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愛の行き着く先
果たして王という権力者の周りにいる女たちは幸せだったのだろうか。楽好公主のように自らを求める男のもとに向かい、幸せになった方が良かったのではないか。権謀術数を巡らせた後宮という狭い世界から抜け出したからこそ、王の娘であることを捨てからこそ、彼女は生涯を汚さずに全うできたのだろう。華陽夫人は彼女の墓石を撫でた。猜疑心で捨ててしまった養女に申し訳ない気持ちがこみ上げてきた。
「お母さまのお墓にご用?」
聞き覚えのある声がした。華陽夫人が振り返るとそこには胡服を纏った少女が立っていた。その顔は楽好公主の面影を色濃くうつしている。
「あ、楽好……」
「楽好?お母さまのこと?」
少女はきょとんとした。
「知らないのね…あなたのお母さまのこと教えてちょうだい」
「お母さまは沮渠の太后だったの。今は亡くなってご覧の通り。私は娘の綰よ。あなた、お母さまの知り合い?」
「ええ。お母さまは幸せだった?」
「とても!」
「そう。お嬢さんのその言葉を聞いて安心したわ…ではね」
華陽夫人はそう言うと弱った身体を引きずり歩いていった。




