第10 奴隷生活に風呂を
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朝。
ジン達は朝食を済ませたあと、檻に入り現場へ向かう。
しかし――。
向かい側にいる奴隷たちが、4人をちらちらと見ながら何かを話している。
ラックとブライ、そしてジンは気付いていない。
ただ1人、レイだけがその視線に気付いていた。
レイ
【……何だ?】
やがて現場に到着する。
4人が仕事へ向かうと、朝からこちらを見ていた奴隷たちが看守のところへ向かい、何かを話している。
レイはそれを見逃さなかった。
ジン
「今日も早く終わらせて、シナゲルを調べますね」
ラック
「いつものように、食材はジンに渡していくからな」
ブライ
「俺も!」
レイ
「今日はダメだ」
「仕事も1日掛けてやる」
ブライ
「なんでだよ!」
「早く終わらせないと!」
レイ
「今日は我慢だ」
ラック
「……何かあったか?」
レイ
「嫌な予感がする」
その一言で、3人の表情が変わった。
ジン
「……判りました」
「今日は何もしないで、情報だけ持って帰りましょう」
ラック
「判った」
ブライ
「……判った」
レイはリーダーではない。
4人の中で誰かが上に立っているわけでもない。
ただ、これまで一緒に過ごしてきたことで築かれた信頼がある。
だからこそ――。
レイの言葉を、3人は素直に受け入れた。
その日は4人とも、仕事を急いで終わらせることなく、1日掛けてノルマをこなした。
帰り際。
朝、話をしていた奴隷たちが看守と話した後、4人のところへやって来た。
看守
「お前たち4人に少し話がある」
「小屋の前で待っていろ」
4人
「判りました」
檻に乗り込み、小屋へ戻る。
4人は小屋の中には入らず、看守を待った。
しばらくして看守がやって来る。
看守
「実はな……」
「お前たち4人を優遇しているんじゃないかって言われてな」
「俺たちは何もしてないんだが、1部の奴隷から抗議が来ている」
レイ
「何をもって、そう言っているんですか?」
看守
「主に仕事量だ」
「それから食事もだな」
「最近、お前たちの血色が良いとも言われている」
ジン
「確かに仕事は早く終わることが多いです」
「でも、その分休憩も増えるので、みんなで話して集中して終わらせているだけなんですが……」
看守
「判ってる」
「仕事量も、ちゃんと他と同じだ」
ブライ
「じゃあ、なんで俺たちだけ言われなきゃいけないんだよ!」
ラック
「ブライ、落ち着け」
「看守は俺たちを責めてるわけじゃない」
看守
「すまんな」
「もう少し周りに合わせてもらえないか?」
「こっちとしても、揉め事は面倒なんだ」
「国に連絡して調査員の派遣なんてことになったら、もっと面倒になる」
レイ
「……判りました」
看守
「悪いな」
「こんな場所じゃなければ、こんなことにはならないんだが……」
「頼むぞ」
看守はそう言って戻っていった。
ブライ
「……納得いかねぇーよ!」
ラック
「落ち着け」
「ここは奴隷の職場なんだから」
レイ
「少し張り切り過ぎたな」
「これからは少し考えよう」
ジン
「そうですね」
「ヒールも2日に1回くらいにするとか……」
ラック
「そうだな」
「俺たちは一応奴隷だ」
「楽しく暮らすのも大事だが……」
「バレないことを一番に考えないとな」
ブライは不貞腐れたように俯いている。
レイ
「ブライ」
「バレてジンがここを離れたら、俺たちはどうなる?」
「また何もない生活に戻るんだぞ」
「もう、あの生活には戻りたくないだろ?」
ブライ
「…………」
ラック
「ブライだって判ってるよな」
「ただ、腹が立つだけだろ?」
ラックがブライの頭を軽く撫でる。
ブライは俯いたまま、小さく頷いた。
ラック
「よし」
「今日はバレない方法を少し話し合おう」
ジン
「そうですね」
「みんな嫌な気持ちになりましたし……」
「今日は、お風呂に入りましょう」
3人
「……え?」
ジン
「出来るかもしれません」
3人
「おおおおっ!」
ブライ
「風呂!?」
ラック
「本当に!?」
レイ
「……風呂か」
ジン
「その代わり、今日のご飯は木ノ実とキノコだけですからね」
ラック
「……それは仕方ないな」
レイ
「だな」
「木ノ実とキノコがあるだけでも、全然違うけどな」
4人は小屋へ戻った。
ジン
「床板を3枚くらい外してもらえますか?」
ラック
「任せろ」
ブライ
「よいしょ!」
レイ
「そこ、傷つけるなよ」
3人が床板を外し、少し離れる。
ジンはその場に立ち、手をかざした。
深く息を吸う。
ジン
「……ヴラホス」
ゴゴゴゴゴ……。
地面が揺れた。
すると、地面から巨大な岩がせり上がってくる。
ラック
「……」
レイ
「……」
ブライ
「……」
ジンは岩に手を触れた。
ジン
「シエラ」
岩が削れていく。
ゴリゴリゴリ……。
削られた岩が少しずつ形を変え、やがて大きな湯船になっていく。
ジン
「もう少し……」
さらに削る。
底には小さな穴を開ける。
ジン
「ペトラ」
小さな石が生み出される。
ジンはそれを穴に押し込んだ。
ジン
「これで栓は大丈夫」
そして湯船へ手を向ける。
ジン
「ネアロン・ヒドル」
ジャアアア……。
ジンの手から水が流れ、湯船へ溜まっていく。
ラック
「……」
レイ
「……」
ブライ
「……」
ジン
「最後に……」
水へ手を入れる。
ジン
「フローガ」
水が少しずつ温かくなっていく。
湯気が立ち始めた。
3人は完全に言葉を失っていた。
ラック
「……ジン」
「お前……もう最上位の魔法使いなんじゃないか?」
ブライ
「もう俺、何を見ても何も言わないよ」
「ジンはジンだ」
レイ
「そうだな」
「もう、ジンにお任せだ」
ジンは笑った。
ジン
「誰から入ります?」
3人
「ジンからどうぞ」
ジン
「え?」
ラック
「作った本人が最初に入るのが礼儀だろ」
レイ
「そうそう」
ブライ
「俺たちは待ってるから!」
ジン
「……判りました」
ジンが湯船に入る。
ジン
「……あったかい」
「気持ちいい……」
ラック
「……俺もいいか?」
レイ
「お前、待てるって言ってただろ」
ラック
「もう無理だ」
ブライ
「俺も!」
レイ
「お前ら……」
結局、4人で順番に風呂へ入る。
ラック
「…………」
ブライ
「…………」
レイ
「…………」
ジン
「…………」
しばらく誰も喋らなかった。
ラック
「……風呂って」
「こんなに気持ちいいんだな」
ブライ
「出たくない……」
レイ
「明日、仕事だぞ」
ブライ
「風呂の中で仕事すればいい」
レイ
「どうやってだよ!」
ジン
「土でも運びます?」
3人
「風呂でやるな!」
4人の笑い声が小屋に響く。
奴隷になってから、初めてだった。
仕事でもなく。
食事でもなく。
ただ、くだらないことで笑った。
やがて風呂を出る。
今日の食事は、木ノ実とキノコ。
ジンがパンを焼き、その上に焼いたキノコを乗せる。
4人
「いただきます」
豪華ではない。
それでも、以前とは比べ物にならない。
ラック
「……うまい」
レイ
「だな」
ブライ
「風呂の後だと、余計にうまいな」
ジン
「明日はシナゲルを調べます」
「明日までは食事を我慢ですね」
ラック
「判った」
「隙があればキノコか木ノ実を渡しに行く」
レイ
「怪しまれないように、回数は控えよう」
「ジンはまだ10歳だ」
「声を掛けるついでに渡す」
「これで試してみよう」
ブライ
「俺はジンに近いから、様子を見て渡しに行くな」
ジン
「判りました」
「気を付けていきましょう」
4人は明日のことを話しながら、眠りについた。
ジン
【……お風呂もいいけど】
【次は石鹸が欲しいな】
【確か、作り方……】
【前世の記憶から、何とか思い出せるか?】
奴隷生活は、まだ始まったばかり。
そしてジンの頭の中では――。
また1つ、新しい「快適生活」の計画が始まっていた。
今後もよろしくお願い致します。




