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王子の話

深夜。


アレックスに呼ばれていたので学園の中庭へ向かう。


信用してないわけじゃないが、念のためになっちゃんが寝たのを確認してから部屋を抜け出すことにした。


「寝たかな?いってきます」

「シルフィ?」


なっちゃんが起きてしまった。

寝息を立てているのを確認したからといって、小さな声とはいえ挨拶をするなんてバカなことをしてしまった。


「あら、ごめんねなっちゃん。起こしちゃった?」

「どうかしたの?」

「別に、少しお花を摘みに行くだけだよ」

「そうなの。暗いから気をつけてね」


アレックスと会ったことが何処から漏れるかわからないから、念のためなっちゃんに嘘をついた。

嘘がバレたりしないとも限らないので、できるだけ早くアレックスとの会話を終わらせて戻ってこよう。



一緒にいるところを誰かに見られたら、何をされるか分かったものじゃないので、生徒達が寝静まったこの時間にしか会えない。


人目を憚って誰かに会いに行くというのは、何か禁断の恋でもしているような気分になる。


中庭に着くと、すでにアレックスがいた。

流石は暫定攻略対象というべきか、月明かりに照らされる彼の姿は、芸術作品を思わせるような美しさを放っていた。


「お待たせして申し訳ないですわ」

「気にしなくていい。俺も今来たところだ」


まるで少女漫画のようなやりとりだ。

別に彼と話すこともないので、早く本題に入ってほしい。


「わざわざ呼び出して何の用ですの?」

「シルフィに対して行われているいじめについて話がある」


アレックスが神妙な面持ちで言った。


アレックスも最初は俺を助けてくれていた。

いじめの現場に遭遇したときは止めに入ってくれた。

俺へのいじめをやめろと呼びかけてくれた。

だが、その程度でいじめが終わることはなかった。


現実でのいじめだって、先生に叱られた程度で終わることはない。先生にチクったと責められ、今度はバレないようにより陰湿により悪質な方法でいじめる。


この世界でも同じことだ。殿下が俺を守ろうとしても、殿下のいないところで、殿下にバレないように、より短い時間で俺を苦しませられるように改良されたいじめを受けるだけだった。


「殿下が介入した結果どうなったか、わかっているはずですわ」

「それでも俺は、君を救いたい」


救いたい?益々訳がわからない。

何をもって救ったというのか。

いじめられなくなればそれは救われたと言えるのか?違う。


たとえ、これから先の人生で一度もいじめられないとしても、ふとした瞬間に自分がいじめられていた時のことを思い出す。

いじめられた人間の心が救われる事はない。


「救いたい?どうやって私を救うんですか?たとえ、私をいじめた全ての人間に謝罪されても許せませんわ!それとも、全員を晒し首にでもしてくれるんですか?そうなったら、学園から生徒も教師もほとんどいなくなりますわね!」

「そ、それは………」


アレックスが狼狽えている。結局、こういういじめられっ子を救いたいなんていう奴は、いじめが終わればそれで救われると思っているんだ。自分はいじめられたことがないから、いじめられた人間の心の傷を理解できない。


これ以上ここにいたくない。


「ご理解いただけました?貴方に私を救うことはできないんです。さようなら」

「待ってくれ!」

「まだ何か……?」


先程までの狼狽えていた姿とは打って変わって、何か覚悟を決めたような目をしていた。


「俺にはシルフィの気持ちはわからない。だが、俺はシルフィを救いたい。だから、教えてくれ。どうすれば、シルフィを救えるのかを」


アレックスが俺に頭を下げてきた。彼は王子だ。軽々と頭を下げることはできないような教育を受けて来たはずなのに、俺に頭を下げた。どれだけの覚悟が必要だったのだろう。少しだけ見直した。


だが、どれだけ頑張っても俺の心を救うことはできない。

彼にできるのは、少しでも俺の心の負担を軽くすることだけだ。


「結論からいうと、私を救うことはできませんわ。」

「それはわかっている!だが!「なので」………?」

「なので、アイリスを守ってあげてください」


アイリスはいつも俺を助けてくれた。でも、そのせいでアイリスもいじめられている。俺は、自分へのいじめよりもそれが許せない。


「アイリスと君に何の関係があるというんだ?」

「私ほどではないにしろ、アイリスもいじめを受けています。それが許せないので、殿下が守ってあげてください」

「アイリスの件は俺も知っている。だが、俺はシルフィを救いたいんだ」


ダメだこいつ。自分からどうすればいいのか聞いておいて、こっちが答えたらそれを否定するとか話にならない。


「でしたら、殿下にできることはありません。ご自分でお考えになってください」


これ以上話すこともないので、足早にこの場を去る。


「一つだけ、アドバイスですわ。『最悪』をお考えください」

「最悪?」


彼は自身の案のいい面しか考えられていない。

彼の案は、全て現状を変えるものだ。最善の場合は、俺へのいじめは終わる。だが、それ以外の場合では、俺へのいじめが悪化するだけだ。

これは、彼が最善だけを見ていたから起こったこと。


彼が、俺のアドバイスを聞いてどんな案を出すのか楽しみだ。

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