入学
「お嬢様!起きてください!遅刻しますよ!」
「え〜行かなきゃだめ?」
「ダメです」
鬼か?王子殴った奴がどの面下げて登校しとんじゃってなるやろ。婚約破棄もしたしさ。
俺知ってるんだよ?悪役令嬢ものとかで学んだんだから。婚約破棄されたら、仲いいと思ってた取り巻きたちが離れていったり、わけわからん噂が学園内に広まったりするんでしょ?
「王子ぶん殴ったんだから退学でよくない?」
「入学前に起こったことなので不問です」
「は?」
「何を驚いているんですか。今日が入学式でしょう」
え?じゃあなに?あのバカ王子は入学前のパーティーで同じ学園に進学する婚約者を断罪したの?バカなの?マジで最悪だわ。
俺はこれからの学園生活でずっと入学前に婚約破棄された女って言われ続けるんだ。顔も見たことないような奴らにあることないこと噂されまくるんだ。マジで退学したい。
「馬車も待ってるんですから早く起きてください」
「はいはい」
「はいは1回!」
起きたら、メイドさん達がぞろぞろと入ってきて、制服に着替えさせられた。初めて自分の姿をみたが、綺麗な銀髪に、整った顔立ち、スタイルも申し分ない。こんないい女のどこに不満があるんだか。
それにしても、スカートって慣れないな。
待ってる馬車に乗り込むと、パパンとママンも乗ってきた。屋敷から学園まで馬車で二十分。昨日、殴り合ったおっさんとこの狭い密室で二十分とか地獄でしかない。
案の定会話がない。さっきからチラチラ見てくるけど、目が合うとすぐに逸らされる。
恋する乙女かな?まぁ、こっちも気まずいし、気になってることもあるし、会話のネタをくれてやるか。
「さっきから気になっていたんですけど、入学式にしては荷物多くないですか?」
入学式に出席するだけなのに、衣服とか持っていくか?もしかして、学園って全寮制だったりする?だったら余計に嫌だな。同室の奴とかになんか言われそうじゃん。
「学園は全寮制なんだから当たり前だろう」
「うそん……」
はい、俺の学園生活、地獄確定しました。ただでさえ、この世界のこと何も知らないのに、他人と暮らすとか絶対に無理だわ。
「やっぱり、入学はなかったことにしません?」
「するわけないだろ」
「学園に到着致しました」
これから始まる学園生活に絶望している間に学園に着いたらしい。
馬車から降りると、物凄く見られてる。やっぱり噂になってるんだろうな。視線が凄く痛い。
「あの方が……」とか「婚約破棄されたらしい」とか、全部聞こえてんだよ。なんでああいう人ってわざわざ相手に聞こえるような声で噂話するのかな。
パパンとママンは保護者席だからさっさといなくなったし。誰も知り合いとかいないのに、どうやって入学式に参加しろと?こっちは学園の名前すら知らんのやぞ。
「あら、シルフィ様。ごきげんよう」
なんか性格悪そうな顔の女が話しかけてきた。
友達?には見えないな。取り巻きも含めてみんなでニヤニヤして見下してるもん。
「王子殿下との婚約が破棄されたんですって?可哀想に」
あのカス野郎との婚約破棄が可哀想?あの件で俺が傷ついてるとでも思ってるのか?傷ついてる奴が王子を殴るわけないのに何も知らないの?けど、ちょっとムカつくな。
「男に媚びなきゃ生きていけませんの?」
「は?」
「婚約破棄を女が捨てられる行為とでも思ってますの?」
「何を言って……!」
「ああ、ごめんなさい。私は別に結婚しなくても生きていけるけど、貴方は無理そうですものね。」
顔見ればわかるくらい怒ってる。この世界の人間って煽り耐性0なのかな。
「ふざけるのも大概にしなさいよ!!」
「だってその通りでしょう?婚約破棄が可哀想なんて言葉は、女は男に選ばれるものとでも思ってないと出てきませんもの」
「このッ!!」
パァン
引っ叩かれた。マジでなんなの?煽られたら叩きなさいって法律でもあるの?クソ痛えんだけど。てか、王子と婚約できるレベルの貴族の令嬢叩くとかバカだろ。
俺は紳士だし、事を荒立てたくないからさっさと逃げよ。
「用は済みました?私、忙しいのでもういきますわね。ごきげんよう」
入学前からこの調子じゃ先が思いやられるぜ。
入学の案内のおかげで式には参加できた。入学生代表挨拶をあのバカ王子がやってたけど、よく普通生活送れるなあいつ。メンタル鋼か?
入学式が終わったら、寮に案内された。二人一部屋で、風呂は大浴場。詳しいことは、同室なった先輩に聞けって言われた。
「失礼しまーす。今日からお世話になるシルフィでーす」
「あら、はじめまして。私は、ナタリー・ハイドレンジアよ。よろしくね」
めっちゃ綺麗で儚げな女の子がいた。眼鏡かけてて文学少女って感じ。この世界って顔面偏差値高いよな。
「噂は聞いてますよ。王子殿下を殴ったって私は殴らないでくださいね?」
「大丈夫ですよ。女は殴らない主義なんで」
冗談とか言えないタイプに見えたけど、結構面白い子だな。
「弟がご迷惑をおかけしたみたいでごめんなさいね」
「え?」
弟?俺が会った同年代の男って、バカ王子とクソ眼鏡と脳筋騎士だけだぞ?
「弟って、バカ王子とクソ眼鏡と脳筋騎士のどれですか?」
「クソ眼鏡です!」
めちゃくちゃ面白れぇ女だったわ。自分の弟の事ノータイムでクソ眼鏡とかいるってマジで面白いわ。
推せるわ。でも俺にはアイリスっていう推しが………。いや、別に推しって一人じゃないといけない決まりなんてないもんね!推しが増えたわ。
「私のことは好きなように呼んでいいからね?」
マジで?お姉様とか呼んでもいいってこと?いや、さすがにキモいか。ならあだ名とかつけるか。ナタリーだし、なっちゃんで!
「よろしくね!なっちゃん!」




