投影の準備と、炉の鳴動
「見せるって……どうやってですか? この欠片をただ見るだけじゃ、何も映りませんよ?」
ルカは不審そうに尋ねた。
星の欠片を手で触れると、記憶のフラッシュバックが起きることは知っている。だがそれは触れた本人の頭の中に断片的なイメージが流れ込んでくるだけであり、映画や幻灯のように「見る」こととは違うはずだった。
ヴィンセントはふっと鼻で笑い、威厳に満ちた手つきで結晶を持ち上げた。
「ただ燃やせばただの燃料。手で触れればただの危険物。……だが、我がアークメイジの術式をもって機関炉の魔術回路を『再構成』すれば話は別だ。この欠片が持つ記憶の波動を熱エネルギーに変換する過程で、光の回折現象として外部へ投射させることができる」
「機関炉を……再構成? 先生、そんなことできるんですか?」
「私を誰だと思っている。この列車の機関設計を行ったのは、他ならぬ私だぞ」
ヴィンセントは誇らしげに胸を張り、かますから取り出した蒼い大結晶を胸に抱えて、車内奥の機関室へと歩き出した。ルカも好奇心と少しの不安を胸に、彼の後を追いかけた。
機関室は、無骨な鋳鉄と無数の真鍮パイプが複雑に絡み合う、重厚な空間だった。中央に鎮座する巨大な機関炉は、まるで静かに眠る鉄の巨竜のようだ。
ヴィンセントは炉の前に立つと、コートの袖を少しだけ捲り上げた。
「ルカ、そこに並んでいる真鍮のダイヤル式バルブが見えるか?」
「ええと……これですか? 赤い目盛りがついたやつ」
「そうだ。一番上のバルブを右へ三回半、中央の圧調バルブを左へ二回回せ。私が合図したら、下のバイパスレバーを引き下げろ。……一秒でもズレれば、炉内の魔力が逆流して車内が蒼い爆発に見舞われるぞ」
「ええっ!? 爆発!? 失敗したらどうするんですか!」
ルカは慌てて真鍮のバルブに手をかけた。冷たい金属の感触が手に伝わる。
「失敗などせん。私の指示通りに動けばな」
ヴィンセントは表情ひとつ変えず、両手で蒼い大結晶を炉の投入口へと掲げた。彼の指先からかすかな金色の魔術光が走り、結晶の表面に刻まれた微細な傷をなぞっていく。
「バルブ操作、開始」
「ひ、右へ一、二、三……半! 中央を左へ一、二!」
「レバーを引け!」
「はいっ!」
ルカは夢中で下の重い鉄レバーを全力で引き下げた。
ガコンッ! と腹に響く激しい金属音が響き、管を伝って「シューッ!」という高圧の蒸気が噴き出した。
ヴィンセントがその瞬間に合わせて、両手の中の大結晶を炉の深部へと滑り込ませ、即座に鋳鉄の重い扉を叩きつけるように閉ざした。
ズドオンッ……!
次の瞬間、足元から地鳴りのような重低音が響き渡った。
普段の「カタコト」という走行音とは明らかに違う、空間全体が震えるような高周波のうなりが車内に満ちていく。炉の覗き窓からは、まぶしいほどの蒼い光と、幾重もの虹色の光の束が激しく渦を巻いて溢れ出していた。
「……ふむ。再構成、完了だ」
ヴィンセントは何事もなかったかのようにコートの袖を下ろし、パンパンと手袋を叩いて埃を払った。
「さあ、居間へ戻るぞ、弟子。最高の見物だ」
ルカは冷や汗を拭いながら、急いでヴィンセントの後を追って居間へと駆け戻った。
ちなみに、『再構成』はかなりの高等技術で、当たり前のようにやってるヴィンセントは結構すごいです。




