響き渡る交響曲と、旅の行方
夜行列車『星屑の軌道』は、静かに、けれど力強く闇を切り裂いて走り続ける。
機関炉に燃える『旋律の星結晶』がもたらした音の波動は、車内全体をまるで一つの巨大な楽器のように共鳴させていた。
壁の古時計が刻むチクタクというテンポ。 真鍮パイプが吐き出す蒸気の息遣い。 卓上で二人のカップが触れ合う軽やかな音。 そして、足元から地鳴りのように響く、力強い車輪の歌。
それらすべてが重なり合い、世界でたった一つの、最高に温かい交響曲となって車内に響き渡っていた。
ルカは涙を拭い、手帳を大切に胸に抱きしめながら、窓の外の暗闇を見つめた。
世界から色や言葉、音が消え去ろうとも、この列車がある限り、そして自分たちが手を取り合って前へ進む限り、世界の記憶は絶対に消えない。自分たちが描く線のひとすじ、残す言葉のひとことが、滅びゆく世界を照らす灯火になるのだから。
「……先生」
「なんだ」
「次の街には、どんな記憶が待ってるんでしょうね」
ヴィンセントは自分のカップを傾け、静かに微笑んだ。
「……さあな。だが、どんな場所であれ、私とお前が降り立つ限り、そこには最高のお茶と、お前が描くべき美しい世界がある。……ただ私についてきなさい、ルカ」
「はいっ!」
ふたりは温かい紅茶を飲み干し、未来へと続く暗闇を見据えた。
滅びゆく世界の果てしない夜を突き抜け、星の欠片の眩い光を胸に抱いて、夜行列車は走り続ける。
過去のすべての記憶と尊厳をその背に背負う、厳格で不器用なアークメイジの師匠と、 未来のすべての光と音をその手で描き留める、成長した若き「記録者」を乗せて。
世界の果て、ふたりの運命が待つ「境界」へと続く線路は、夜の静寂の向こう側へ、どこまでも、どこまでもまっすぐに伸びていた。




