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 ニコはカーの寝椅子に座らせるとすぐに目覚めた。

 先に運んでいたユーディの隣で目を開いた彼は、肩を寄せている自分の想い人の寝顔を見て破顔し、その髪を撫でた。

「……あれ、俺、何で城なんかにいるんだろ」

「目が覚めた」

 ニコは僕を見て、目をしばたたかせた。

「お前さんは……ええと」

「覚えてる?」

「そりゃ、覚えてるよ。ツァラだろ」

「覚えてるんだ」

 僕は思わず笑顔になった。

「けど、俺たち、何をしてたんだったかなぁ……」

「無理に思い出す必要はないよ」

 ユーディの肩を抱いて、ニコは辺りをきょろきょろ見回した。

「……あれ、カーは?」

「カーは、目覚めていったよ」

 ニコが首を傾げる。

 僕は幕屋を押し開いて、城の外に出た。

 そして北の空を見上げる。

「ああ、空が青い」

 北の空には、濱まで行かずとも分かるほど大きく、青空が出現していた。ここから見て、手のひらを広げたほど。しかし、それ以上大きくなる気配はなかった。だからきっと、この青空も、やがては赤い空に侵食されて消えてしまうのだろう。

 ニコが僕を追いかけてくる。僕らは並んで青空を見る。

「空が青い」

「初めて見た?」

「ああ、初めてだ」

「グレーテは何度も見ていたそうだよ」

「そういえば、幽霊は? あいつもいたような気がするんだが」

「グレーテは、カーと、一番大切な人と一緒に、あの青空の下へ行ったんだ」

 青空は狭まり始めた。それを見ながら、僕は思う。

 カーのトラウマが失われた世界。アニミストたちは、主を失ったが、トラウマの現況からも解放された。僕たちは、あとしばらくの時間を生き存えるだろう。この夢が覚めるまで。

 いや、それとも、もっと早くに忘却されていくのだろうか。忘却の主は、消えてしまったのだから。

 最早、あの青空から、どんな存在が漏れ出してくるかもわからない。空が青くなればなるほど、魚人たちが増え、僕らは漏れ出てくる現実に引き寄せられて、目覚めていってしまうのかもしれない。

 僕らは、いつまで夢を見られるのだろう。

 どちらにせよ、僕は僕が失われることが恐ろしくなかった。既に一度死んだ身だし、こんなに静かな世界を味わえたのだから。カーはあんなに穏やかに旅立っていったのだから。

 さあ、外へ行くものを阻む意思はもうない。あの青空の下へ行ってみよう。きっと、魚人も連れて。何が起ころうとも。そう思った。


ここまで読了頂き、有り難うございました。

比較的長いめのお話なのに、結末があっけないというか、未消化ですみません……。

また次作にてお会いできることを楽しみにしております。

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