成長
「食後の耳かきしてあげる」
「いや、晩ご飯前にしたじゃん」
キッパリ断ると、キリコは不機嫌そうに頬を膨らませた。変な弱点を教えちゃったな。
「僕が洗い物やるから、先にお風呂行っていいよ」
「そんな見え透いた嘘つかなくても……」
「ごめん。どうして嘘だと思ったの?」
「覗くんでしょ?」
「覗かないよ?」
「なんで?」
「あれ、おかしいな。全然会話が成り立ってないや」
食器を洗い場に運び、洗剤を一滴垂らしたスポンジを泡立たせる。見る見るうちに泡が出てきて、泡がスポンジを持つ手を覆ってしまった。なんか分かんないけど、滅茶苦茶泡立つと楽しいんだよな。
「そういえば、お義母さんとお義父さんは? 今日は二人とも遅いね」
「ああ。今日はどっちも帰ってこないよ。父さんは休み明けの明後日まで。母さんは明日の午後くらいには帰ってくるんじゃないかな?」
「そっか……じゃあ今日は、私と君の二人っきり、なんだ……」
「そうだよ~。休日出勤って大変だよね~」
僕とキリコが使った食器。同じ食器なのに、汚れ具合が天と地の差だ。煮魚だったよな、今日。なんで皿に煮魚の汁が一滴も無いんだ? こう綺麗だと洗う必要あるか疑問だな。
「ねぇ、お風呂行ってるから」
「うん。どうぞ」
「……待ってるから」
意味深な事を言い残し、キリコはお風呂へ行った。たまにこういう所あるよな、キリコって。キリコの一言一句に秘められた意味を一々考えてたら頭がショートするよ。
食器を洗い終え、拭き終わった食器類を並べた。キラッキラに輝いてる。こういうので喜ぶの、ちょっと変態っぽいな。
「……長いな」
キリコがお風呂に行ってから一時間以上経ってる。女性の入浴は長いらしいけど、一時間は長過ぎるだろ。
「まぁ、もう少ししたら出てくるか」
待ってる間、テレビでも観る事にした。土曜日の夜だってのに、面白い番組が無いな。グルメ番組やってるけど、満腹状態で観るとキツイな。この時間はみんな晩ご飯を食べた後か最中だし、放送の時間帯間違ってんじゃないか?
グルメ番組が終わり、気付けば夜の八時。キリコがお風呂に行ってから二時間経過してる。
「長過ぎだろ。いつまで髪洗ってんだ?」
それから一時間後。お風呂に行ってから三時間が経過した頃、ようやくキリコがリビングに戻ってきた。
何故か不機嫌な状態で。
「なんで来なかったの?」
「なんで行かなきゃいけないの?」
「待ってるって言ったじゃん」
「言ったね。うん。言った言った」
「なんで来なかったの?」
「だからなんで行かなきゃ駄目なの?」
「親が不在。若い男女が一つ屋根の下二人っきり。一方が誘ってる。幼馴染。理由がこれだけあるんだよ?」
「どんだけ数式並べてもイコールが無きゃ答えも導き出せないでしょ?」
「どうして分かんないかなー?」
「……あと、言おうか迷ったけどさ。なんでバスタオル一枚なの?」
今のキリコの姿はバスタオル一枚だけ。着替えを忘れたのだろうか?
いや、お風呂に行く時にバスタオルと一緒に着替え持ってったな。
じゃあ、なんでだ?
「……見過ぎ」
「え?」
「そういう年頃なのは分かるけど、あんまりジロジロ見られると……恥ずかしい、から……」
「僕達にとっては今更じゃない? 小さい頃、よく一緒にお風呂入ったじゃん」
「今は別でしょ……お互い、その……大人っぽく、なってるし……」
「確かに。キリコ凄く背が伸びたよね。羨ましいな~。僕なんてチンチクリンのままだよ」
「そんな事ないよ」
「いや、慰めはいいから」
「背は確かに小さいままだけど……下は、大きくなってるでしょ……?」
「下? あぁ……うん、ちょっとはデカくなったかな」
「デカッ……!? デ、デッカいの……?」
「うん。じゃあ、僕お風呂行くから」
盲点だった。背は確かに大きならなかったけど、その下。
足はちょっとデカくなったな。これを機に、大人っぽいブーツなんか買っちゃおうかな。




