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『星屑の軌道 — 記憶を巡る夜行列車』  作者: 天ヶ瀬 彗燦
第四章:音の途絶えた奏楽都市と、刻まれる旋律
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音を失った風と、静寂の街

穏やかな裁縫の時間が過ぎて数時間後。


窓の外の景色が、ゆるやかに変化し始めていた。


それまで続いていた果てしない灰色の荒野が終わり、車窓の向こうに、異様な形状をした巨大な建造物の群れが姿を現し始めたのだ。


「……先生、見てください。何かすごい形をした建物がたくさん見えます」


ルカが窓ガラスに顔を近づけて声を上げた。


そこに広がっていたのは、かつて世界のすべての「音」と「音楽」が集まっていたとされる、奏楽都市の廃墟だった。


街全体がまるで巨大な「楽器」のように設計されていた。 住宅の屋根には無数の真鍮製の風鈴や音管(オルガンパイプ)が取り付けられ、街の通りには巨大なハープのような弦が張り巡らされている。広場の中央には、天を突くほどの巨大なパイプオルガンの塔が鎮座していた。


かつては、風が吹き抜けるだけで街全体が美しく壮大な交響曲を奏で、人々は歌と音に包まれて暮らしていたことだろう。


だが——今のその街は、恐ろしいほどの「沈黙」に包まれていた。


カタトコ……と列車が速度を落としながら街へ滑り込んでいく。


窓の外では、荒野の激しい夜風が吹き荒れ、建物の風鈴やパイプオルガンの管を激しく揺らしていた。だが、どれほど金属や木が激しく擦れ合おうとも、音というものが一切響いてこないのだ。


風鈴は無音で揺れ、弦は無音で震え、パイプオルガンの管はただ空しく風を通すだけ。


「……音が出ない?」


ルカは首をかしげた。


「風があんなに強く吹いてるのに……鈴の音も、金属の音も、何ひとつ聞こえません」


「当然だ」


ヴィンセントがコートを羽織り、真鍮のボタンを留めながら静かに言った。


「世界から『色』が消え、『言語』が蒸発した。そして次にこの世界から奪われつつあるのが……『振動(音)』という概念なのだ」


「音という、概念……?」


「そうだ。物質が衝突し、空気が震えて耳に届く……その物理現象そのものが、世界の滅びによって骨抜きにされている。故に、どれほど器物を叩こうとも、音が生まれることはない。……ここは、世界で最も美しい歌を失った、沈黙の都市だ」


列車が「シューッ」と無音に近い排気音を漏らし、奏楽都市の中央駅へと滑り込んだ。


音を失った世界。それは、先ほどの「言葉を失った大図書館」とはまた違う、理不尽な静寂と孤独が支配する場所だった。

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