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ドラゴンマスクより ーふたつのゴールー  作者: 福本 美憂


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僕は、恋愛というものがよくわからない。

ゴール前の1対1なら、何をすればいいかはわかるのに。

サッカーしかやってこなかったからだな。

もちろん、好きになった人はいる。

かっこいいな、とか、きれいだな、とか思ったこともある。

でも、それが恋なのかと聞かれると、よくわからない。

男でも女でも、「この人、いいな」と思う気持ちに、大きな違いはない気がする。

たぶん僕は、人を好きになる前に、サッカーを好きになってしまった。

周りの選手は、海外へ移籍したり、結婚したり、子どもが生まれたりしている。

人生はどんどん進んでいる。

僕だけが、ピッチの上に取り残されている気がした。

焦りはない。

悔しくもない。

それが一番まずいことなんだと、最近ようやく気づいた。

サッカーも恋愛も、たぶん「欲しい」と思う気持ちがないと始まらない。

僕には、そのエゴが足りない。

だから今は、恋より先に、サッカーでそのエゴを見つけたいと思っている。

うちのチームもなんとか一年でJ2に戻り、僕もスタメンが取れるようになってきた。

コーチからは、「代表を狙おう!」と言われ、少しその気になってきている。

チームをJ1に持ち上げ、僕は代表を狙うことが今年の目標だ。


え?かあちゃん?


かあちゃんは相変わらず、サッカー三昧の日々だ。

月曜から金曜はスーパーのパート。

水曜日の夜は小学校の体育館でチーム練習をしてる。

土曜は午前にチーム練習。

午後からJリーグの試合を見に行って、夜はカラオケで戦術会議。

カラオケのモニターに自分たちの試合を流して、反省会をするらしい。

リーグ戦が始まると日曜は、ほぼ試合だ。

当然、夜は体のメンテナンス。そして、また月曜のパートだ。


まあ、止めたってやるんだから見守るしかない。

そして、

なぜかわからないけど「ドラゴンマスク」についてはお互い触れないようにしている。

僕は、咄嗟につけた、このだっさい名前を「自分がつけた」と言いたくないだけ。かあちゃんは…わからないなぁ。

なんか、黙ってられると弱みを握られてる気がする。

でも、また何かの役に立つかもしれないから、ちょっとキープしておこうとも思う。

先日、母ちゃんがスパイクを買いに行ったそうだが「がっかり」な出来事があったらしい。

まずは第1声。

「息子さんのシューズをお探しですか?」

でも、かあちゃんが言うにはこれはまだいい方で

「お孫さんの…」と言われたこともあるらしい。


「自分のです」と言えば

「フットサルシューズはこちらです」


「いえ、サッカーの土のピッチ用で、できればカンガルー革の…」と言ってやっと「こちらです」と到着して「サイズは?」


「23.5です」と言うと、さらに子どもサイズにつれて行かれ

「カンガルーはありません」と言われたらしい。

そのメーカーは、23.5cmサイズのカンガルー革も展開しているらしいのだが、数が少ないため手に入りにくい。

女子がサッカーやりにくい国なんだよね、まったく。


「私もカンガルーで試合に出たい」


かあちゃんが珍しく駄々をこねる。

うー。そうなるとドラゴンマスクの出番か?

そーゆーことに使うもんか?でも、


探してみるか。


律も相変わらずだ。

ヘラヘラしながらも好きなサッカーをしっかりと仕事にしている。

ただ、母ちゃんのいる女子チームを本気で「WEリーグ」にあげようと考え始めているようだ。

自分もコーチのランクを上げて監督になるべく準備を始めた。座学ってやつが性に合わないらしく、苦戦はしてるようだが、愚痴も言わずにチャレンジしてるところを見ると、本気なんだろうな。それから、チームのためにスポンサー集めも始めている。

これは選手にとって大切なことだ。今は地元リーグでやってるから移動は県内だが、それでも移動は大変だ。

それだけじゃない。どのスポーツも本気でやるとお金がかかる。

チームに資本がないと、チームは続けていけない。

その上、どのチームも選手の取り合いになる。

瑠があのチームにいるのは不思議なくらいだ。きっとランキングが上のチームから誘いがきているはずだから。

今、律は自分が持ってるサッカー教室の経営のノウハウで女子サッカーチームを「食っていける」チームにしようとしている。

だから、

バカだけどちょっと尊敬している。


瑠も相変わらず、自分に厳しく、他人に厳しくサッカーを楽しんでいる。

チームは、律のサッカー教室の生徒が流れてきて、少しずつ人数は増えてきているが、瑠の洗礼を受け、やめる人もいたようだ。

かあちゃんは、サッカーはそれぞれに楽しみ方があるから、合わないならステージを変えればいいとか一人前のサッカー人みたいなこと言っていた。

でも、あの瑠のやりたいサッカーに到達したかあちゃんには、それを言う権利がある。瑠は、そんなかあちゃんに一目置きながらもプレイには容赦ない。

とにかく白熱するのは「カラオケ」での戦術会議らしい。

負けず嫌いの瑠は、「トルシエのフラット3が」とか「オフトのゾーンディフェンスでは」とか過去の戦術で分析してくるかあちゃんが気に入らない。

対立して、毎回、すごいことになるらしい。他のメンバーは、それが面白くて参加してるようなもんだと笑っていたが、次の日には、ちゃんと連携してるんだから、あれはお互いの脳内を理解し合う儀式のようなもんだとも言っていた。

それにしても瑠は、なんで他のチームに移籍しないのだろう。

あれだけの実力があれば、絶対に声がかかってるはずだ。

WEリーグだって夢じゃない。高校も大学もサッカーの名門校を出てるってのに。かあちゃんには悪いがもったいないと思う。


練習を見に行った時、瑠に聞いた。


「瑠はさ、WEリーグとか行かないの?」

「行かないかな」

「なんで?」

すーっと息を吸い込んで空を見たまま瑠は言った。


「律が好きだから」


え?


「ここのサッカーが好きだからね」


あー驚いた。


「あーあと、君のかあちゃんも好き」と言って笑った。


僕を好きと言ったわけじゃないけど、その笑顔にドキッとしてしまった。

このドキッは恋なのだろうか?

と、思うと今後の面倒なことは山ほど想像がつくからやめた。

僕は、恋に向いてない。


                                      明日につづく

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