終着駅『果てなきプラットホーム』
カタコト……カタコト……。
地鳴りのように車内に響いていた車輪の歌が、ゆっくりと、けれど確実にそのテンポを落とし始めていた。
機関室の炉の音が静まり返り、車内を包んでいた真鍮ランプの火が、最後のお別れを告げるかのように、静かで幻想的な青白い光へと変化していく。
ルカは涙を拭い、霞む目で窓の外を見やった。
乳白色の光の渦が静かに晴れていき、列車の真正面に、果てしない白銀の光で作られた、ただひと筋の古びた「プラットホーム」が浮かび上がっていた。
どこまでも続く線路は、そのプラットホームの先で途切れ、その向こう側には、まだ誰も目にしたことのない、新緑の芽吹きを予感させる眩い光の奔流が渦巻いている。
『果てなきプラットホーム』——夜行列車『星屑の軌道』の、本当の終着駅だった。
ガタン、と静かな衝撃が走り、列車は完全にその動きを止めた。
「……着いたな」
ヴィンセントは静かに腕を伸ばし、デスクの上に置かれていた自分の宝物……あの「藍色の羽ペン」を持ち上げた。
夜渡り鳥の藍色の羽が、車内の青白い残光を受けて、まるで夜空の星々のように儚く、美しく輝いている。
ヴィンセントはその羽ペンを、ルカの手元へと静かに差し出した。
「手を出せ、ルカ」
ルカはおそるおそる、自分の小さな両手を差し出した。
ヴィンセントはその掌の上に、大切に育んできた藍色の羽ペンを、そっと横たえた。
「これは……私の『過去』のすべてだ。……今日からは、これでお前の手帳に、お前だけの新しい世界を刻みなさい」
「先生……っ」
ルカは羽ペンを両手で包み込み、胸に強く抱きしめた。羽ペンの軸からは、ヴィンセントが長年使い込んできた古い羊皮紙と、最高級の紅茶の香りが、かすかに漂っていた。
ヴィンセントは胸を張り、漆黒のコートの裾をバサリとなびかせると、いつもの厳格で誇り高い大魔導士の佇まいで言った。
「支度をしろ、我が弟子ルカ。……最後のステップを降りるぞ」
ルカは涙をぐっと堪え、抱え続けてきた大切な手帳をかばんに収め、サスペンダーの革の感触を確かめた。
「……はい、師匠!」
ふたりは重い乗降口の鉄扉へと向かい、静かにそのレバーを引き下げた。
扉が開き、新しい世界の息吹を含んだ、どこまでも澄んだ光の風が、ふたりの身体を優しく包み込んでいった。




