プリンの約束〜ルヴェリー〜
本編三十一話マリア1直後の物語です。
本編で語れなかった第一話プリンの話の続きです。
https://youtu.be/74y0Lg2o9Y0?si=liedwWRSpg_7Xrj-
黙祷を捧げる。
今回の戦いの報告はグライシアから聞いている。
村人たち一般人七十三名、義勇兵十三名、一般兵八十八人、魔導鎧装着者一名……………百名を超える犠牲を出してしまった…………
砦と周辺の集落の人口を足して二千人弱から見れば一割位の犠牲でこの場を守れた。
しかし、犠牲になってここに立つことのできない人間が出てしまったのも事実。私が………もっと…………
心が重い…………どうにもならなかったし、ある程度最善だったことは理解してる。でも、何かできたのではと思ってしまう。
黙祷をしながら思いが袋小路に入りかけた時。
強烈な思念が頭に響く。これは?
桃色の裏地にビッシリと文字が書かれた黒色のショートマント…………マリア師匠のマント?
魔力調和。この空間にマリア師匠の意識を溶け込ませて辺りを掌握する、私が知る限りこの世で唯一人世の狭間に身を置く事が出来る師匠の情報収集魔術。
ここにいる全ての者から、このマントを探し出す魔術。
目を開けると呆気にとられているこの場の全員の中で、一人風のように駆け抜けてマントを兵士の手から取り上げる少女。
マントを空に投げ魔力を流して魔力回路を形成してその中に飛び込み姿を消す。
後にはヒラヒラと落ちてくるマントだけ………
先程まで重い空気に包まれていたこの場の空気が一気に緩む。
何処からか笑いが広がり、この場が明るくなった。すっかり空気の変わった所で後ろから肩を叩かれる。
「改めまして。隊長、お帰りなさい」
副隊長のレイルが笑顔で私の手を取り兵舎の軒下にあるテーブルの場所に連れていかれる。
レイルに勧められるまま椅子に座ると周りには一般兵たちが遠巻きに控えて、近くには三番隊の魔導鎧装着者達がテーブルを取り囲む。
「隊長、約束の品です」
二個のプリンがレイルの腰に巻かれた小型の保冷庫から出てくる。
あの約束…………覚えてくれてたんだ…………しかも、ちゃんと冷えてるのが嬉しい。
「一個でいいよ。レイル、一緒に食べよう」
レイルに座るように促し胸元に入れてある携帯食器セットからスプーンを二本取り出して、一本をレイルに手渡す。
目の前の少し大きめのずんぐりしたガラスの容器に薄黄色のプリンが充填されている。長期間保存ができるように工夫されており、常温でも2週間は保つ長期任務中の密かな楽しみ。
私がエルフォングと戦った一週間前が、丁度支給日…………すごく楽しみだったんだ。
ちゃんと、取っておいてくれてた…………急に視界が滲む…………
「隊長………待っていました…………」
レイルの目からも私と同じようにポタポタと流れ落ちる雫…………周りの三番隊の皆も声を上げて泣き出している。
「ただいま…………みんなの所に帰ってこれたよ…………」
声にならない声を絞り出す。
ひとしきり泣いてスッキリしたので、プリンの瓶についた封を剥がして蓋を捻って開ける。
辺りに甘い香りが広がる。王女様の食事改革の中で女性軍人に一番人気のメニューは伊達じゃない。匂いだけでうっとりしてしまう。
サウスヴァルグランで有名な菓子職人の監修の上、特別に良い食材で作られた特別な一品。
まさにご褒美。たっぷり入っていて食べ応えも十分で男性のファンも多い。
スプーンを差し入れて底に溜まったカラメルをすくい上げてプリンと混ぜて口に入れると甘さとなめらかさ、程よい芳ばしい苦味が口の中で弾ける。
周りに三番隊のみんながいるのも忘れて一気に食べて、空っぽの瓶を眺めていると…………
「もう一個いかがですか?」
レイルが自分のプリンを私に差し出してくれる。
もう、太っちゃうじゃん
心の中で叫びながら
「ありがと」
満面の笑みで二つ目のプリンの封を開けた。
一年半以上お預けしていたプリンの味。ルヴェリーは喜んでくれたようで良かったです。




