9.答え
「さて、何をどうしたらこうなるのかお聞きしても?」
「どうって、君に言われた通りに自分で考えた結果だが?」
「だから!!自分で考えた結果が何故これなのかを聞いてるんですよ!!!」
確かに俺は、自分で考えろと言った。
だが、『最悪』を考えろとも言ったはずだ。
その結果が何故、『朝から晩までずっと一緒にいて守護る』になるのかわからない。しかも、エドガーやユウキ、アイリスにまで協力を仰いで、俺が一人の時間は寮の部屋になっちゃんがいない時だけになるほどの徹底ぶり。他国の王子をこんなことに使っていいのか?
「最悪を考えたんだが、分からなかったんだ。だったら、最悪が絶対に起こらないようにすればいいと思ってな!」
うん、バカだわこいつ。自分の考えた案を実行したときに最悪の場合どうなるか考えろって意味だったのに、何をどう解釈したら最悪を起こさなければいいという結論に至るんだろう。
彼らの徹底ぶりは本当に凄まじいものだった。
俺に近づく人間全員に対して彼らが威嚇するため、教師すらも俺に近づけなくなった。どうしても男性である殿下達が手を出せないトイレや風呂も、常にアイリスがついてくる。
確かにいじめはなくなったが、代わりに俺の自由もなくなった。
「殿下、自由ってご存知ですか?私だって、たまには一人で好きなことをする時間が欲しいです」
「だが、君が一人になったらまたいじめられるだろう?」
その通りなんだよな………。
これまでの経験からして、俺の周りに人がいる時間が多いほど、いじめの内容がより過激になっている。ここ最近ずっと誰かが一緒にいるから、一人になったらこれまで以上の内容になるだろう。
今度こそ死ぬかもしれない。
それはわかっているが、やはり一人の時間というのは欲しくなるものだ。
丁度今はアレックスしかいないし、どうにかしてこいつを撒けないだろうか。
「殿下、私お花を摘みに行きたいですわ」
「花くらい俺が摘んできてやる」
この野郎ふざけてんのか?王子ならこういう遠回しな言い方くらい知っとけよ。
「そういう意味じゃなくて、お手洗いに行きたいですわ」
「そ、そうか。ならアイリスを呼んでこよう!」
結局こうなるんだよな。自分がトイレの前で待ってればいいだけなのに、わざわざ中まで入れるアイリスを呼びに行く。しかも、呼びに行く間に俺が一人にならないように、俺も一緒に連れて行かれる。
「アイリス」
「ん?どうしたんですか?殿下」
「シルフィがトイレに行きたいと言い出してな。連れて行ってあげてくれ」
「わかりました!行きましょうシルフィ!」
マジで頼むからトイレくらい一人にしてくれよ。
アイリスも「行きましょうシルフィ!」じゃないよ。なんでそんなに笑顔なんだよ。怖いよ。
「べ、別にトイレくらい一人で行けますわ」
「ダメですよ!一人になったらまたいじめられちゃいます!」
「でも、私へのいじめがアイリスに移ってるじゃないですか。そのほうが私は嫌ですわ」
「私なら平気です!」
「平気です!」じゃないのよ。いじめの対象がアイリスに移ってるんだからさ。これまで受けてたからわかるけど、平気でいられるわけないもん。
「アイリスが平気でも私が平気じゃないのよ」
「なら、ずっと一緒にいましょう!そうすれば私もシルフィもいじめられません!」
いい案ではあるんだよな、アイリスが平民じゃなければ。普通に平民見下してるタイプの貴族の生徒とかなら、俺とアイリス二人まとめていじめるくらいするに決まってる。
それでも、これまでよりはいじめも減るだろうし、良くないんだけど、いじめられる時にアイリスも一緒なら辛くない。
「まぁ、アイリスがいいなら私は構いませんわ」
「やったぁ!!」
可愛い。たかが一緒にいるだけで喜んでくれるなんてもしかしてアイリスってチョロいのでは?
「じゃあ、一緒にお昼ご飯食べに行く?」
「行く!!」
「俺も行こう」
クソが、俺はアイリスを誘ってるんであって、バカ王子はお呼びじゃねぇんだよ。
あ、でもバカ王子がいたほうが席取り楽になるじゃん。
「うわ、なんでいるんです?」
「ん?なんだチビか。俺が食堂で飯食ってちゃおかしいか?」
エドガーの野郎がいやがった。アイリスとアレックスがいないときに一緒にいてくれるのは助かっているが、呼び方はチビのままだ。マジで誰がチビやねんふざけんな。
こんなクソ野郎でも王子だから周りに誰も座ってないし、もうこいつの近くでいいか。
「前、失礼しますわね」
「ああ、いいぞ」
こいつ割とこういうところあるんだよな〜。
あ、エドガーの食べてるの美味しそう、一口貰おうかな。
バシャン
「あら、ごめんなさいね」
後ろから水をかけられた。それも、魔法で出した水じゃなくてコップに入ってる飲水だ。躓いたりしちゃったのかな?
とか思っていたが、どう見てもニヤニヤしてる。
王子×2がいるのに度胸あるなこいつ。その度胸に免じて見逃してやるか。
「お前!」
「いいんですよエドガー。少し濡れた程度ですから。貴方もお気になさらないで、何もないところで躓くことくらいよくあることですもの」
クソ野郎を制止しながらついでに相手も煽る。我ながらうまくやったと思うぜ。
「あら失礼、少しめまいが」
ガッシャーン!
皿が割れ、料理が床に散乱した。これじゃあもう食べられない。
完全に忘れていた。この世界の人間は煽り耐性0なんだったわ。流石に、食べ物を粗末にすることは許せない。何より、ずっと俺の味方でいてくれたおばちゃん達の作った料理を嫌がらせに利用していることが許せない。
「テメェ!やっていいことと悪いことの区別もつかねぇのか?食物粗末にするとかふざけてんじゃねぇぞ!
食材を生み出してくれた農家の皆々様と料理してくれた食堂のおばちゃんに謝罪しやがれ!!」
「シ、シルフィ?」
元の世界で貴族でもなんでもない一般人だった俺からしたら、食べ物を粗末にするなんて許せないことだ。
「落ち着け、シルフィ」
アレックスに制止された。
冷静になって考えてみると、こういうところも元の世界と違うところなのかもしれない。俺は日本で、食べ物を粗末にするな、命をいただくことに感謝しろと教わっていたが、この世界の人間は違うのかもしれない。それはそれとして許さないけどな。
「まぁ、しっかりと誠意を持って謝罪してくれたら許しますわよ」
「ごめんなさい」
普通に謝ってきた。何なの?こいつ。頭も下げずに誠意を感じさせられるとでも思ってる?誠意って言葉知らないのかな。
「誠意が足りませんわね」
「ごめんなさい!」
今度は頭を下げてきた。これで許してもいいが、いじめられていた仕返しにもう少しだけ意地悪をするとしよう。
「まだ、誠意が足りませんわ」
「もうやめてください!シルフィ!」
アイリスに止められた。少し意地悪するだけのつもりだったが、それでアイリスに嫌われるのは嫌なので許してやるか。
「仕方ないから許してあげますわ」




