王子
「シルフィ!起きてください!」
「ん〜」
なっちゃんに起こされた。この体になってからいっつも誰かに起こされてる気がする。けど、起きて最初に見るのがおばさんの顔じゃなくてこんな美少女なのは嬉しいことだ。眼福眼福。
「朝食を食べにいきますよ」
「え〜面倒くさ〜い」
こんな朝から飯を食べに行くとか本当に面倒くさい。俺はギリギリまで寝てたいタイプなのだ。
「いいから!いきますよ!」
なっちゃんに手を引かれて食堂まで来た。めちゃくちゃ人が多い。みんな朝からよくこんなに動けるな。
「さぁ、シルフィ。食べたいものを選んでください」
困った。フランス料理とかそういうの何も知らないんだよな。メニュー写真とかもないし、マジで何が何なのかわからない。
「じゃあ、なっちゃんと同じやつで」
自分のいったことない店で頼むものに困った時の対処法、いったことある奴と同じものを頼む。これが一番ハズレがない気がする。
「自分が食べるものなのだから自分で選ばなきゃダメよ?2種類しかないのだから自分で選びなさい」
「なら、なっちゃんが選んでない方。なっちゃんが頼んでるのも気になるから一口頂戴」
2種類しかないってなに?普通の高校の食堂でももっと種類あるぞ。まぁ、2種類しかないなら、なっちゃんと半分ことかできそうでいいけど。
「私が頼んでおくから、シルフィは席をとっていて頂戴」
「あいよ!」
席取りとか、ショッピングモールのフードコートみたいだな。ここって貴族御用達の学園だと思ってたけど、意外と庶民的な部分あるんだ。
「さて、何処が空いてるかな?」
「おい」
背後から男の声がした。俺に話しかけてるのか?だとしても、話しかけるときに「おい」はないだろ。
「はい?………うわ…」
振り向くと金髪バカ王子がいた。一昨日あんな事あったばっかりなのによく話しかけられるなこいつ。面の皮が厚すぎだろ。
「何の用?」
「………」
こっちを見たまま何も喋らない。何なのこいつ、自分から話しかけといて何も話さないとかふざけてんのか?それともあれか?婚約破棄する前みたいに接してくれるとでも思ってたのか?
「………」
マジで何か話してくれないかな。元婚約者とずっと見つめ合ってるの気まずいんだけど………。
「シルフィ、座れる席は見つかった?」
なっちゃんの声が静寂を破った。この子は救世主だ。俺の目にはまるで聖母かのように写った。
「………ナタリーか」
「殿下?何故こちらに?」
なっちゃん!君は天使だ!俺の聞きたかったことをピンポイントで質問してくれるなんて。
「それは………」
「まずは、食事にしましょう。殿下もご一緒しますか?」
「ああ」
なっちゃん!?そいつは俺の元婚約者なんだよ?一昨日婚約破棄したばかりなんだよ?それにこのバカ王子もなにが「ああ」だよふざけんな。
それはそれとして、王子パワーというのは凄いものだ。さっきまで全然見つからなかった席が、すぐに見つかった。というか譲られた。
「それで?何の用なんですか?私の公開処刑の日程でも決まりました?」
「そんなわけないだろ!」
「あら、失礼。一時の感情で女を叩くような方なら自分が殴られたら処刑くらいするものかと」
「………悪かったと思ってる」
「それで話なんだが、俺との婚約破棄をなかったことにしてくれ」
「嫌です」
自分で高らかに宣言しておいて、なかったことにしてほしいとか舐めてんのか?こっちは入学早々知らん女に絡まれてんだぞ?
「そうか………すまなかった」
やけに素直に引き下がるな。こっちとしては助かるけど、何か裏があるように感じてしまう。
「私はもう失礼させてもらいますわ。早く教室にいきましょうナタリー様」
「ごめんなさいシルフィ。私とシルフィは学年が違うから一緒に教室へは行けないの」
「代わりに殿下と一緒に行ってね?」
嵌められた。さっきからやけになっちゃんがバカ王子の味方をすると思ったらグルだったのか。
バカ王子と一緒に教室へと向かった。
もちろん気まずいし会話もない。仕方ないからこっちから話しかけてやるか。
「私に言いたいことって何でしたの?ここなら周りに誰もいないから言えますわよね?」
「殴ってくれ」
「は?」
こいつ今殴ってくれって言ったか?え、こわ。
「三日前お前に殴られてから、お前の姿が脳裏に焼きついて離れないんだ。あの時のことを思い出すごとに胸の鼓動が速くなるんだ」
「えぇ……」
「その蔑むような表情もいい!」
殴られて惚れたってことか?だとしても、面と向かって殴られたいって言うとか流石に引くわ。しかも、引いたらその表情で悦ぶとかこいつ無敵だろ。
無視してもそれはそれで悦ばれそうだしマジで困ったぞ。もう、普通にこいつと接するしかないのか?
「教室ってここで合ってますわよね?」
「ああ!」
教室内が静寂に包まれ、視線が俺に集まった。完全に失念していた。三日前に婚約破棄したばかりの婚約者と一緒に教室に入ってくるとか目立つに決まってる。
「シルフィ!」
アリシアが話しかけてくれた。今の視線が刺さりまくってる状況で話しかけてくれるのはかなり助かる。
「おはよう、アリシア。今日はお昼を一緒に食べない?」
「食べる!」
マジで可愛い。人見知りの小動物みたいな娘だと思ってたけど、人懐っこい子犬ちゃんタイプだったわ。なんか犬耳と尻尾が見える気がする。




