時間の途絶えた白夜と、調和する炉
カタコト、カタコト、カタコト。
車輪が奏でるその足音は、もはや荒野の土や鉄の線路を叩く音ではなく、世界そのものの「骨組み」の上をすべるような、澄んだ低音へと変化していた。
夜行列車『星屑の軌道』は今、世界のあらゆる概念が消失し、時の流れすらも歩みを止めた「世界の果て」へと足を踏み入れつつあった。
車窓の外には、夜でもなく昼でもない、乳白色の淡い光に満ちた静寂の世界が広範囲に渡って広がっている。太陽も月もなく、雲すらない。ただ果てしない透明な空と、地平線の彼方まで続く薄氷のような大地が静かに横たわっているだけだった。
「……不思議な光ですね。夜なのに、暗くないや」
ルカは革ソファーの上で膝を抱え、窓の外の乳白色の光に瞳を反射させながら呟いた。
「ここは『境界』の入り口だ」
向かいに座るヴィンセントが、いつものように漆黒のロングコートのボタンを正しく留め、静かな声で言った。
「過去、現在、未来という時間の概念が互いに押し合い、互いを相殺している領域だ。故に、ここには夜も昼も存在しない。世界のすべてが最後の静寂を迎える場所なのだからな」
ルカはソファーから立ち上がり、車内奥の「機関室」へ通じる通路を見やった。
重厚な鋳鉄の炉からは、これまで二人で集めてきた数々の『星の欠片』——モノクロの街の青く温かい欠片、大図書館の青黒い言霊の欠片、奏楽都市の金色の旋律の欠片——それらが完璧な調和を保ちながら燃え上がり、車内中に優しい熱と橙色の光を届けていた。
集めてきたたくさんの人々の記憶と想いが、この滅びの果ての世界で、ふたりの足元をたしかに温め続けているのだった。
「……先生。僕たち、本当に遠くまで来ちゃいましたね」
「何を今更へっぴり腰。私の計画に狂いはないと言ったはずだ」
ヴィンセントはふっと口元を緩めると、深茶色のソファーから静かに立ち上がった。
そして、居間の奥深く、普段は厳重に鍵が掛けられている重厚なマホガニー製の棚へと向かい、ポケットから古びた真鍮の鍵を取り出した。




