瑠(るぅ)
「瑠はさ、WEリーグとか行かないの?」
ってさー。律と同様の無神経な質問だよね。
行きたい気持ちはもちろんある。実はあるチームから誘いもある。
正直、迷ってる。
ゴール前で迷ったことなんて1度もない私が。
子どもの頃から兄の背中を追いかけてた。
海外でサッカーをする兄に「置いて行かれた」感覚。
無気力な、それでもサッカーはしたくて、
サッカーさえできればいいって思ってたけど、鈴のせいで自分の中の何かが騒ぎ出してる。
「サッカーが好き」だけで突っ走る、あいつのせいで。
私は、とっくに諦めたはずの夢まで思い出してしまう。
律が好きなのは本当だ。
今、律はうちのチームのために力を尽くしてくれている。
そして、
このチームをWEリーグに参戦させようと基盤を作っている。
私がこのチームから消えたら
自惚れて言えば、律の計画が大きく狂うことは間違いない。
だから、
チームを抜けるのは今じゃないと思ってる。
じゃ、いつなんだ?
言い訳してないか?
年齢は容赦なく選手生命を削っていく。
私、どうしたいんだろ。
怖いのかな。
律や鈴を捨てていくこと、レベルの高い場所でサッカーをすることが。
今までの私だったら、そんな人生は捨てていたんだけどね。
鈴が悪い!
その上、鈴の息子が追い討ちをかけて聞いてきた。
「瑠はさ、WEリーグとか行かないの?」
Jリーガーにこんなこと言われるのが、どんだけ強く背中を押すか、あいつは分かってない。分かってないで言ってんのが、ホント、むかつく。
Jリーガーの息子で、当たり前のようにJリーガーになってる君とは、違う人生を歩んでるんだよ、こっちは!
でも、むかつく理由はもう一つある。
私が、律以上にあいつが気になっているってことだ。
自分の人生にあいつを加えるとややこしいことになるから、あまり考えないようにはしてるんだけど、こんだけ影響力のあるセリフを吐かれると、困る。
結婚して、子ども産んでとか考えてもみなかった。
でも、誰かを好きになるその先には、あってもおかしくないことだ。
今まで、それを省いてのサッカー選手寿命を計算してた。
サッカーだけを並べた人生設計だった。
引退は何歳で、そのあと仕事をして。
それだけで十分だと思っていた。
誰かと生きる未来なんて、計算式の中には一度も入れたことがなかった。
なのに最近は、鈴の家で笑う時間や、律とサッカーの話をしている時間や、あいつの何気ない一言まで勝手に入り込んでくる。
そんな予定外の未来を想像してしまう自分がいる。
そう考えると、
今なのかもしれない。
WEリーグへ行くのも。
私の人生を、自分で選ぶのも。
誰かを好きになるのも。
明日につづく




