第1話 家族
読んでいただきありがとうございます。
俺は、転生していた。
前世の記憶もある。
けれど、この世界で前世の知識をひけらかして生きていたら、面倒なことになる気がした。
だから――普通を演じることにした。
とはいっても、赤ん坊の俺には何も出来ない。
腹が減れば泣く。
オムツが汚れれば泣く。
それ以外は、なるべく泣かない。
泣けば誰かに迷惑を掛けるからだ。
母親は、そんな俺を抱き上げながら笑っていた。
母
「ジンは偉いね」
「ご飯とオムツの時しか泣かない」
「本当に手の掛からない子」
俺は母親の腕の中で、黙って彼女の顔を見つめていた。
ジン
【母親って……こんなにも温かいものなのか】
前世では、親孝行らしいことを何1つ出来なかった。
そのまま死んでしまった俺にとって、この世界の母親は不思議な存在だった。
最初の頃、俺はこの人を「この世界の母親」としか思っていなかった。
けれど――
一緒に過ごす時間が増えるにつれて、その考えは少しずつ変わっていった。
この人は、俺の母親だ。
そう思えるようになっていた。
そして俺は、すくすくと成長していった。
ただ、幼い頃から気付いていたことがある。
この家は――裕福ではない。
食事は決して多くない。
服も継ぎ接ぎだらけ。
家も決して立派ではない。
それでも――
温かい家庭だった。
俺には兄が2人いた。
そして、俺が五歳になる頃には弟も生まれた。
家族が増える。
嬉しい。
でも――
ジン
【この家……経済的にかなり厳しいな】
【このままだと、いつか破綻する……】
そんなことを考えながら、俺は十歳になった。
そして、その日。
父親と母親に呼ばれた。
父
「ジン……」
父親は、しばらく黙っていた。
そして、苦しそうに口を開いた。
父
「お前には……すまないが……」
「お前を売ることにした……」
ジン
【……やっぱり、そうなるか】
驚きはなかった。
家族が増えた。
食べる物も必要になる。
このままでは、家族全員が苦しくなる。
だから――
俺なのだ。
ジン
「分かりました……」
「俺が行けば、家族は大丈夫なんですよね?」
母親は泣いていた。
何も答えられない。
父
「……すまない」
ジン
「大丈夫です」
「家族のためになるなら……」
「俺、恩返ししますよ」
父親は、俺の言葉を理解出来ないようだった。
それでも――
俺は売られることになった。
その夜。
兄たちが俺の部屋に来た。
次兄
「……悪いな」
「俺は身体が弱くて……」
長兄
「俺はもう働いてるから……」
「俺を売るわけにはいかないんだ……」
2人とも、苦しそうな顔をしていた。
俺は笑った。
ジン
「大丈夫だよ、兄さんたち」
「俺、幸せだったよ」
「この家に生まれて良かった」
2人は何も言わなかった。
ただ、黙って俺を抱きしめた。
その夜。
俺は家族と過ごす最後の時間を、静かに過ごした。
明日。
俺は――
奴隷として売られる。
今後もよろしくお願いします。




