第13話 蟹は食べ物です
いつも読んでいただきありがとうございます。
湯船を覗き込むと――
そこには、何匹もの蟹が底を歩いていた。
「蟹だ!」
ジンが嬉しそうな声を上げる。
ラックは蟹を見つめる。
「……蟹かよ」
ブライも微妙な顔をする。
「……食べられないじゃん」
「えっ?」
ジンが首を傾げる。
「蟹、食べないんですか?」
レイが少し驚いた顔をする。
「ジンは蟹を食べたことがあるのか?」
「はい! 美味しいですよ」
ラックとブライが顔を見合わせる。
明らかに嫌そうな顔だ。
レイが苦笑する。
「俺も食べたことはないけど、食べる人がいるとは聞いたことがある」
「そうなんですね」
ジンは蟹を見ながら頷く。
「じゃあ、今日はしまっておきます」
「え?」
「明日、料理してみますね」
ラックとブライは目を合わせようとしない。
「明日食べて美味しくても、知りませんからね」
「……」
「……」
2人は何も答えなかった。
その後、4人は順番に風呂へ入り、ジンからヒールを掛けてもらう。
「おやすみ」
「おやすみ、ジン」
「おやすみなさい」
ブライとラックは早々に眠ってしまった。
レイだけがジンの隣に座る。
「気を悪くしないでくれ」
「大丈夫ですよ」
「初めて見る食材って、怖いんだよ。食べられると分かっていても、なかなかな」
「そうですね」
ジンは笑った。
【俺だって、今でも魔物の肉を食べろって言われたら抵抗あるしな……】
そう考えると、2人を責める気にはならなかった。
翌朝。
「今日はお願いがあります」
ジンが3人を見る。
「この緑色の木ノ実を大量に欲しいんです」
「判った」
「でも、あまり見かけないよな」
ラックが考える。
ブライも頷く。
「俺もたまに見かけるくらいだな」
「見つけたら、出来るだけ回収をお願いします」
「任せろ!」
4人は檻に入り、いつものように現場へ向かった。
仕事を始めてしばらくすると、昼食の時間になる。
ジンが3人に確認する。
「やっぱり、木ノ実はないですか?」
ラックが首を振る。
「すまんな。こっちは見当たらない」
「俺も1個、2個くらいしか見つけてない」
「判りました」
ジンは少し考える。
「ちょっと今日も川の方へ行ってきます」
「また行くのか?」
「はい。本当にすぐ戻ります」
3人は頷いた。
「気を付けろよ」
「はい」
午後。
ジンは仕事を早めに終わらせる。
そして昨日と同じように、疲れているように見せながら休憩場所へ向かった。
しばらくしてから周囲を確認する。
誰もこちらを見ていない。
「……よし」
トイレへ向かうように歩き、そのまま人目のない場所で魔法を使う。
「メトイキシス……パオ」
次の瞬間――
ジンは川の近くに立っていた。
「時間がない……!」
周囲を見渡す。
すると、川の近くに生えている木に、目的の緑色の木ノ実がなっていた。
「見つけた!」
ジンは急いで木に登る。
1つ1つ採る時間はない。
「ごめん!」
木ごとアイテムボックスへ収納する。
そしてすぐに、
「メトイキシス……パオ」
現場へ戻った。
その日の仕事が終わり、4人は小屋へ戻る。
ジンは小屋の外でアイテムボックスから木を取り出した。
「これなら十分ですね」
4人で木ノ実を回収する。
そして残った木は――
「これ、植えておきましょう」
井戸の近くに植えた。
「これで増えてくれればいいんですけどね」
「増えたら凄いな」
ラックが笑う。
小屋に戻ると、ジンは3人に頼んだ。
「この木ノ実を潰して、この石の器に液体を溜めてもらえますか?」
「任せろ!」
3人は勢いよく木ノ実を潰し始めた。
「うおおお!」
「ラック、飛ばしすぎ!」
「レイもちゃんと押せ!」
「俺だってやってる!」
石の器に少しずつ液体が溜まっていく。
その間、ジンは簡易的なかまどを作っていた。
石を積み上げ、石の器を置ける土台を作る。
「ありがとうございます」
ラックが器を見る。
「これ、何なんだ?」
「油ですよ」
「昨日のやつか?」
「昨日の赤い木ノ実とは違います。こっちは食べられます」
レイが器を覗き込む。
「……揚げるのか?」
「そうです」
ジンは器を土台に置く。
そして手をかざす。
「フローガ」
炎が器を温め始める。
しばらくしても、見た目には何も変化しない。
ブライが首を傾げる。
「何も変わらないぞ?」
「油ですからね」
ジンは小さな枝を1本取り出した。
「試してみますか?」
油の中へ枝を入れる。
すると――
パチパチパチッ!
小さな気泡が一気に出始めた。
「うおっ!?」
ブライが驚く。
「どうなってるんだ?」
レイが説明する。
「油が熱くなってるから、木の中の水分なんかが出てるんだと思う」
「へぇ……」
ブライは不思議そうに油を見つめる。
「そろそろいきますよ」
ジンが言う。
「油が跳ねて火傷する可能性があるので、離れてください」
3人が少し離れる。
ジンはアイテムボックスから蟹を取り出す。
「では……」
油へ入れる。
ジュワァァッ!
「アッツ!」
油が跳ね、ジンが思わず声を上げる。
ラックが立ち上がる。
「ジン! 大丈夫か!?」
「大丈夫です!」
「でも!」
「来ちゃダメです!」
ジンは3人を制する。
「火傷しますから。俺なら大丈夫です」
ラックは心配そうにしながらも、頷いた。
「……判った」
3人は離れた場所から、心配そうにジンを見つめる。
ジンは気にせず、残りの蟹も油へ入れていく。
しばらくすると――
「よし!」
蟹を油から取り出す。
念のため、
「ギノースコー」
ジンは確認する。
「……問題なし!」
蟹に岩塩を振る。
そして、一緒に焼いていた魚にも岩塩を掛ける。
「出来ました!」
ブライが魚を見る。
「魚だー!」
ラックも目を輝かせる。
「魚、美味そう!」
レイは蟹をじっと見ている。
「……」
「レイ?」
「……いや」
レイは蟹を見る。
「やっぱり、これは……」
「騙されたと思って、1つ食べてみてください」
3人は蟹を手に取る。
しかし――
誰も口へ運ばない。
「……」
「……」
「……」
ジンが苦笑する。
「やっぱりダメですか?」
「仕方ないですね」
ジンは蟹を手に取る。
「俺が食べます」
カリッ!
小屋の中に、良い音が響いた。
「……」
ゴクッ。
誰かが唾を飲み込む。
ジンはゆっくり噛みしめる。
「……美味しい」
ラックが蟹を見る。
「ジン……信じるぞ!」
ブライも頷く。
「俺は信じてる!」
レイは無言で蟹を見つめる。
そして――
3人が蟹を口へ運んだ。
今後もよろしくお願い致します。




