別れと未練〜ハガネ〜
この日、鉄塊の祈りから始まった人々が笑い合える国の建国が成し遂げられようとしていた。
逆らう者には死を容赦なく与える絶対の王。死の魔王レヴァーテ・ウイラノウスの支配する巨大な王国にレジスタンスが立ち上がった。
主要な都市の大貴族の元に市民兵や人型の巨大兵器『魔導鎧』が攻勢をかけて次々と鎮圧していく。
普段であれば、魔王の死の力によって容易く収まる騒ぎだが、死の力は封じられている。
俺の後方では、祈りの聖女エクセが玉の汗を垂らしながら強大な魔王の死の力を願いの力で封印し続けている。
その隣で大男のヴァルが、魔力を『鉄塊ヴァルアード』に流し込んでいる。死を自在に操る魔王を滅する為に鍛えられた剣の力を最大限まで引き出していく。
その二人を守る為、巨躯の鍛冶屋ヴァンとメカ娘のグレンカイザーが大盾を持ち魔王の放つ無数の魔力弾を弾いている。
俺の隣では相棒の美女、最愛のヘルガが両手の指から糸を出して魔王を牽制し、糸を操り獲物の動きを鈍らせていく。
俺も間合いを取りながら、魔王の隙を作るべくヘルガと作った『糸繰り』という神の権能で糸を繰り出していく。
俺達のたちの前では、魔王と全力で殴り合うローブ姿の大賢者マリア。強靭なマリアの防御魔術を持ってしても無傷とは行かず、血を流しながら先陣を切って闘っている。
一進一退の攻防に突然終わりが来る。糸が絡み、魔王のバランスが崩れた。一瞬の隙に、マリアが全力で魔王を羽交い締めにする。
そこにヴァルが、渾身の力でヴァルアードを魔王の脳天に振り下ろす。まるでバターを切るかのように真っ二つになりあっさりと塵とかす魔王。
皆が倒れ込む。グレンカイザーはエクセを庇い、魔力弾の直撃を受け機能停止中。ヴァンも傷だらけ、マリアとヴァルは魔力欠乏でほぼ動けない。
その時、思いもよらないことが起こる。俺の姿が薄れていく。皆、唖然とし何も出来ない。
そうか、俺はエクセのこの世界に人々が笑い合える国を作る祈りに呼ばれたんだっけ。この瞬間、それが成し遂げられたのか。
「俺の役目が終わったってことだな。国興しはなった。エクセの願いは叶えられたんだ。」
皆が唖然としているが、俺は言葉を続ける。
「楽しかったぜ。時間ね〜みたいだから詳しくはマリアに聞いてくれ。お前たちにも俺の名前預けるぜ。ハガネだ、俺達は仲間だぜ」
愛しいヘルガに近づき抱きしめて、いつものように唇を重ねる。
「ヘルガ愛してるぞ。皆を頼む」
この世界から俺という存在が消える。恐らくこれから元の俺の日常が帰ってくるんだろう。
でも、三年か…………長いようで短く、短いようで長い…………濃かったなぁ〜。
エクセの笑い合える国を作りたいという願いに、強面のヴァルが荒くれどもを率いて加わり始まった国興しの旅。
死の魔王も手を出せない混沌と自由の怪異だったヘルガを仲間にし、終焉をもたらす貪欲なる魔神フォーアと分かり合い。
世に文明の火を灯す叡智の化身ヴァンとの出会いから人型魔導鎧の作成が始まり、死の街で俺の永遠の妹マリアと合流。
地下都市リトルヴァルグランの成立、レジスタンス結成。
どれもこれも血湧き肉躍る経験だった…………魔王も倒した、後は国が…………俺達の皆が笑い合える国が興る…………見たかったなぁ〜。
さっきの皆への言葉はカッコつけ、本当は皆と笑い合える場に俺もいたかった…………泣き叫びたかった……………ヘルガ…………頼んじまってすまねぇ。
俺が泣き叫ぶ姿なんか見せたくないから、あんなこと言ってごめんな。
ヘルガ会いてぇよぉ~
俺の言葉は暗闇に包まれ、気がつくと身覚えのある場所に立っていた。
秋の風を感じる。
前を向け俺、俺らしく生きろ俺。
ヘルガに情けねぇなんて言われない漢として前に進むんだ。




