偽りと真実〜ノイン〜
「デニル、貴方に話さなければいけないことがあるの」
停戦が決定し避難所から集落に戻った日の夜、私は竜鬼人として親しい友人であるデニルの家に赴き扉の前でこう伝えた。
「アルエーラ、どうしたんだい? とにかく入ってくれ、もう遅い時間だ」
いつも優しいデニルは私の事を考えてくれている……………その気持ちを私は裏切り続けてきた…………許されるものではない。私は、意を決してデニルの家に上がる。
「今日は本当に大変な一日だったが、君が望んだ形になったじゃないか。一体全体どうしたんだい?」
デニルは優しく私を労って微笑みながら椅子を勧めてくれる。私は椅子に腰掛け、そばにいるデニルの服の端を掴み言葉を紡ぐ。
「ごめんなさい。私、貴方たちを騙してた。私はアルエーラでも竜鬼人ですらない、ヴァルグランのスパイです」
私の心臓に溜まっていた棘が一斉に疼き、嗚咽が漏れて目からはボタボタと涙が溢れ返る。謝っても謝りきれない……………
彼の優しさにつけ込んで、騙し続け任務を手伝わせた……………到底許されることではない。
どんな叱責でも暴力でも受け入れよう、私はそれだけのことをした……………デニルの優しさという、かけがえの無いものを踏みにじった。
当然の報いを受けなくてはいけない。彼を見ることができない、優しかった彼を騙して利用した私はもう、彼の優しい笑顔を見る権利など無い…………
「本当の姿と名前を教えて」
彼の声が震えている……………きっと怒りに満ち、卑劣な私に侮蔑や軽蔑を感じているのだろう……………私は『誤認識』の力を解き人の姿を晒した。
「ヴァルグラン王国黒師直轄部影技隊所属のアメリーと言います」
嗚咽混じりに声を振り絞る。
唐突に彼の体温が私を包む。強く抱きしめられている………………
「アル……アメリー。君は偽ってなどいない、常に正直に真実を伝えてくれた。だが、君は辛かったね…………でもね、僕は騙されてなどいないよ。君を愛していることは何も変わらない」
デニルの言葉に私の心は壊れかけてしまう。
「愛される資格なんかないよ、任務だったんだよ。貴方も、パン屋のリースおばさんもジョンもマーカスもみんなみんな利用してたの。最低の女だよ私は」
自分でもどうにもできない、私の全てを使って騙し続けた皆の顔が浮かぶ。最低の行為をしていた、いくら任務とは言え善意を踏みにじる行為をした。
私はスパイ、諜報員。数々の任務をこなし人々を欺向くことで国を守ってきた。今回も結果は血は流れず平和が、笑顔が溢れた……………
でも、私は騙していた…………デニルという最愛の人を騙していた…………
「アメリー、僕はそうやって自分よりも他人を傷つけた事を悔いる清い心に惚れたのだよ。君の身分や役割じゃない。他のみんなもそうだと思うよ」
崩れかけた心が彼に抱きとめられる。フォーナが言っていた通り彼は赦してくれた。
「いいの、私を信じてくれるの?」
私の問いは彼の唇のなかに吸い込まれていった。




