復活する旋律と、鳴り響く機関
無事に『旋律の星結晶』を回収した二人は、無音の奏楽都市を後にし、夜行列車『星屑の軌道』へと戻ってきた。
重い鉄扉を閉ざすと、外の気味の悪い「無音の静寂」が断ち切られた。車内には、これまで二人が過ごしてきた日常の、わずかな擦れ音や息遣いが残されている。だが、どこか空間全体が音を弾く力を失い、こもったような息苦しさが漂っていた。
「……よし、ルカ。欠片を炉へ焚べろ」
「はいっ!」
ルカは抱えていたかますから、琥珀と金色の光が渦を巻く大結晶を取り出し、機関室の鋳鉄製の炉へと向かった。
扉を開けると、そこには燃え尽きかけた火種がかすかに残っている。ルカは息を整え、両手で抱えた大結晶を炉の深部へと静かに押し込んだ。
直後——。
ドォォォォン……!
これまでのどんな欠片とも異なる、身体の髄まで震わせるような重厚で美しい「低音」が炉の奥底から響き渡った。
それは爆発音ではなく、巨大なコントラバスやチューバが一斉に最低音を鳴らしたかのような、圧倒的な音の波動だった。
金色の炎が渦を巻いて燃え上がり、その熱エネルギーは真鍮パイプを伝って列車全体へと駆け巡る。すると、車内のあちこちから、奇跡のような「音の復活」が巻き起こり始めた。
カチカチ、カチカチ……と壁の古時計が力強く秒針を刻み始める。 天井の真鍮の天球儀が「カララン……」と鈴のような澄んだ音を奏で、壁の真鍮パイプからは「シューッ」と心地よい高圧蒸気の呼吸音が溢れ出す。
そして何より——。
カタコト、カタコト、カタコト……!!
車輪が鉄の線路を噛む音が、まるで完璧に調和した打楽器のアンサンブルのように、高らかに、そして劇的に夜空へと響き渡ったのだ。
「……音が……音が戻ってきた……!」
ルカは居間へと駆け戻り、窓の外を見やった。
列車は猛烈な勢いで加速し、音を失っていた奏楽都市の廃墟を置き去りにしていく。だが、列車が疾走するにつれて発生する強烈な風圧と車輪の振動が、後方の街のパイプオルガンの塔に伝わり、奇跡が起きた。
音を失っていたはずの巨大なパイプ群が、列車の走る振動に共鳴し、「ゴォォォォン……」という壮大なパイプオルガンの和音を一度だけ、空高くへと轟かせたのだ。
それは、沈黙に沈んでいた街が、走り去る列車へと贈った最初で最後の「感謝の交響曲」だった。
「……聴こえたか、ルカ」
いつの間にか窓辺に立っていたヴィンセントが、目を細めて去り行く街並みを見つめていた。
「はい……! 街が、歌いました……! 僕たちの列車の音に答えてくれました!」
「……ふむ。我が列車の奏でる脈動が、あの死んだ街に一瞬だけ『命の音』を取り戻させたのだ。お前があの欠片を抱え上げたからこそだな」
ヴィンセントはそう言うと、誇らしげにケープを整え、定位置の深茶色の革ソファーへと腰を下ろした。




