お兄ちゃんが消えた日〜マリア〜
強烈な脱力感で目が霞む、お兄ちゃんの姿が薄くなってるように見える。
「俺の役目が終わったってことだな。国興しはなった。エクセの願いは叶えられたんだ。」
えっ、何言ってるのお兄ちゃん、嘘でしょ?
あっけにとられている間に薄まっていくお兄ちゃんの体。駆け寄ろうにも鉛のように体が重く動かない。
「楽しかったぜ。時間ね〜みたいだから詳しくはマリアに聞いてくれ。お前たちにも俺の名前預けるぜ。ハガネだ、俺達は仲間だぜ」
お兄ちゃんの真の名…………ヘルガも知らない、お兄ちゃんが全てを預ける時に掲げる大切な名。
本当なんだ…………消えちゃうんだ…………
力が抜け頬に地面を感じる、涙が溢れ前が見えない。
お兄ちゃんの優しい声が響く。
「ヘルガ愛してるぞ。皆を頼む」
気配が途切れる……………いなくなっちゃった…………
呆然としていると突然辺りに殺気が満ちる。そして響き渡る叫び声、ヘルガが咆哮をあげ自らを爪で掻きむしる。
竜の牙も防ぐヘルガの糸で紡がれたスーツが切り裂かれ、真っ白なヘルガの肌を傷付ける。血が噴き出し血まみれになるヘルガ。
エクセが飛びつき腕に絡みつく、ヴァルは後ろに回り取り押さえようと組み付く。
私もようやく体が動きヘルガに向かうが、恐らくヘルガの本能が脅威を感じ痛烈なカウンターを放ち吹き飛ばされる。
クソっ、今ヘルガを止められるのは私だけなのに触れられない。糸で弾かれてしまう、ヘルガを触れれば止められるのに…………
なんで? お兄ちゃんの愛したヘルガを助けられない…………私のお兄ちゃんの望みを叶えられない…………助けてお兄ちゃん!
その瞬間、ヘルガが止まる。何があったかはわからない、とにかくヘルガに触れて固定の魔術を行使する。
体の動きを奪った後、横に寝かしヘルガの様子を見る。
ヘルガが覚醒したので固定を解きつつ、いつでも術がかけれるようヘルガの手を握る。
「ヘルガ良かった。目を覚ました。傷は痛まない?」
エクセがヘルガを抱きとめて声をかける。
「エクセのほうが傷だらけっス。ズタボロで他人の心配すんじゃねーっス」
えっ、ヘルガじゃない?
「心配かけたっス」
ヘルガなの?
「その口調なんだ?」
ヴァンが聞く。
「ダーリンが国興しの後は、親しみやすい昼間の顔になれって、毒舌のキャラ付けをしたっス。今思い出しても、100の毒舌吐くまで終われないとか、恥ずかしい訓練だったけどダーリンのお陰で踏みとどまれたっス。アチシを守る為だったんっスかね?」
それはない!
お兄ちゃんの趣味に決まってる。
「ないない、趣味だろ」
皆も口々に言う…………とここで気が付く。お兄ちゃんがいなくなったから、私みんなとお話できない…………
アワアワしているとヘルガが私に気がつく。そっと抱きしめてくれる。
「ダーリンから聞いてるっス、慌てずゆっくり要点のみ話すっス。理論上はそれで対話できると言っていたっス」
えっ、お兄ちゃんの超翻訳の権能がなくて私の話通じるの? 言われた通りものすごくゆっくり話してみる。
「ヘ〜ルガ、へいき〜?」
ヘルガやみんなが私を見ている。
「アチシは平気…………っス。心配かけたっス、マリア、まずはダーリンがつくった国を祝うっス」
痛々しく笑うヘルガ………………この後、私はうまく気持ちを伝えることができないまま魔王を倒した残務処理が進み、お兄ちゃんの思い描いていた国が興った。
『ヴァルグラン』
皆で話し合って決めた、笑顔が溢れる国。ついにここまで来た……………でも私は言いようのない無力感を味わっていた。
みんな一生懸命私の話を聞こうとしてくれるけど、やっぱり伝わらないんだ…………お兄ちゃん、やっぱり私いらない子だよぉ…………
その日からなるべくみんなに会わないで研究室に籠り、お兄ちゃんが実施段階まで進めてくれていたホムンクルスの創造に全力を注いだ。
ある晩、久しぶりにアジトに来た。そして、お兄ちゃんの部屋でぼーっとしてたら隣のヘルガの部屋に気配を感じた。
ヘルガはあれから昼は国民の先頭に立って明るく未来を示し、夜は残党狩りや魔物に苦しむ辺境の開拓をしている。この時間に帰ってくるのは珍しい。
そっと、ドアの近くまでいるとヘルガのすすり泣く声が聞こえた。そうだよね、悲しくないわけないじゃん。私ばっかり悲しんでたけどヘルガの方が悲しいに決まってる。
コンコン
ノックをして部屋の入る。
「ヘルガ、さみしいね」
たくさん慰めたい、ヘルガはどんなにつらくっても、引き篭もってる私に声をかけに来てくれたり気にかけてくれる優しいお姉さん。
お兄ちゃんがいない今、本当に家族って言えるのはお姉さんのヘルガだけ…………そのヘルガを支えることが出来るのは私だけじゃん。
悲しいけどヴァンやエクセはいつか寿命が来る。
未来永劫、共にいられて苦しみも楽しさも分かち合えるのは不老の私ぐらいなのになんで寄り添ってあげなかったんだ。
「かぞくだよ、ないていいよ」
これからも一緒にお兄ちゃんの国を守っていこうよ、たった二人の姉妹じゃないか。
「ヘルガ、かぞく。ね〜ちゃんにあ~まえな」
なんとなく言っちゃった。ヘルガきっとお兄ちゃんに甘えたいんだ、だから私お兄ちゃんの代わりにお姉ちゃんになる。
「良いのか?」
ヘルガの甘えた声、お兄ちゃんがいなくなってから一度も聞いてなかった声。
「ま〜かせて」
お兄ちゃん、私いらない子じゃなかった。お姉ちゃんとしてヘルガを支えていくよ。
私達は抱き合い互いを認め合った。




