第16話 初めての魔物
いつも読んでいただきありがとうございます。
探索の日。
ジンは気持ちを切り替えると、川へ向かって移動した。
まずは川に入り、魚と蟹を捕まえてアイテムボックスへ収納する。
そこから、さらに上流を目指す。
夕方までには戻らなければならないため、できるだけ早く進みたいところだった。
しかし、川を下った時とは違い、上流へ向かうには徒歩で進まなければならない。
ジン
【この体で登るのは辛いな……】
【ヒールを使えば楽になるけど、魔法がどこまで使えるのか分からない】
【一番怖いのは、帰れなくなることだ……】
ジンは魔法を使える。
しかし、この世界の魔法について詳しい知識があるわけではない。
魔力がどのくらいで回復するのか。
どのくらい魔法を使えば魔力が尽きるのか。
そして、魔力が尽きた時にどうなるのか。
何も分からない。
ただ1つだけ、看守が毎日シナゲルを使っていることから、魔法に1日の使用回数制限があるわけではないことだけは分かっていた。
ジン
【ゲームみたいに、寝れば回復するのかもしれないけど……】
【確信はない】
【今まで一日にヒールを何度も使ってるけど、だいたい十回くらいだ】
【なら、10回くらいは使える……と思いたい】
ジンの考えは、偶然にも正しかった。
ジンの魔力量なら、1日に十数回程度の魔法を使うことができる。
そして眠れば魔力は回復する。
さらに、魔法を使い続けることで少しずつ魔力量そのものも増えていた。
それをジンは、まだ知らない。
やがてジンは、岩場を登り切った。
その先にあったのは――。
ジン
「……あっ」
大きな黒い木ノ実。
しかも、現場近くで採れるものより明らかに実が大きい。
ジン
「看守さんの言ってた通りだ……」
「この辺りまで来ると、大きいんだな」
ジンは慎重に木ノ実を採っていく。
しかし、すべては採らない。
1つの木から採るのは、半分以下。
ジン
「……全部取るのはやめておこう」
【自然のものを取り尽くしたら、何が起きるか分からない】
その判断は正しかった。
森や川にある食べ物は、魔物や獣、鳥たちにとっても食料になる。
もし人間がすべてを取り尽くせば、食べ物を求めて動物たちが下流へ移動する可能性もある。
そうなれば、人里での被害に繋がるかもしれない。
ジンは必要な分だけを採り、さらに上流を目指した。
しかし――。
陽が傾き始める。
ジン
【そろそろ戻らないと……】
【看守さんが来た時に小屋にいないのはマズい】
一応、小屋には布団の中に石や枝を入れ、人が寝ているようには見せている。
布団をめくられなければ、誤魔化せるはずだ。
それでも、実際に小屋にいた方が安全なのは間違いない。
さらに上流へ進んだジンの前に、大きな滝が現れた。
ジン
「……これは無理だな」
「さすがに今日は登れない」
滝の周辺を調べてみる。
黒い木ノ実は多い。
キノコもある。
しかし、現場周辺で見つかるものと大きな違いはない。
ジン
「上流は木ノ実が中心か……」
その時だった。
ジンの視界に、見たことのない木ノ実が入った。
ジン
「これは……知らないな」
【ギノースコー】
魔法を使う。
ジン
「……これが山椒の実なんだ」
「生で見るのは初めてだな」
ジンは少しだけ山椒の実を採る。
ジン
「今日はこんなところかな」
「帰る前に、もう1度川を見て、魚と蟹がいたら取って帰ろう」
そうしてジンは、川へ向かって歩き始めた。
魚と蟹をアイテムボックスに入れ終え、帰る準備をしていた――その時。
ガサッ!
ドスッ!
草むらから何かが動く音。
そして、重い何かが地面にめり込むような音。
ジン
「ッ!」
ジンは反射的に身構え、近くの岩の後ろへ隠れた。
心臓が激しく鳴っている。
ジン
【……ヤバい】
【何か分からないけど……ヤバい】
恐怖。
今まで感じたことのない、本能的な恐怖だった。
岩の陰から、ほんの少しだけ顔を出す。
すると――。
草むらの向こうに、大きな影があった。
ジン
「……牛?」
「いや……バッファロー?」
しかし、その姿は明らかに普通の動物とは違う。
大きな身体。
そして――2本の足で立っている。
ジン
【……魔物?】
魔物は周囲を見回していた。
何かを探しているようにも見える。
ジン
【魔物……】
【肉……】
一瞬、そんな考えが頭をよぎった。
ジン
【俺には気付いてない】
【なら……】
ジンはゆっくりと手をかざす。
風魔法――シエラ。
ジン
「シ……」
その瞬間。
魔物がこちらを向いた。
目が合う。
ジン
「ッ……!」
背筋が凍る。
身体が動かない。
ジン
【なんで……魔法を使おうとしただけで反応した!?】
【そんなことはどうでもいい!】
【早く……何とかしないと!】
ジンの頭の中で、いくつもの考えが駆け巡る。
しかし、魔物は止まらない。
1歩。
また1歩。
真っ直ぐジンへ近づいてくる。
ジン
【無理だ……!】
【勝てない!】
ジン
「メトイキシス……パオ!」
慌てて移動魔法を唱える。
次の瞬間――。
ジンの姿が消えた。
そして。
小屋の中。
ジン
「た……助かった……?」
その場に座り込む。
冷や汗が止まらない。
手も震えている。
ジン
「……こ、これが……」
「命のやり取り……」
初めてだった。
魔法を使えば何とかなる。
そう思っていた。
けれど、あの魔物を目の前にした瞬間、その考えは簡単に崩れた。
ジンはしばらく、その場から動くことができなかった。
今後もよろしくお願い致します。




