」
「……マイは。マイは大丈夫?」
「あぁ、もう安心だよ。解毒薬を飲ませたからね。後は安静に休ませて上げようか」
「ほら、キミも休みましょう。いったいどれだけ走ってきたの?そもそも、なんでウィングが一緒なの?」
落ち着きを取り戻し、事情を説明しようとする寧々。
だが、更なる危機が一行を襲う。
キィィィィン——
安穏とした雰囲気を打ち壊すが如く、途端に鳴り響くグラフィックギドラー。
「「「!?」」」
「コレは……警戒音!」
「どうやらそうみたいね、透流太。アッシュはマイとメイをお願い!透流太も横になってて!」
「……そうも行くかよ!マイとメイと、それに寧々も。オレが皆を守んなきゃよ!」
「えぇ、ありがとう透流太。……でもね、私は守られて喜ぶような女じゃないって分かってるわよね?」
そう言って飛び出していった二人。
「はいはい、まったく見せつけてくれちゃって。ウィング、あんたチョット見ない内に、だいぶ丸くなったわねぇ~」
二人の間に割って入いり、ガッシリと肩を抱くフロウ。
「キミ、透流太って呼んでも良いわよね。私はペトリコール・フロウ。フロウで良いわ。とりあえず……来たみたいね」
そこに現れたのは中型の龍。
全身を分厚い鱗に覆われ、口には鋭い牙、そして目は赤く光っている。
明らかに通常の龍と比べ様子がおかしい。
「あれはもしや……」
「ん?見た目は普通の龍だけど。なんて言うか、雰囲気が違う?」
「あれは恐らく変異個体ね。最近現れだした龍の変異種よ。気をつけて、普通の龍とは比較にならないわ」
フロウが説明する通り、それは変異個体と呼ばれる、最近見つかった新種の龍だった。
「まぁ、近づかせるわけにはいかねーよなぁ!寧々、まずはオレが仕掛ける!」
「では、私は追撃を……」
「そんじゃ私は……まずは目を潰す!」
勢いよく飛び出した透流太。
透流太の挙動を見つつ、カバーの構えに入る寧々。
牽制攻撃を仕掛けるフロウ。
——ドンッ!
高く飛び上がる透流太に龍が反応する。
「させないっつーの!そこ!」
——シュバン!
フロウの水の矢が龍の目を正確に撃ち抜く。
グギャァァァァーー!
矢が命中し仰け反る龍に向かい、渾身の一撃を繰り出す透流太。
「あたれよっ!」
——ガキィィンッ!
まるで鉄と鉄が衝突したような金属音が響き渡り、そのまま跳ね返される透流太。
だが透流太の渾身の攻撃に怯み硬直する龍。
そして、そのスキを見逃さない寧々が一瞬で間合いを詰める。
「炎心発動、ヒバナ!」
寧々の刃が龍の鱗の隙間を正確に捉える。
ザシュッ!
「いったか!?」
「いや、まだだ。浅い」
通常の龍とは比べ物にならない耐久力に、寧々の一撃では浅い傷を負わせる程度だった。
「一撃でダメならもう一発!」
——ガキィィン!
更に透流太の追撃。
弾かれるも確かにダメージは通っている様子で後ずさりをする龍。
「そんじゃあ隙間を狙って!ホイホイホイっと!」
水の矢を次々と連射するフロウ。それは正確に龍の鱗の隙間を撃ち抜いていく。
それでも致命傷には至らず、徐々に開拓地へと迫ってくる龍に、寧々が覚悟を決める。
「……透流太、アレを出す。もしもの時は頼んだ……」
次の瞬間、寧々の四肢が光出す……が、その時。
「ダメだ、寧々!それはまだ使うべきじゃない!」
——グワァァァァァッ!!
そんな透流太の声を打ち消すがごとく、変異龍が咆哮を上げながら突進。
そのまま横薙ぎに尾を振り抜く。
「っ……来るか!」
透流太と寧々は咄嗟に飛び退くが、その衝撃波凄まじく、大きく体勢を崩してしまう。
「まずい……っ!」
その隙を見計らったかのように、龍の牙が寧々に狙いを定める。
——バシュッ!!
間一髪の所でフロウの矢が龍の顔に直撃し視界を奪う。
「ぐっ……!なんなんだよコイツ……動きが読めねぇ!」
「様子見なんて言ってらんないわね!……ウィング、透流太、ここからは本気で行くわよ」
次の瞬間、フロウの周囲に水が渦巻きはじめる。
「八輝星、儚隠の青滴・《ペトリコール・フロウ》……行くわよ」
さっきまでの軽さが消る。
「水よ集え……」
シュバババババババ!!
突然フロウが空へ向けて無数の矢を放つ。
「なっ……どこ狙って射ってんだフロウ!?」
驚きを隠せない透流太を他所に、空に向けて次々と矢を放っていく。
パチッ!
そしてフロウが指を弾いた、次の瞬間。
——ポンッ、ポンッ、ポンッ!
空中に放った矢が爆ぜ、直角に角度を変えた矢が一斉に変異龍へと降り注ぐ。
「水破剣山!!」
ドシュゥゥゥゥゥッ!!
それはまるで針の雨。
空気の摩擦により硬度を増した蒼い矢が、龍の死角から一斉に襲いかかる。
——ズババババババババッン!!
交わすことも叶わない程の密度で降り注ぐ矢に晒され、大きく仰け反る変異龍。
「……まだまだ、ここからが本番よ!」
「アレは……刺さった矢が…消えてない!?」
変異流の鱗の隙間に突き刺さった水の矢が消えずに残っている。
——そして次の瞬間。
パパパパパパパンッ!!
——グギャァァァァァァッ!!
刺さった矢が一斉に爆ぜる。たまらず悶絶する変異龍。
「よっしゃ、一気に畳み掛けて……って、アレ!?」
——ドサッ……。
「透流太!?」
「えっ、ちょっと!?いきなり倒れて……」
突然倒れた透流太、それは普通の人間なら当たり前の現象、極度の疲労から来る肉体の限界であった。
その時、透流太の脳裏に文字が浮かび上がる。
(身体エネルギー残存量低下・・・太陽光エネルギーを身体エネルギーへと自動切り替え開始)
——キュィィィィィンッ……。
突然、機械音と共に左腕のグラフィックギドラーが輝きだした。
「……なんだ…身体が…動く」
透流太から熱が吹き出す。
それは正しくインサニティ・サニーが発する熱波と同類のものであった。
「なっ!インサニティ隊長と同じ熱波!?いや、あそこまでは凄まじくないが……間違いなくこれは……」
「えっ、彼ってインサニティ隊長の、なんて言うか……子供!?」
「そんな訳はないだろ!インサニティ隊長に子供なんて!」
そんな二人のやり取りを尻目に、自分の身に何が起きているのか把握できずに居る透流太。
だが、龍はそんな事はお構いなしと言わんばかりに、3人に襲いかかる。
——だが……。
グギャァァァァァーーッ!!
襲いかかってきたと思われた龍が、途端に雄叫びをあげる。
「ちょっと大人しく…してろ!」
ズンッ!!
龍の背に乗って剣を突き立てて居たのは透流太でした。
先程までの様子とは明らかに違い、チカラに満ち溢れている様子の透流太。
「えっ!?いつの間に!?」
「彼、さっきまでそこに座ってたわよね!?」
二人が身構えるよりも早く、そして二人が気付き間もなく、透流太が龍を止めていた。
「なるほど……な~んとなく分かって来たぜ。チカラの扱い方ってヤツが……よっ!」
突き刺した剣をクルリと反転させた、その瞬間。
刀身に一本の赤い文様が走る。
透流太の手から直にエネルギーが伝わっていくのが目視できるほどの高純度のエネルギー。
そして、その勢いのまま、龍の頭に向けて剣を振り下ろす。
——ザンッ!!
一振り。
それだけで変異龍は沈黙した。
「…よっと。いっちょ上がり…って…あれ!?」
——ドサッ……。
(太陽光エネルギー残存ゼロ。生命維持モードに切り替えます——)
「ちょ…透流太!?」
「えっ、また倒れた!?どうなってんのよ、アンタの彼って!?」
「なっ!べ…べつに私の彼ではなくて……て言うか、今はそれどころじゃ!」
—to the Next World—




