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『星屑の軌道 — 記憶を巡る夜行列車』  作者: 天ヶ瀬 彗燦
第六章:未来へ紡ぐ藍色の足跡
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新世界の風と、背が伸びた青年

カチャン、と静かな金属音が響いた。


光の眩しい草原を見下ろす小さな小高い丘の上。木漏れ日が揺れる大きなオークの木の木陰に置かれた素朴な木製テーブルの上に、小ぶりな真鍮製のケトルが置かれた。


ケトルからは、すうっと細く白い湯気が立ち上り、どこか甘く香ばしい、懐かしい茶葉の香りを風に乗せて運んでいく。


ケトルを持ち上げ、温められた磁器のポットへと静かにお湯を注ぎ込んでいるのは、一人の青年だった。


かつて膝まで引きずっていた丈の長い長衣は、今や彼の身体に驚くほどぴったりと仕立て直されている。サスペンダーの革は年月の経過によって深い飴色に変化し、胸元から覗くサファイアブルーの瞳は、幼かった頃の怯えを完全に拭い去り、澄み切った知性と強い意志の光を宿していた。


「……抽出時間は二分と四十五秒。一秒の狂いも許されない」


青年——ルーカスは、古びた真鍮の懐中時計を覗き込みながら、低い声でそう呟いた。


その口調や、どこか厳格さを装った眉間のシワの寄せ方は、かつて彼が「師匠」と呼んで慕ったあの漆黒のコートの大魔導士に、恐ろしいほどそっくりだった。


ルーカスはふっと口元を緩め、眉間のシワを解いた。


「……なんてね。相変わらず固い言い方だな、僕も」


ルーカスは懐中時計をポケットに収めると、風にそよぐ目の前の風景へと視線を向けた。


あの日、境界の扉を潜り抜けてから、どれほどの歳月が流れただろうか。


眼下に広がる広大な盆地には、新緑の草原を切り拓くようにして作られた、活気あふれる『新しい街』が広がっていた。


赤レンガの屋根、木製の温かみのある扉、石畳の小道を忙しなく行き交う馬車や人々。広場の中央にある大きな噴水からは、太陽の光を受けて虹色の水飛沫が勢いよく吹き上がり、市場からは果物売りやパン屋の賑やかな掛け声が風に乗って聞こえてくる。


世界から色と音と言葉が失われていたあの滅びの時代が嘘のように、この新世界には、溢れるばかりの色彩と、生きた「音」が満ちあふれていた。


ルーカスはその街並みを、優しく愛おしそうな眼差しで見つめた。


この数年間、ルーカスはこの芽吹いたばかりの新しい世界をどこまでも歩き続けてきた。街を作り、畑を耕し、新しい歌を歌い始めた人々のもとを訪れ、その生きた姿を、手に携えた「手帳」へと記録し続けてきたのだ。


「……良い街になりましたよ、ヴィンセント」


ルーカスは誰に聞かせるでもなく、静かに呟いた。

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