ゲロ甘
夏休み三日目。何の予定も無く、テキトーに散歩していた。
そして気付けば、チェーン店のコーヒーショップで木田さんとコーヒーを飲んでいる。僕は普通のアイスコーヒーだけど、木田さんが飲んでいる砂糖とミルクが大量の物をコーヒーと呼んでいいものかどうか。
「いやぁ、奇遇奇遇。まさかアキとバッタリ出会うなんてさ」
「意外だよ。木田さんでも、一人でいる時があるんだ」
「四六時中誰かとツルるんでるわけないだろ。一緒に遊ぶのは楽しいけど、一人の時間だって必要だ」
「てっきりバーベキュー三昧だと思ってた」
「お前はいつまでアタシらを不良だと思ってんだよ。見た目は派手でも、悪い事なんか今まで一度もしてねぇよ」
そう言うと、木田さんはピンク色のチョコが掛かったドーナツを一口齧った。コーヒーもそうだけど、食べるドーナツも甘ったるそうだ。甘党なのかな。
ストローでアイスコーヒーを飲みながら、木田さんの耳にあるピアスを眺めた。ピアスって粒型だけじゃなく、棒状の物もあるんだ。あの場合、どうやって穴を開けてるんだろ。
「……フッ。アタシの事、見過ぎだろ」
「凄いピアスしてるね」
「ピアス……あ!? アタシに見惚れてたんじゃねぇのか!? なんだよ、期待させやがって……!」
「なんで耳に穴なんか開けるの?」
「そりゃピアスする為さ」
「なんでピアスを?」
「オシャレする為に決まってんだろ。アタシらの歳の連中は、みんなピアス穴開けてるもんだよ」
「僕は開けてないよ?」
「そりゃそうだ。開けてたら解釈違いだ。でも、そうだな……髪の色くらい染めてみてもいいんじゃないか?」
木田さんはテーブルから身を乗り出して、僕の髪を触り始めた。
「アタシと同じ金髪でもいいけど、ちょい明るめな茶髪でもいいかもな。それから髪をちょいセットして。ついでに眉毛も細くしちまうか。そうなりゃ着てる服の系統も変えた方が良さげだな」
「別に僕はこのままでいいけど……」
「何言ってんだ。身長は低いけど、お前は光る原石だ。少し整えるだけで、良い男になるよ」
「なら尚更、今のままでいいよ。別に良い男になりたいと思ってないし」
「……正気か?」
「どうしてそこで正気を疑うのさ」
木田さんはドカッと自分の席に座ると、訝し気な表情で僕を見つめ、やがて何かに気付いてニヤけた。
「あぁ、そうか。お前童貞か」
「そうだけど」
「マジか! てっきりいつも傍に居た女に抱かれてると思ってたのに」
「キリコの事?」
「ああ。入学初日からの有名カップルなんだぜ、お前ら。いっつもくっついてばっかだから、どっちにも近付き難いってな。それが最近じゃ、すっかり疎遠になっちまったもんだから、我先に状態さ」
「へぇ。やっぱりキリコってモテるんだ」
「バ~カ。お前もモテてんだよ。けど妙な事に、お前と仲良くなろうとした奴には必ず脅迫文が送られてくるんだ」
「脅迫文? 木田さんにも届いたの?」
「もちろん。まぁ、アタシはビビリじゃねぇからな。けど、結構真面目にヤバそうだったぞ。なんていうか、文字に怨念が染み込んでるっていうか。とにかく、お前も気を付けろよ。お前はそういう奴に狙われてるんだからな」
脅迫文か。変な事をする人もいたもんだ。キリコも送られてたのかな?
いや、木田さんの話では、僕がキリコと【疎遠になった後】から脅迫文が送られてくるようになった。ならキリコには送られていないか……なんか、駄目な事を想像しちゃいそうだ。
「そんで実際、なんで疎遠になったんだ? お前ら二人、結構ラブラブだっただろ」
「……分からない」
「は?」
「分からないんだ。前まで一緒に居ても、居心地が良いとしか思えなかった。それが今は……胸が、痛くなるんだ」
「……あー、ゲボ吐きそ」
「え、大丈夫?」
「お前らさ、なんで恋愛映画みたいな事してんだよ。ピュアッピュアで甘ったるいわ」
「じゃあいいじゃん。木田さん甘いの好きでしょ?」
「テメェ、煽るなよ……でも、そうだな」
席を立った木田さんが、僕の傍に来ると、ガッと肩に腕を回してきた。
「アタシが初心なお前に、色々教え込んでやるよ」




