第9話 奴隷の食卓、肉が食べたいが、魚の⋯
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翌日も、4人はいつものように仕事へ向かった。
倒木。
石運び。
土運び。
それぞれに割り振られたノルマを、4人は午前中を目安に終わらせる。
以前なら1日中かかっていた仕事も、ヒールで疲労を回復できるようになった今では、かなり余裕を持って終わらせられるようになっていた。
昼食の時間になる。
ジンはラックとレイから黒い木ノ実を受け取り、すぐにアイテムボックスへ収納する。
ブライからは岩塩を受け取った。
食料は少しずつ増えている。
それでも――。
ラック
「……魚は、なかなか厳しいよな」
レイ
「なあ……」
「俺、肉が食いたい」
ブライ
「ッ!」
「肉ッ!」
ジン
「魚も厳しいのに、肉は……」
「この辺に獣っているんですか?」
レイ
「獣より、魔物なら出るぞ」
ジン
「魔物!?」
「そんなの、食べられるんですか!?」
レイ
「ジンは知らないのか?」
「魔物の肉は高級食材として取引されるんだ」
ラック
「冒険者が儲かるのも、そのせいだな」
「ただし、命懸けだけどな」
ブライ
「……肉」
3人は、ブライを見なかったことにした。
ジン
「魔物が出たら……俺たちは見捨てられるんですか?」
ラック
「いや、看守と一緒に逃げるだろ」
「街に連絡して冒険者を呼ぶか、国の衛兵が来るか」
「どっちにしても、俺たちが倒すことはないな」
ジン
【そうなると……こっちで魔物を倒すのは厳しいな】
レイ
「そうだな……」
「すまない、ちょっと欲が出てた」
「魚も自由に取れる状況じゃないのにな」
ブライ
「肉……」
ラック
「……」
「ブライ」
「俺たちは奴隷だ」
「全部が自由なわけじゃない」
ブライ
「判ってるよ」
「でも……」
「ジンが入ってから、何でも出来るんじゃないかって思っちゃうんだよ」
レイ
「それは判る」
ラック
「そうだな」
「ジンのおかげで、俺たちは奴隷なのに……」
「少しだけ、奴隷じゃないみたいな生活が出来てるからな」
ジン
「そんな……」
「たまたまですよ」
「俺が魔法を使えただけで、きっかけがなかったら今でも判ってなかったと思います」
ブライ
「……じゃあ!」
「俺のおかげじゃん!」
「みんな俺に感謝してくれ!」
ジン
「……そうですね」
「ブライが足を怪我したからですね!」
ラック
「そうだな」
「足を!」
レイ
「怪我したからな!」
ブライ
「……すみません」
「許してください……」
3人が笑う。
ジンも笑った。
だが、その胸の奥では別のことを考えていた。
ジン
【肉……食いたいな】
【何とかシナゲルを解析して、肉を食べる方法を考えよう】
その日の仕事中、ジンはシナゲルについて調べようとした。
しかし――。
結局、十分に調べる時間はなかった。
仕事を終え、4人は小屋へ戻る。
いつものように井戸へ向かい、汗と泥を落とす。
バシャッ!
ラック
「冷てぇ!」
レイ
「もう少し静かに入れよ!」
ブライ
「……そろそろ、水も厳しくなってきたな」
レイ
「そうだな」
「陽が沈むと涼しくなってきたし」
ジン
「……お風呂入りたいね」
3人が一斉にジンを見る。
ジン
「えっ?」
「何か言いました?」
3人
「お風呂……」
ジン
「お湯は作れますけど……」
「容器も、湯船もないですよ」
ブライ
「そうだよな……」
ラック
「それは少し後だ」
「何か考える」
4人は身体を拭き、小屋へ戻った。
ジンがアイテムボックスから食材を取り出す。
魚。
キノコ。
木ノ実。
岩塩。
レイ
「今日は俺に考えがある」
ジン
「何を作るんですか?」
レイ
「魚の内臓を取る」
「そこにジンが仕分けてくれたキノコを入れる」
「岩塩で魚全体を覆って、水を掛けて固める」
ジン
【塩釜の魚……】
【絶対に美味いやつだ】
ブライ
「……塩っぱそう」
ラック
「本当に食えるのか?」
レイ
「焼けてからのお楽しみだよ」
4人で準備を進める。
床板を1枚外し、火を使える場所を作った。
ジン
「フローガ」
ボッ!
焚き火ほどの炎が生まれる。
ラック
「ジン、もう火魔法の使い方が完全に職人だな」
レイ
「魚を焼くぞ!」
ブライ
「俺、手伝います!」
3人が交代しながら魚を焼く。
その横では、パンも焼かれていく。
香ばしい匂いが小屋に広がる。
ブライ
「……やっぱり塩っぱそう」
レイ
「まだ言ってるのか」
ラック
「でも、いい匂いしてきたな」
レイ
「焼けてからのお楽しみだって」
塩釜が焼き上がるまで、4人は木ノ実を潰していた。
レイ
「ジン、いい感じだ!」
ジン
「はい!」
フローガが消える。
台の上に塩釜を置く。
ブライ
「これ……このままかじるのか?」
レイ
「甘いな、ブライ君」
レイが石を手に取る。
レイ
「これはな……こう食べる!」
ゴンッ!
ラック
「おい! 魚!」
レイ
「慌てるなよ!」
ゴンッ!
ゴンッ!
塩釜が割れ、中から魚が現れる。
ふわっ……。
魚の香りが広がった。
ジン
「……いい香りだ」
その瞬間。
グゥゥゥ……。
グー……。
ググゥゥ……。
4人の腹が一斉に鳴った。
ラック
「……食おう」
レイ
「そうだな」
魚を2匹、4人分に分ける。
焼いたパンに木ノ実を乗せる。
4人
「いただきまーす!」
パクッ!
ラック
「……!」
「魚! 美味いぞ!」
レイ
「だろう?」
ブライ
「塩っぱくない!」
「ちょうどいい!」
ジン
「美味い!」
その後は、誰も喋らなかった。
ただひたすら食べた。
魚の脂を吸ったキノコ。
岩塩のちょうどいい塩気。
焼きたてのパン。
木ノ実の甘さ。
久しぶりに、腹いっぱい食べられる食事だった。
やがて魚も、パンも、木ノ実も全てなくなった。
ラック
「……レイ」
レイ
「ん?」
ラック
「ジン」
ジン
「はい?」
ラック
「ありがとう」
「美味かった」
レイ
「俺からも」
「ありがとうな」
ブライ
「俺も……」
「直火で焼くのも美味いけど、これ凄いな」
「キノコが魚の脂を吸ってて……」
ブライは満足そうに息を吐く。
ブライ
「……はぁ」
「美味かった……」
4人はしばらく黙っていた。
そして――。
ブライ
「……肉」
ラック
「お前まだ言うのか!」
レイ
「魚食ったばっかりだろ!」
ブライ
「だって……」
「肉も食いたい……」
ジンは思わず笑った。
そして、ふと考える。
ジン
【魚も無くなった】
【しばらくはメインの食材がない】
【やっぱり……肉が必要だ】
【そのためには、シナゲルをどうにかしないといけない】
ジン
「明日は、シナゲルを調べます」
ラック
「肉のためか?」
ジン
「……はい」
レイ
「正直だな」
ブライ
「頼んだぞ、ジン!」
ジン
「任せてください」
奴隷であることは変わらない。
自由もない。
毎日のノルマもある。
それでも――。
4人の食卓は、少しずつ豊かになっていた。
そして次に4人が目指すのは――。
魚よりも、もっと食べたいもの。
――肉だった。
今後もよろしくお願い致します。




