湯気に揺れる琥珀色と、深まる絆
「さて……耳と心が心地よく揺れた後は、温かい茶に限る」
ヴィンセントは卓上の真鍮ケトルにお湯を沸かし始めた。
彼の所作には、相変わらず一切の無駄がない。沸騰した湯気の中で、温められた磁器のカップが「カチン」と軽やかな澄んだ音を立てる。音を取り戻した車内で聴くその音は、以前よりもずっと鮮やかで、美しく耳に届いた。
ヴィンセントが淹れた最高級の紅茶が、白いカップへと静かに注がれていく。
香ばしい茶葉の香りが漂う中、ルカは自分が縫い直したヴィンセントのコートを指差し、笑いながら言った。
「そういえば先生、コートの縫い目、大丈夫ですか? 激しく動いても解けてませんよね?」
ヴィンセントはコートの裾に視線を落とし、綺麗に揃った黒糸の縫い目を大きな指先でそっと撫でた。
「完璧だ。お前の縫合術は、我がアークメイジの防護障壁に匹敵する強度を誇っている。……不器用な私が触れば一瞬で解けたであろうな」
「へへ、素直でよろしい!」
「ぬかせ、へっぴり腰。……だが、そうだな」
ヴィンセントは温かいカップを手に取り、一口含んでから、優しく目を細めた。
「料理はお前が作り、衣服のほつれはお前が縫う。私は最高の一杯のお茶を淹れ、お前に世界の歴史と魔術を教える。……そして二人で、この世界の姿を手帳に書き留める。……悪くない役割分担だ」
ルカも自分のカップを両手で包み込み、温かい紅茶を口に含んだ。
芳醇な甘みと温もりが身体の隅々まで行き渡る。
「……はい! すごくいい役割分担です。僕、先生の淹れてくれるお茶が世界で一番好きですから」
「当たり前だ。私の抽出理論に狂いはない」
二人は顔を見合わせ、静かに笑い合った。
かつては「圧倒的な師」と「ついていくだけの幼い弟子」だった二人の関係は、過酷な旅の途上で、お互いの足りない隙間を補い合う、世界でたった一つの固い絆へと昇華していたのだった。




