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『星屑の軌道 — 記憶を巡る夜行列車』  作者: 天ヶ瀬 彗燦
第四章:音の途絶えた奏楽都市と、刻まれる旋律
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足音の消えたホームと、師の迷子癖

「……自分の足音も、聞こえづらいですね」


靴底が木製のホームを踏みしめる。普段なら「ギィ、ギィ」と不吉な音を立てる腐った木板が、まるで綿の上を歩いているかのように、こもった鈍い感触しか返してこない。


ルカは真鍮ランタンを持ち上げ、周囲を照らした。


プラットホームの天井からは、ガラス製の繊細な風鈴が無数に吊り下げられていた。風を受けてカラカラと揺れているが、そこからは何の音も生まれない。まるで無声映画の一コマを見ているような、奇妙な浮遊感に眩暈がしそうだった。


「音がないというのは、これほどまでに感覚を狂わせるものか」


ヴィンセントが黒革の手袋をはめ直し、周囲の音無き街並みを見渡した。


「視覚や言葉以上に、人間は『音』によって自らの存在位置を認識している。音が消えた世界では、距離感や平衡感覚が容易に削ぎ落とされる。……ルカ、私から離れるなよ」


「はい! ……あ、でも先生」


「なんだ」


「離れるなと言った直後に、なんで反対側の袋小路へ進もうとしてるんですか?」


「…………」


ヴィンセントは威厳たっぷりに右足を踏み出した姿勢のまま、固まった。


「……ほう。この街の音響空間は、音の反射だけでなく、歩行者の空間認識をも歪めているようだな。私の聴覚的平衡感覚が、虚構の音波に誘導されたようだ」


「音が一切しない街で『虚構の音波』も何もないでしょう!」


ルカは呆れて声を張り上げた。


「駅の出口はあっちです! 巨大なパイプオルガンが見えるほうです!」


「……ふむ。お前の直感的空間認識力をテストしてやったのだ。合格だ、弟子」


「言い訳が苦しすぎます! ほら、手を出してください!」


ルカはいつものようにヴィンセントの大きな手をギュッと掴み、無音の街路へと引っ張っていった。


音を失い、静寂に沈む美しい楽器の街。


音が聞こえない恐怖の中で、ルカの手の中に残るヴィンセントの手袋の温もりと、引っ張られる重みだけが、二人が確かにここに生きているという「唯一の現実」だった。

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