ヴァーチャル・オービット
戦場は一時の静寂に包まれていた。
ネクストの大群は微動だにしない。
ナンバーズ三体も、四戒も、八輝星も、睨み合いを続けている。
その中心で、マキナが未視──ソフィアの回復を終えていた。
「……ミニッツ・リピーター、完了。次の一手……いきます」
マキナの瞳が淡く光り、手に持った分厚い本のページがパラパラとめくれて行く。
「パーペチュアル・カレンダー発動」
世界が反転していく。
マキナ・クラウベルの使うパーペチュアル・カレンダーとは、擬似的に昼夜を逆転させる奥義。
空には太陽と“偽りの月”が同時に浮かび上がる。
昼と夜が混ざり合った紫の光が、静まり返った戦場を満たしていく。
「……っ、これなら……」
未視の眼に光が宿り、ジョーカーには月洸波が満たされて、微かに脈動する。
サニーの両刀、東と西も太陽光エネルギーで満ちている。
だが、マキナはその場に膝をついた。
「……ここまで、ですね。
以後は後方支援に回ります。
みかん、あなたの戦い……私がサポートします」
みかんがニヤリと笑う。
「ふふん。頼りにしておりますわよ、マッキー♪」
マキナはすぐに戦場全体を分析し、
最適解を一息で導き出した。
「配置します。
サニーとソフィアは──難敵、アスト・レガリアを。
みかんは私のサポートを受けつつ、白銀機構・《プラチナ・コード》を。
ジョーとリリーは……撃槌の弾倉・《リボルバー・カグヤ》を押さえて下さい」
全員が頷く。
次の瞬間、場の温度が一気に上るのが分かった。
戦いの火蓋が開かれる。
——砂煙の向こう、リボルバー・カグヤがゆっくりと撃鉄を起こした。
カチリ。
その乾いた音だけで、ストライカー・ジョーの全神経が反応する。
「……その音……忘れたことはないぞ、カグヤ……!」
最初に動いたのは──ジョーだった。
「カグヤァァァァァ!!」
雷光を纏ったストライカー・ジョーが、地面を抉りながらジグザグに駆ける。
その速度は、まるで雷そのもの。
ダイヤモンド・リリーが横から飛び込み、輝く残光を引きながら大剣を振るう。
対するカグヤは、無言で二丁のリボルバーを構えた。
「……来るか、ジョー」
「ジョー、前へ出すぎるな!相手はあの“姉弟子”だぞ!」
ダイヤモンド・リリーの静止も聞かず、ジョーは止まらない。
銀河銃闘術、それは格闘と銃撃を合わせたハイブリッド戦闘術。
一直線に突進してくるジョーに対し、カグヤは冷静で正確な体捌きで、簡単にジョーの背後を取る。
「まったく、何度言ったら理解る。
このバカ弟弟子が…」
カグヤの身体がフッと消えた次の瞬間、ジョーの足の軸を払う。
ジョーの身体がクルリと反転し、空中に投げ出され——
ガンッ!
低い体勢からの足払いに、流れるような銃撃が重なる。
「ジョー!」
リリーが咄嗟にカバーに入ろうと剣を構え斬りつける。
地面をなぞる剣筋が火花を上げる……しかし。
「甘い…脇だ…」
まるで流水のようにスルリとリリーの脇を抜け、そのまま背後を取ったかと思いきや。
そのまま腕を掴むと、リリーはクルリと一回転。
———次の瞬間。
ガンッ!
低く響く銃声が一発。
———だが、両者に放たれたその弾丸は、足元の地面を撃ち抜いていた。
弾倉を回す音だけが響く。
カララララ……ッ
その回転音が、まるで心臓の鼓動のように響く。
「……勘違いするな、ジョー、リリー。
私は……サルモネラの犬じゃない」
ジョーの目が大きく見開かれる。
「……裏切った……!?
カグヤ、どう言う事……?」
カグヤは撃鉄を戻し、ゆっくりと銃をホルスターへと戻す。
「私は……アステル・バイナリアの弟子。
師匠の仇を取るために、今まで機会を伺っていただけだ…」
その瞬間、ジョーとリリーの表情が変わった。
「……続きは後だ。 今は眼前の敵に集中しろ」
——その視線の先にあるのは、 白銀の光を纏った影、白銀機構・《プラチナ・コード》。
そして── 戦場の中心へ視線が集まる。
ロッテン・みかん vs 白銀機構・《プラチナ・コード》。
次の主戦場が、動き出す。
背中の巨大な二基の機動型思念誘導増幅装置:クラスター・ビットが展開。
ロッテン・みかんが目を細める。
「……来ましたわね、疑似凛冽機構……」
「……クラスター・ビット、射出……」
クラスター・ビットが放たれると、まるで主を待つ生物のように静止。
プラチナ・コードは無言でクラスター・ビットの接続端子に足を乗せる。
ギュオオオオオオオオッ!!
白銀の推進炎が噴き出す。
プラチナ・コードが空へ跳ぶと同時に、白銀の結晶片、自立機動攻撃機体・雀蜂・《キラービー》が高速で周回軌道を描く。
クラスター・ビット、それは疑似凛冽機構を搭載し、プラチナ・コードと接続することでキラービーを自在に操るための、思念増幅装置であると同時に、それ自体が高機動飛行体。
プラチナ・コードは腕組みしたままクラスター・ビットに立ち、上空からみかんを見下ろす。
みかんが叫ぶ。
「ふんっ!お山の大将気取りかしら。
どうしたの、かかってらっしゃいな!」
プラチナ・コードは静かに指を鳴らす。
——パチン!
その瞬間、キラービーの動きが止まる。
みかんの周囲に白銀の軌跡が走る。
「ッ……!まがい物のくせに……速い!!」
プラチナ・コードは無表情のまま、ただ一言。
「……突撃開始」
キラービーが高速で突っ込み、みかんの肩をかすめていく。
「えぇい、この!
すばしっこく……て……ぐへっ!」
キラービーの攻撃にみかんがよろける。
「んもう、あっっったま来ましたわ!!」
キラービーの動きに翻弄され、頭に血が上るみかんに向かってマキナが叫ぶ。
「あっ、待て!みかん、早まるな!
まずは冷静に相手の動作シーケンスの解析を…」
———次の瞬間。
広げた魔焦扇を両脇に大きく構え、みかんが叫ぶ。
「フォォォームチェェェーンジ!
凛冽機構、出力1000%!人機融合、魔焦扇ver.2!!」
魔焦扇が大きく展開し、みかんの全身をまるで蝶の蛹のように包み込み、光が脈動する。
「あぁ、もう出してしまいましたか…。
アレではエネルギー効率が……」
頭を抱えるマキナを他所に、ロッテン・みかんが変身を遂げる。
———蛹の継ぎ目の隙間から、一際大きな光が溢れ出す。
「んんん……デッビーーーール!!」
全身を包んでいた魔焦扇がフワッと開き、みかんの新たな姿が露わになる。
背には翼を携え、黒いゴスロリ衣装は、漆黒のビキニアーマーへと変貌。
頭部にはまるでツノのような冠。
———ここに“デビルみかん”が降臨する。
「テレッテ、テレッテー、テッテッテーーー♪」
魔焦ウイングは 空を飛び
魔焦カッターは 鉄を裂く
魔焦キックは 岩砕き
魔焦ビームは 魔焦閃
「あ~くま~のち~から~、み~に~つ~けた~♪
オ~リジン~四戒~、デビルみか~ん、デビルみ~かん~♪」
「魔焦ウイィィィングゥッ!!」
漆黒の翼を駆り、デビルみかんが空を駆ける。
プラチナ・コードのキラービーが突っ込む…が——
「魔焦カッタァァァー!!」
キキキキィィィィィン!!
デビルみかんのベルトから放たれた魔焦カッターが、キラービーを真っ二つに切断。
プラチナ・コードの目がわずかに揺れる。
「……解析不能。形態変化……?」
「おぉっほほほほっ! 今度はわたくしの番ですわよぉ!!」
デビルみかんが高速の飛行で一気に間合いを詰める。
「魔焦キィィィィクッ!」
クラスター・ビットの本体目掛けて、一直線に急降下キック。
「ぐっ!…キラービー、緊急防御姿勢!守れ!」
それまでの攻勢重視の戦法から一変、防御に集中するプラチナ・コード。
——だが。
「ムダムダムダーーー!その羽虫、すべて叩き落としてやりますわよぉ!!」
みかんが片足を上げると、空中で高速スピンを開始。
「超・魔焦スピンッ!」
ギャギャギャギャーー!
金属がこすれたような金切り音が響き渡る。
そして無数に展開された雀蜂・《キラービー》全機は、その羽音を止め地面に落ちていく。
態勢を立て直す為に距離を取るプラチナ・コード。
———そして次の瞬間。
「…それなら…クラスター・ビット展開。人機融合———モビル・クラスター」
白銀の光が収束し、クラスター・ビットの外装が変形を始める。
ギギギギギィ……ッ!!
装甲が展開し、内部フレームがせり上がる。
ヘッドギアが装着され、白銀の翼が左右に広がる。
足元から拘束アームが伸びクラスター・ビットとプラチナ・コードを接続。
身体が白銀の装甲に包み込まれ、思念リンクの光が全身に走る。
「思念リンク、同期開始。セイフティーロック、解除。パワーゲイン、上昇確認。モビル・クラスター、起動」
白銀機構の真の姿が露わになる。
「メモリコアをオートモードへ移行。
オートエイム、セット。
オートリペア、セット。
オーバーブースト、セット。
フルオートドッジ、セット。
…システムオールグリーン。
———モビル・クラスター、起動」
それはまるで“機械の詠唱”。
白銀機構の最終形態、クラスター・ビットvre2「モビル・クラスター」が、みかんの前に降り立つ。
―to the Next World-
皆さん、コンニチワ。
ポーランド埼玉です。
いやー、長い!(笑)
実際、ep10とep11で終わらせるはずだった、中盤の山場なんですが。
まだ半分過ぎた辺り。
で、今回のテーマは”対比”を現しています。
次回決着&新たな戦場の火ぶたが切られます!




